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20 フロリアン伯爵(※リヴィエラ視点)

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 父のような厳格さも、バーヴァ伯爵のような寛大さも、相容れぬ二つを持ち合わせたような新しいフロリアン伯爵に、私は戸惑った。


「当然だけど、ありがとう」


 ソニアの声は、怒ったままだ。
 そんなソニアを気にも留めず、フロリアン伯爵マックス・アーカート卿は壁際から離れ、こちらに体を向けた。


「私は、先々代のフロリアン伯爵──そこにいるレディ・ソニアの父親の従兄弟にあたるダウディング伯爵の婚外子として生まれた。母はエルドン侯爵夫人。連れ合いに先立たれた独り者同士で、後ろ暗い生まれではない。だが、どちらも既に後継者はおり、彼らにとって私は邪魔者だ。ただ両家の恥とさせないがために、貴族として当然の教育を施された。こうしてどこかの穴を埋める事になれば、益に転じるとも考えたのだろう」


 彼が名乗るだけでなく唐突に身の上話を始めた理由は、明らかだった。

 私を納得させるため。
 勘当された私に、からわず貴族として生きる道を示すため。

 彼は冷たいように見えて、義人だった。


「妥当ですな」


 バーヴァ伯爵の相槌に、彼はそちらを見ずに頷く。


「それに、あなたにいくら罪がなかろうと、フロリアン伯爵家の醜聞は生涯つきまとう。単身放り出されれば只では済まない」

「そうよ。守ってくれる人が必要だわ。フラカストロ伯爵がそうすべきだったのに……っ」

「部外者を持ち出すだけ時間の無駄だ」


 ソニアを冷たく黙らせて、彼はまた私を見つめた。
 まるで、物を見るような、心の伴わない眼差し。

 
「あなたはまるで、柵を越えて落下する赤ん坊のようだ。床に打ち付けられて泣き、打ちどころが悪ければ命を落とす」

「マックス……!」


 ソニアが彼を名前で呼んだ。
 親族で年も近いから、私が来る前にすでに打ち解けていたのかもしれない。

 
「あなたが自身を粗末に扱う行為は、命を与え賜うた神への冒涜だ」

「よく言ったわ……!」


 相性が悪いようで息の合う、彼とソニアの掛け合い。
 それが少し微笑ましくて、心の重荷が少し減った。


「だが」


 新しいフロリアン伯爵の目線が、ここでやっとバーヴァ伯爵へと流れた。


「結婚するとなれば身分は必要になるかもしれない」

「そうよ! どこの馬の骨とも知れない野蛮な男になんて──」


 憤るソニアに、ついに彼は眉を顰めた。


「それを少しの間黙らせられないか、バーヴァ卿」

「なによ……っ」

「ハハッ」


 反目する二人の板挟みだというのに、バーヴァ伯爵が大らかに笑った。


「?」


 バーヴァ伯爵の笑い声は、いつも、明るい未来を約束してくれる。
 ソニアの肩を抱きながら、バーヴァ伯爵は彼のほうへと足を進めた。ソニアがかなり戸惑って、不満を顕わにして二人の伯爵を交互に見遣る。


「これでレディ・リヴィエラを守る騎士が増えた。貴殿のような男がフロリアン伯爵となって本当に良かった! フロリアン伯爵家は安泰だ! 改めて、末永くよろしく」

「……」


 バーヴァ伯爵の差し出した手を暫し見つめ、新しいフロリアン伯爵が事務的に握り返した。

 ソニアの生家がきちんと守られていく。
 そう約束されたようで、私は嬉しかった。

 そして、神様が私を生かし続けた事を、受け止めなければならなかった。
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