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13 重く静かな晩餐

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 赤い夕陽がついに沈み、夜が来た。

 アルセニオと執事が今後に備え、執務室に篭った。
 私は、大階段に座り込み無表情で泣き続けるリヴィエラに寄り添っていた。その腰を上げ、リヴィエラをメイドに託し、私室に戻る。

 続き部屋の、ベビーベッドの中で眠る、可愛いカルミネ。
 子守りのメイドは傍に椅子を置いて待機していた。
 
 特に言葉は交わさなかった。

 全体に、重苦しい空気が張り詰めていた。

 フロリアン伯爵家の当主モレーノは逮捕され、宗教裁判にかけられるのだ。兄が退くのは良い事でしかない。それでも、汚点には違いない。

 カルミネの寝顔を見ていたら、胸が締め付けられた。
 愛しさだけではない。

 カルミネは二親を失う。
 私より重い試練を背負う、穢れの無い赤ん坊。


「愛してるわ」


 頬に指を当て、囁いた。
 ベビーベッドに屈みこみ、額にキスをして部屋を出た。

 アルセニオとリヴィエラと私は、ディナーの席で再び顔を合わせた。


「……」


 私はお腹が空いていた。
 リヴィエラは、食欲がないかもしれない。でも食堂には来てくれたのだから、無理なく口をつけてくれたらいいと思う。


「フロリアン伯爵家の厨房は名人ぞろいだな」

「ええ」


 アルセニオが場を和まそうと声をかけてくれた。
 そして、見つめ合う。
 なにかを促されている。


「……ああ」


 リヴィエラは奥様じゃないし、アルセニオはお客様だから、私がまとめないといけないのね。


「いただきましょう」


 静かなディナーになった。
 私もアルセニオもリヴィエラが心配で、気を付けて見ながら食事を続けた。
 リヴィエラは意外にも、食欲そのものはあるようだった。ただ少し様子がおかしい。特に珍しいメニューというわけでもないのに、一つ一つを驚いたような顔をして食べていた。

 デザートが並んだ頃、アルセニオが慎重に口を開いた。


「ソニア。兄上を架空の集会に呼び出したと言ったが」

「ええ」

「なにもない場所にただおびき出したわけではない」

「そうなの」

「……」

「なんなの?」


 私は手を止めて尋ねた。
 同じようにリヴィエラも手を止めて、アルセニオを凝視した。


「尋問が行われている」

「!」


 私よりリヴィエラが衝撃を受けている。


「私はこれから合流する。立ち合い兼、証言を求められているからね。朝には戻れるよ」


 アルセニオが私を意味ありげに見つめた。


「君も来るかい?」

「行くわ」


 即答した。
 リヴィエラが狼狽えたように私を見るので、微笑んで、優しく声をかける。


「あなたはゆっくり休んで」

「でも……」

「私にはフロリアン伯爵令嬢としての義務がある。あなたは解放されたのよ」

「ご安心ください、レディ・リヴィエラ。朝までにはきちんとあなたの大切なソニアを送り届けますよ」


 アルセニオも軽い調子でリヴィエラを励ます。
 そう、リヴィエラは自由になった。

 穏やかな夜を過ごしてほしい。

 優秀で頼れるメイドたちがいるから、リヴィエラもカルミネも安心して残して行ける。

 食後。
 私は身支度を整え、アルセニオと馬車に乗り込んだ。
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