お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ

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10 レディ・リヴィエラは自由になる

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「そ・れ・で・も、だ。スージーは危険すぎる賭けに出た。そこで私は、彼女に何某かの〝切り札〟があるのではと思い至った」

「切り札?」

「ああ。そして、見つけたよ」


 もう何が出ても驚かないわよ。
 兄は悪魔に魂を売っていたんだもの。


「一昨年、スージーは結婚している。相手はフロリアン伯爵だ。二人は酔った勢いで秘密結婚を遂げていたんだよ!」

「──」


 驚かないつもりだったけれど、驚いた。


「どういう事かわかるかいッ?」


 アルセニオがなぜが嬉しそう。


「ええ。兄が娼婦と結婚してた」


 私は地獄みたいな声で繰り返した。


「そう! これはこの件で唯一の希望の光だよ! 君のイカレた兄上とフラカストロ伯爵家の令嬢レディ・リヴィエラの結婚は無効なんだ!!」

「──本当だわ!!」


 私は覚醒し、椅子を蹴って立った。

 どうして言われてすぐに気づかなかったのかしら。
 スージーが妻で母親なら、リヴィエラはただの未婚の囚われの姫だわ。


「そうだよ、ソニア! 君のリヴィエラは自由だ!」

「ギャンギャン泣いただけで済んだのよ! やったわ!!」

「辛かっただろうが、本当にそうだよ! 伯爵と娼婦が初夜を過ごした宿の女将が『貴族令嬢を浮浪者に襲わせ身も心も家の名誉も穢してやる、乙女の名はリヴィエラ』と歌っているのを聞いて覚えていたんだ! あまりに酷すぎるってね!!」

「兄を火炙りにしてッ!!」


 リヴィエラ。
 無事でよかったわ。

 残酷な事をするために結婚しただなんて。
 兄は、狂ってる。


「フロリアン伯爵家はどうなります?」


 古いメイドが落ち着いた声で尋ねた。
 アルセニオが私を軽く抱きしめながら答えた。


「ソニアなら女領主も務まるだろう。だが私との結婚があるから、慎重に考えなくてはならない。いずれにせよソニアの希望によるが、希望通りになるかどうかは、神に委ねるしかない」

「そうですか。実は御主人様は、亡くなられる前に法的な取決めをされたのです。お嬢様はもちろん、使用人でも家の者が不可解な怪我や死、姿を消すなどの事があった際、あの小僧は領主失格ということで遠縁のマックス・アーカート卿という方を後継者とすると」


 ……なるほど。
 だから使用人たちが兄より強かったのね。

 アルセニオはわずかに首を傾げた。


「マックス・アーカート?」

「はい。今回、その方が……という事には?」

「調べてみよう。場合によっては、ソニアごと全員、一旦は私のところへ。それから真っ当な主の元へ紹介するよ」

「ありがとうございます」

「ソニアは私の妻になる」
 

 アルセニオが私をぎゅっと抱きしめた。


「私は悪魔の妹なのに、強気ね」

「君は悪くない。兄上が勝手に人の道を外れただけだ。むしろ早く引き離して君を守りたい。守れていると実感したいよ」


 脳天にキスされた。
 もう充分、守られている。

 だからこれから何が起きても、やっていける。


「リヴィエラに報告しなくちゃ」

「一緒に行こう」

「泣かれるわよ。彼女は清楚で善い人なんだから」

「君がついてる」

「私も参ります。気付け薬が必要かもしれません」

「私も」

「私も。女が多いほうが安心でしょう」
 

 私とアルセニオとメイド8人で、囚われの姫リヴィエラの元へ向かう。


「いい? 自由自由って無神経に騒がないでね? 繊細なんだから」


 どやどやどや……
 そんな私たちに怯えないといいけど。

 まあ、無理でしょうね。
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