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7 あなたの幸せな人生
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「ごめんなさい」
「もういいの! こんな人生もう嫌よ! だけど、神様から頂いた命を自分で断つなんてできないわ。だから修道院へ行くの。だからその前に、お金になるものは売って、すべて寄付するの……!」
「リヴィエラ……」
私を無視してリヴィエラは荷造りを再開した。
メイドたちは、困っていると同時に、可哀相な若い奥様に胸を痛めている。
いくら年の功といっても、メイドたちに伯爵夫人は止められない。
だから血相変えて私を呼びに来たのだ。
「リヴィエラ」
「あなたにはお世話になりました。本当に感謝しているし愛しているけど、もうここに私の居場所なんてないのよ! 放っておいて!!」
「……!」
右往左往するリヴィエラの背中から、私は羽交い絞めにするように抱きついた。というか、羽交い絞めにした。
「ソニア……!」
「私たちは義姉妹なのよ。あなたを助ける方法を見つけてくるから、早まらないで」
「あなたの人生は私のためにあるのではないのよ。あなたはバーヴァ伯爵と幸せになればいいの。それだけでいいのよ!」
リヴィエラは怒っている。
胸が痛い。
けれど同時に、彼女は押し付けられた役割から自由になろうとしているのが、いい事に思えた。
こんなに、力尽くで抑え込まなければいけないほどの力がリヴィエラの中にある事が、嬉しかった。
「あなたの人生も、あなたのためにあるのよ」
「どこが!?」
「神様はあなたを幸せにするために、あなたを悪魔と戦わせたの。あなたは、勝ったのよ」
「勝てないわ……ッ」
悲鳴のような声だった。
その時、周りで手をこまねいたメイドたちがリヴィエラの前に回り込んだ。手を強く握る者、跪き体を摩る者、目を覗き込む者。みんなでリヴィエラを励まし始めた。
「奥様、今が踏ん張り時です」
「そうですよ、奥様。もうじき、すべてよくなりますよ」
「膿を絞り出している時がいちばん痛いんです」
「……!」
腕の中で、リヴィエラが力を抜いた。
私も腕の力をゆるめて、それから彼女の腕を摩った。
「あなたの気持ちがわかった。離婚して、いい人と再婚する方法を考えましょう。あなたの人生はあなたのためにあるし、あなたは幸せになるために生まれたのだから」
「……っ」
腕を撫でおろした先で、リヴィエラが私の指を握った。
メイドの一人が、俯いたリヴィエラの涙を優しく拭いた。
私が促すと、リヴィエラがこちらを向いた。
「ソニア……」
リヴィエラから私に抱きついて来た。
この残酷な結婚て、私たちが姉妹になるための運命だったんじゃないかって、本気で思ったわ。
私はリヴィエラを抱きしめた。
「でも……っ」
リヴィエラの声が涙に震えている。
「寄付は、しようと思うの……いいきっかけになったわ……」
「ええ。あなたがしたい事をして」
何度も、何度も。
リヴィエラは頷いた。
それから穏やかに、メイドたちに優しく指示を出し始める。
そこには、心優しい、若い伯爵夫人の姿があった。
改めて兄を軽蔑した。
「もういいの! こんな人生もう嫌よ! だけど、神様から頂いた命を自分で断つなんてできないわ。だから修道院へ行くの。だからその前に、お金になるものは売って、すべて寄付するの……!」
「リヴィエラ……」
私を無視してリヴィエラは荷造りを再開した。
メイドたちは、困っていると同時に、可哀相な若い奥様に胸を痛めている。
いくら年の功といっても、メイドたちに伯爵夫人は止められない。
だから血相変えて私を呼びに来たのだ。
「リヴィエラ」
「あなたにはお世話になりました。本当に感謝しているし愛しているけど、もうここに私の居場所なんてないのよ! 放っておいて!!」
「……!」
右往左往するリヴィエラの背中から、私は羽交い絞めにするように抱きついた。というか、羽交い絞めにした。
「ソニア……!」
「私たちは義姉妹なのよ。あなたを助ける方法を見つけてくるから、早まらないで」
「あなたの人生は私のためにあるのではないのよ。あなたはバーヴァ伯爵と幸せになればいいの。それだけでいいのよ!」
リヴィエラは怒っている。
胸が痛い。
けれど同時に、彼女は押し付けられた役割から自由になろうとしているのが、いい事に思えた。
こんなに、力尽くで抑え込まなければいけないほどの力がリヴィエラの中にある事が、嬉しかった。
「あなたの人生も、あなたのためにあるのよ」
「どこが!?」
「神様はあなたを幸せにするために、あなたを悪魔と戦わせたの。あなたは、勝ったのよ」
「勝てないわ……ッ」
悲鳴のような声だった。
その時、周りで手をこまねいたメイドたちがリヴィエラの前に回り込んだ。手を強く握る者、跪き体を摩る者、目を覗き込む者。みんなでリヴィエラを励まし始めた。
「奥様、今が踏ん張り時です」
「そうですよ、奥様。もうじき、すべてよくなりますよ」
「膿を絞り出している時がいちばん痛いんです」
「……!」
腕の中で、リヴィエラが力を抜いた。
私も腕の力をゆるめて、それから彼女の腕を摩った。
「あなたの気持ちがわかった。離婚して、いい人と再婚する方法を考えましょう。あなたの人生はあなたのためにあるし、あなたは幸せになるために生まれたのだから」
「……っ」
腕を撫でおろした先で、リヴィエラが私の指を握った。
メイドの一人が、俯いたリヴィエラの涙を優しく拭いた。
私が促すと、リヴィエラがこちらを向いた。
「ソニア……」
リヴィエラから私に抱きついて来た。
この残酷な結婚て、私たちが姉妹になるための運命だったんじゃないかって、本気で思ったわ。
私はリヴィエラを抱きしめた。
「でも……っ」
リヴィエラの声が涙に震えている。
「寄付は、しようと思うの……いいきっかけになったわ……」
「ええ。あなたがしたい事をして」
何度も、何度も。
リヴィエラは頷いた。
それから穏やかに、メイドたちに優しく指示を出し始める。
そこには、心優しい、若い伯爵夫人の姿があった。
改めて兄を軽蔑した。
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