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6 奥様の果てなき悲しみ
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全員ができるだけ平穏を維持しようと努力して、それなりに成果を出している。そんなカルミネ到来14日目に事件は起きた。
「大変です! お嬢様! お嬢様!!」
「え、なに……?」
「?」
子育て経験のあるメイド監視の元、スージーにあやされるカルミネを眺めて微笑んでいたところを呼ばれた。
メイドとスージーに目配せをして、カルミネの頬にふれてから、急いで廊下に出る。
「お嬢様!」
声のする方へ小走りで向かう。
私を探していたらしいメイドの顔を見て、嫌な予感がした。
「どうしたの!?」
彼女は兄の結婚後リヴィエラ付になったメイドだ。
「お嬢様! 来てください、奥様の様子が……!」
頷いて全力疾走よ。
もう、最悪の場面を予想したわよ。
それでリヴィエラの部屋についたら、彼女は一心不乱に荷造りをしていた。
「……はぁ、……はぁ、……はぁッ」
「奥様……!」
「放っておいて! もういいの!」
リヴィエラにしては、大きな声。
「旅行!?」
「!」
私も声を張り上げた。
パッと振り向いたリヴィエラは、やっぱりまた泣き腫らした目で私を見つめた。
ああ、胸が痛い。
「どうしたのよ、リヴィエラ。荷造りなんて一人でやる事ないわ」
「そうじゃないの……違うの、ソニア」
絶望と怒りで表情を失っている。
散らかった部屋の中で蹲るようにして荷造りをするその手が、震えている。
私は急いで彼女の傍に跪いた。
それから肩に手を置いて、その瞳を見つめた。
「リヴィエラ」
彼女は目を逸らした。
正確には、そこにいない相手を睨んでいた。
「お父様に手紙を書いたの。そうしたら『庶子の一人や二人で騒ぐな』とお叱りを頂いたわ」
「そんな……!」
親子ほどではなくてもかなり年の離れた相手と結婚させる父親なだけあるわ。傷ついた娘に対して、無慈悲すぎる。
「『離婚は許さない、そんな恥晒しはフラカストロ伯爵家に必要ない』との事です。伯爵夫人としての務めが果たせないなら、修道院か天国へ行けと」
「はあっ!?」
無慈悲を越えた。
兄といいフラカストロ伯爵といい、とんだ屑野郎どもめ。
どうなってるのよ。
アルセニオ以外にまともな男はいないの?
「落ち着いて、リヴィエラ。あなたが辛いのはわかってる、でも──」
「わかる!? 夫が他の人に産ませたこどもを気に留めず、その夫の跡継ぎを産めと命令されたのよ!? それができなければ神様のところへ行けと! 我慢できないなら、自分で命を断てと……!!」
親に見棄てられた。
リヴィエラは最初から、結婚の道具でしかなかった。
私は無神経だった。
「大変です! お嬢様! お嬢様!!」
「え、なに……?」
「?」
子育て経験のあるメイド監視の元、スージーにあやされるカルミネを眺めて微笑んでいたところを呼ばれた。
メイドとスージーに目配せをして、カルミネの頬にふれてから、急いで廊下に出る。
「お嬢様!」
声のする方へ小走りで向かう。
私を探していたらしいメイドの顔を見て、嫌な予感がした。
「どうしたの!?」
彼女は兄の結婚後リヴィエラ付になったメイドだ。
「お嬢様! 来てください、奥様の様子が……!」
頷いて全力疾走よ。
もう、最悪の場面を予想したわよ。
それでリヴィエラの部屋についたら、彼女は一心不乱に荷造りをしていた。
「……はぁ、……はぁ、……はぁッ」
「奥様……!」
「放っておいて! もういいの!」
リヴィエラにしては、大きな声。
「旅行!?」
「!」
私も声を張り上げた。
パッと振り向いたリヴィエラは、やっぱりまた泣き腫らした目で私を見つめた。
ああ、胸が痛い。
「どうしたのよ、リヴィエラ。荷造りなんて一人でやる事ないわ」
「そうじゃないの……違うの、ソニア」
絶望と怒りで表情を失っている。
散らかった部屋の中で蹲るようにして荷造りをするその手が、震えている。
私は急いで彼女の傍に跪いた。
それから肩に手を置いて、その瞳を見つめた。
「リヴィエラ」
彼女は目を逸らした。
正確には、そこにいない相手を睨んでいた。
「お父様に手紙を書いたの。そうしたら『庶子の一人や二人で騒ぐな』とお叱りを頂いたわ」
「そんな……!」
親子ほどではなくてもかなり年の離れた相手と結婚させる父親なだけあるわ。傷ついた娘に対して、無慈悲すぎる。
「『離婚は許さない、そんな恥晒しはフラカストロ伯爵家に必要ない』との事です。伯爵夫人としての務めが果たせないなら、修道院か天国へ行けと」
「はあっ!?」
無慈悲を越えた。
兄といいフラカストロ伯爵といい、とんだ屑野郎どもめ。
どうなってるのよ。
アルセニオ以外にまともな男はいないの?
「落ち着いて、リヴィエラ。あなたが辛いのはわかってる、でも──」
「わかる!? 夫が他の人に産ませたこどもを気に留めず、その夫の跡継ぎを産めと命令されたのよ!? それができなければ神様のところへ行けと! 我慢できないなら、自分で命を断てと……!!」
親に見棄てられた。
リヴィエラは最初から、結婚の道具でしかなかった。
私は無神経だった。
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