お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ

文字の大きさ
上 下
2 / 31

2 婚約を破棄されました

しおりを挟む
「はっ?」


 え、ちょっと待って?
 そんな事ある???


「んぎゃあああああっ!」

 
 混乱が私にサッと赤ん坊を抱かせた。
 ただし、泣き止まなかった。

 
「はんぎゃあっ!」


 パンチも。
 痛くはないけど、複雑な気持ちよ。


「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」

「はあっ!?」

「はぎゃあっ!」


 大混乱よ。
 甥が泣きながら叩くし、鼻の穴に指を突っ込んでくるの。その気がなくても!

 そしてその指が口に突っ込まれるのよ。
 

「安心しろ。私生児を産んだ形のお前に、貴族令嬢としてのまっとうな人生は見込めないが、その点は私が一生面倒を見る」

「そういう問題ッ!?」

「ぎぇやああっ! ガッガッガッ」


 不満よね。
 ええ、不満よね。

 あなただって好きで非嫡出子として生まれてきたわけじゃないものね。
 私だって、好きで婚約破棄されたわけじゃないのよ。

 こっちも泣くわよ!
 

「そんな……っ、賠償金……!? 婚約を、破棄……ッ!?」


 アルセニオ。
 バーヴァ伯爵アルセニオ・スカパニーニ。

 彼との間には、絆があると思っていたのに。

 絆といえば、忘れちゃいけないのは兄の妻よ。
 親の決めた結婚に従った、真面目なイイコのリヴィエラ。
 私の一才年下の、義姉。


「この事を、リヴィエラは……!?」

「お前が妊娠し、婚約破棄されて、私生児を産む。そう言うさ」

「では御自分が裏切った事も、私が清廉潔白である事も隠して、私にすべて擦り付けるおつもりなのですか……!?」

「あまりガヤガヤ言うな。私は愛する女を亡くし悲しんでいる。息子は産みの親が死に、育ての母が不満ばかり洩らし怯えて泣き叫んでいる。泣きたいのはこっちだ」

「ほぎゃあああぁぁぁっ!」

「お前がそこまで物分かりが悪いとは思わなかった。教育を間違えたな」


 婚約破棄。
 腕の中で泣き叫ぶ赤ん坊。
 独善的で諸悪の根源な兄。

 これでまともに頭が回ればアッパレよ。


「お兄様?」


 ポロポロと涙を零しながら、私の口が動いた。
 意外なほど、冷静そうな声だった。


「私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」

「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」


 守る?
 この場合、守られるのは兄の体面だけでは?

 私生児を身籠って婚約を破棄されるような令嬢がいるという事は、却って不名誉なのではないの?


「養子に出して、援助し続けるとか、方法が……」

「ソニア。もう決まった事だ。お前の妊娠は告げたし、婚約は破棄された。こちらからの賠償金を先方は受け取ったんだ」

「……」


 私は妊娠していないし、それ以前に不貞も働いていない。
 あと、そもそも賠償金て?
 この場合、慰謝料では……?

 
「あとはお前が頷くだけだ。我を張るな」

「我……?」

「グがああっっ!! ふんぎゃああぁぁぁっ!!」


 なんというか、絶望よ。
 
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

元カノが復縁したそうにこちらを見ているので、彼の幸せのために身を引こうとしたら意外と溺愛されていました

おりの まるる
恋愛
カーネリアは、大好きな魔法師団の副師団長であるリオンへ告白すること2回、元カノが忘れられないと振られること2回、玉砕覚悟で3回目の告白をした。 3回目の告白の返事は「友達としてなら付き合ってもいい」と言われ3年の月日を過ごした。 もう付き合うとかできないかもと諦めかけた時、ついに付き合うことがてきるように。 喜んだのもつかの間、初めてのデートで、彼を以前捨てた恋人アイオラが再びリオンの前に訪れて……。 大好きな彼の幸せを願って、身を引こうとするのだが。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

処理中です...