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2 婚約を破棄されました

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「はっ?」


 え、ちょっと待って?
 そんな事ある???


「んぎゃあああああっ!」

 
 混乱が私にサッと赤ん坊を抱かせた。
 ただし、泣き止まなかった。

 
「はんぎゃあっ!」


 パンチも。
 痛くはないけど、複雑な気持ちよ。


「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」

「はあっ!?」

「はぎゃあっ!」


 大混乱よ。
 甥が泣きながら叩くし、鼻の穴に指を突っ込んでくるの。その気がなくても!

 そしてその指が口に突っ込まれるのよ。
 

「安心しろ。私生児を産んだ形のお前に、貴族令嬢としてのまっとうな人生は見込めないが、その点は私が一生面倒を見る」

「そういう問題ッ!?」

「ぎぇやああっ! ガッガッガッ」


 不満よね。
 ええ、不満よね。

 あなただって好きで非嫡出子として生まれてきたわけじゃないものね。
 私だって、好きで婚約破棄されたわけじゃないのよ。

 こっちも泣くわよ!
 

「そんな……っ、賠償金……!? 婚約を、破棄……ッ!?」


 アルセニオ。
 バーヴァ伯爵アルセニオ・スカパニーニ。

 彼との間には、絆があると思っていたのに。

 絆といえば、忘れちゃいけないのは兄の妻よ。
 親の決めた結婚に従った、真面目なイイコのリヴィエラ。
 私の一才年下の、義姉。


「この事を、リヴィエラは……!?」

「お前が妊娠し、婚約破棄されて、私生児を産む。そう言うさ」

「では御自分が裏切った事も、私が清廉潔白である事も隠して、私にすべて擦り付けるおつもりなのですか……!?」

「あまりガヤガヤ言うな。私は愛する女を亡くし悲しんでいる。息子は産みの親が死に、育ての母が不満ばかり洩らし怯えて泣き叫んでいる。泣きたいのはこっちだ」

「ほぎゃあああぁぁぁっ!」

「お前がそこまで物分かりが悪いとは思わなかった。教育を間違えたな」


 婚約破棄。
 腕の中で泣き叫ぶ赤ん坊。
 独善的で諸悪の根源な兄。

 これでまともに頭が回ればアッパレよ。


「お兄様?」


 ポロポロと涙を零しながら、私の口が動いた。
 意外なほど、冷静そうな声だった。


「私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」

「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」


 守る?
 この場合、守られるのは兄の体面だけでは?

 私生児を身籠って婚約を破棄されるような令嬢がいるという事は、却って不名誉なのではないの?


「養子に出して、援助し続けるとか、方法が……」

「ソニア。もう決まった事だ。お前の妊娠は告げたし、婚約は破棄された。こちらからの賠償金を先方は受け取ったんだ」

「……」


 私は妊娠していないし、それ以前に不貞も働いていない。
 あと、そもそも賠償金て?
 この場合、慰謝料では……?

 
「あとはお前が頷くだけだ。我を張るな」

「我……?」

「グがああっっ!! ふんぎゃああぁぁぁっ!!」


 なんというか、絶望よ。
 
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