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2 言質じゃ足りないですね

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「お話はわかりましたけれど、それは私たちふたりで決定できる事ではありませんよね?」

「あぁ、その話か。あのね、君……うんうん。わかってるから。君が心配する事じゃないから。いいかい? どんなにゴネても、正式に破談にするから」

「さっき、破棄って」

「ああ、破棄するよ」

「なにを理由に?」

「君は……なんか違うんだから、ふっ、仕方ないだろう?」


 彼はニヤリと笑ってから従者を手招きし、ディディエ伯爵から私の父シャサーヌ伯爵宛の書面を広げた。


「……」

 
 なるほど。
 当主から当主へ正式な婚約破棄なのね。

 ……正式な婚約破棄ってなに?


「わかりました」


 私が頷くと、彼は勝ち誇った表情で書状を畳み、姿勢を正した。


「それでは、フランシーヌ。さようなら。永遠に」

「ええ。さようなら」


 丁寧にお辞儀しあって、私たちの婚約関係は解消されるという事で合意した。
 ディディエ伯爵令息御一行が帰り支度を始めると、ある人物が私の腕を震えながら掴んだ。


「おおおお嬢様!? 私、ちょっと我慢できないんですけれども……!?」

「いいのよ、メリザンド」


 彼女はメリザンド・ヴィレット。
 子爵令嬢として生まれ、若かりし日に父親が仕えていた伯爵家が没落してしまい、つてを頼って我が家に家庭教師としてやってきて、兄2人と私に公平な教育を施してくれた。その後は侍女という形をとって、私のお目付け役も兼ねていつも一緒に行動している。年齢も一回り上なので姉のようでもあり、そして親友のようでもある。


「いいって……あのぉ、お人好しにも程がありますよ? なんですかあの男は! 失礼な……っ!!」

「相手するだけ時間の無駄よ。さて、メリザンド。せっかく来たのでお散歩しましょう? あちらでパイが売ってるわ。ほら、可愛いお売り子さん。姉妹だわ。あの子たちの分も多めに買って、おやつにしてもらいましょう」

「パイを食べてる場合じゃないですよ! 婚約破棄ですよ!?」

「大丈夫。すぐ相手は見つかるわ。あ、見て」


 私のほうでもメリザンドの腕を軽く掴んで促して、ディディエ伯爵家の馬車のほうに目を移してもらう。


「二手に分かれた。片方がこのまま家に来るのよ。お父様の事だから心配いらないわ。そうでしょ。お腹が空いたし、胸糞悪いから美味しいものを食べましょうよ。ね、メリザンド。お願い」


 ちょっと神経質で短期な彼女だけれど、私のお願いはなんでも聞いてくれる。


「ええ、じゃあ、まあ。お嬢様がそう仰るなら」


 ほらね。

 私はメリザンドと腕を組んでゆっくりと歩き始めた。
 いい天気。気持ちいい。

 つまらない令息との縁談がなくなるのだから、今日は本当に素晴らしい日だ。
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