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2 私だけに婚約者が怖気づいた日。

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「ふざけんじゃないわよッ!!」

「ひいっ!」


 私はエセルに掴みかかった。
 怯えたエセルとアルヴィンがパッと左右に別れる。


「え゛ッ!? 私!?」

「あんたしかいないでしょう!」

「へっ、へれんっ!? 気持ちはわかるけど、にに妊娠してるんだから」


 アルヴィンがエセルを庇った。
 許せない。

 私はアルヴィンの手を叩き落した。


「してないわよ! この子は昨夜ねえ、池で泳いでたんだから!!」

「さっきできたのよ! 熱く愛しあったのッ!!」

「お黙り恥知らず!!」


 止められなかった。
 積年の恨みで、私はエセルの髪を掴んでいた。


「ちっちゃい頃から『私が、私が』って、なんでもかんでも私から奪い取って!」

「いっ、痛い!」

「痛くしてるのよ! 当たり前でしょう!」

「やめてよ! 野蛮だわ!! 髪が崩れるからやめてってば!!」

「今さっき崩れた髪を雑にまとめてきただけのくせに髪型なんか気にしてんじゃないわよっ!! その不細工な心を気にしなさいよ!!」


 エセルも私の髪を掴んだ。


「不細工はお姉様でしょう!? 可愛げがないから男にフラれるのよ!!」

「あんたが手を出したからでしょうっ!?」

「残念だったわね! 手を出したのは私じゃなくってアルヴィンからよ!!」

「あっそう! だから何年も結婚がズルズル延びたのよ! あんたのせいでね!」

「延びたぁ!? お姉様の耳にはなにが詰ってるんですかぁッ!? アルヴィンは私と結婚するの! 延びたんじゃなくて永遠にお姉様は結婚できないのよ! バーカ!!」

「きいいぃぃぃぃぃっ!!」


 はしたない。
 わかっている。

 しかしながら、私は恐らく、青筋を立ててエセルと髪を掴みあい、今まさに乱闘に手を染めようとしていた。


「へっ、へれん」


 アルヴィンもアルヴィンだ。
 たしかに、私たちは親の決めた者同士。恋に落ちたわけではない。
 でも、誠実に互いを思いやり、絆を深めていく事ができたはずだ。そして両家からそれを求められていた。

 なのに、可愛いなんて理由ひとつで、妹のほうに手を出すなんて。


「待ってなさい、アルヴィン……! すぐ行くわ……私はひとりしかいないのよ……ッ」

「誰も待ってないわよお姉様なんか……っ」

「この減らず口……ッ」

「そうねアルヴィンからのキスが有り余って溢れちゃうわよ!」

「んんっ!」


 怒りに任せ、頭突きしていた。


「──」

「──」


 妹と私、それぞれクラリと揺れて体が離れた隙に、それは起きた。


「おいで、エセル! 猛獣だ! 逃げるぞ!!」

「アルヴィンっ♡」
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