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1 妹に婚約者を奪われた日。
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「おねえさま、みて! とりさん!!」
「まあ、可愛いわね」
「いぃーなぁー。ねえ、おねえさま。あのはねをとって、わたしにつけたら、わたしとべるかな?」
「え?」
あれが、7才の初夏。
妹は4才だった。
「お姉様! 見て!! おばあ様がくださったのよ!」
「まあ、素敵なブローチね」
「お姫様みたい!?」
「ええ」
「お姉様はもらえなかったの?」
「誕生日じゃないもの」
「そっか!」
「ええ」
「それじゃあ、素敵なプレゼントをもらったら私に頂戴ね!」
「え?」
あれが、10才の秋。
妹は7才だった。
「ちょっと! お姉様のくせに、なんで私より素敵な帽子をかぶるのよ!」
「え……っと、可愛いから?」
「はあ!? 私のほうが可愛いけど! 鏡見たら!?」
「そうじゃなくて、帽子が……」
「似合わないッ! こういう素敵な帽子は、可愛い妹の私が身に着けなくちゃ」
「……え?」
あれが、12才の春。
妹は9才だった。既に始まっていた。
「お姉様? 聞いたわよ、叔母様の結婚式にお招きされたんですって?」
「ええ」
「どうして私じゃないのよ!!」
「わからないわ」
「変わりなさいよ! ドレスあるんでしょ!? 見せて!」
「え……そんな、あなたとはサイズが」
「こうしてやるッ!!」
「きゃっ!」
あれが、14の夏。
妹は11才だった。
私は別のドレスを着て、母と祖母と3人で結婚式に参列したけれど、帰ると私の服が全て裂かれ、母の部屋は汚水まみれになっていた。
「エセルには困ったものね」
「修道院へ入れてしまおうかしら」
「お義母様、そこまでは……」
「ヘレン、あなたはどう思う? あなたがいちばん長くあの子と生きるのよ?」
母と祖母の会話を横で聞いていた私は、祖母にそう尋ねられ、
「まだ子供なのよ。エセルは美しい子だもの、きっと素敵なレディになるわ」
と庇ってしまったのが失敗だった。
本当に後悔した。
あのとき、完膚なきまでに叩きのめせばよかったのだ。
私はメルヴィン伯爵令嬢ヘレン・ブラッドロー。21才。
今、目の前で、私の婚約者に腕を絡める妹エセルを、目で殺せるものならとっくに殺している。
「いやぁ……ヘレン、これはだな」
婚約者であるブルフォード伯爵令息アルヴィン・エイリーは気まずそうに頭を搔いている。
「妹の寝室から妹に巻き付かれて出てきたあなたからの説明はいらないわ」
「そっか。よかった。俺、責任取ってエセルと結婚するよ」
「責任?」
「赤ちゃんができたの♪」
妹が、私の婚約者の頬に、キスをした。
「まあ、可愛いわね」
「いぃーなぁー。ねえ、おねえさま。あのはねをとって、わたしにつけたら、わたしとべるかな?」
「え?」
あれが、7才の初夏。
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「お姉様! 見て!! おばあ様がくださったのよ!」
「まあ、素敵なブローチね」
「お姫様みたい!?」
「ええ」
「お姉様はもらえなかったの?」
「誕生日じゃないもの」
「そっか!」
「ええ」
「それじゃあ、素敵なプレゼントをもらったら私に頂戴ね!」
「え?」
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本当に後悔した。
あのとき、完膚なきまでに叩きのめせばよかったのだ。
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「そっか。よかった。俺、責任取ってエセルと結婚するよ」
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「赤ちゃんができたの♪」
妹が、私の婚約者の頬に、キスをした。
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