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17 涙の舞踏会(中)
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楽団の音に合わせて扉が開き、大広間に足を踏み入れる。
持ち直し、心を整え、これが最後と噛み締めたような静謐かつ美しい表情のポチョムキンが私と共に進む。
視線が集まる。
使用人以外、見事に見目麗しい優秀な令息たちばかり。
まるで、結婚式みたい。
そんな夢見がちな考えが浮かんでくるのも、恋をしているからかもしれない。
そう。
私は浮足立って、浮かれて、この舞踏会を心待ちにしてにしていた。
「おお……なんと美しい……!」
「着飾っている……あのプリンセス・マルグリットが着飾っている!!」
「麗しき乙女ッ!! 眼鏡まで麗しい!!」
「女神だ!!」
遥々やってきて予選で洩れたにもかかわらず、令息たちは私の事を好意的に判断してくれているようだ。目が合ったひとりひとりに丁寧にお辞儀をしつつ、奥へ奥へと進んでいく。
私を待つ、お婿さん候補のもとへと。
「プリンセス・マルグリット万歳!!」
「プリンセス・マルグリットに栄光あれ!!」
「「栄光あれ!!」」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
まるで凱旋。
こうして私の我儘に付き合い、今では私を祝福しようという、残念ながら相続からは洩れた令息たち。私は彼らを見棄てはしない。彼らはジュリアスにだけは劣るものの、ジュリアスと同じように優秀かつ健康かつ若い。未来は希望に満ち溢れているべきなのだ。
職務。
そして花嫁。
望むのであれば、私が仲介人となって、彼らに祝福を返そう。
「「プリンセス・マルグリットに乾杯!」」
私は手をあげて応えた。
「「乾杯!」」
「「プリンセス・マルグリットに乾杯!!」」
という喝采を受けながら、ついに彼らのもとへとたどり着く。
優秀かつ頼れる冷静な策士、メルネス侯爵令息ジュリアス・リンドストランド。
心を許せる慈悲深い友、ヤルテアン侯爵令息及びヴィレーン伯爵ラーシュ=オロフ・グッルバリ。
あわてんぼうだけれど建築の天才、サンドボリ侯爵令息及びヘダー伯爵及び教会評議員ロレンソ・マリーツ。可愛い人。
どうなろうと一生付き合う事には変わりない疑似的な兄、ダールストレーム侯爵令息エディ・ダールマン。ポチョムキンの孫。若かりし日のポチョムキンは、きっともっと真面目で硬派だったはず。
4人に見つめられながら、今宵は深く深く、頭を垂れる。
そして膝を伸ばし、私はくるりとふり返った。
「皆様!」
手をあげて呼びかけると、楽団の音が止み、喝采の波は忽ち凪いだ。
彼らに、心からの感謝を告げる。
「ついにこの時が訪れました。今宵、この舞踏会で、私はデュシャン公爵家のお婿さんを選定いたします。お集まりいただきました皆様には心からの感謝を。皆様、どうもありがとう」
「プリンセス・マルグリット万歳!!」
「栄光あれ!」
沈黙を破ったぽつぽつとあがる声のほうにも丁寧に目礼し、私は続けた。
「既にお知らせしたとおり、皆様には投票をしていただきます。これは多数決によって私が最終的な決断を下すという目的ではなく、あくまで、最後まで皆様に楽しく参加していただきたいという気持ちを具体的に表したものです。誰が票を集めるか、自分の心が多数派か少数派か、私と同じ決断を下すか……どうぞ、お楽しみに」
頷く者、歓声を上げる者、静かに4人を見比べる者……それぞれが拍手をもって了承を表している。
再びふり返り、私も4人の顔を順に見つめた。
真顔のジュリアスはまるで彫刻、まさに神の作品のよう。
ロレンソはあたふた。赤らめた頬がピクピクしていて、とても可愛い。
ラーシュ=オロフの穏やかな微笑みには、癒しと勇気を与えてくれる。
エディは相変わらず笑っている。和むから悔しい。苛立っていいはずなのに……
「皆様、よろしく」
「よっ、よろしくっ、お願いします……!」
言うまでもなくロレンソ。
私は期待に胸が躍り、我ながら輝かしい笑顔を浮かべていた。
それぞれの眼差しを受ける。
「音楽!」
手をあげて宣言。
舞踏会が幕を開けた。
持ち直し、心を整え、これが最後と噛み締めたような静謐かつ美しい表情のポチョムキンが私と共に進む。
視線が集まる。
使用人以外、見事に見目麗しい優秀な令息たちばかり。
まるで、結婚式みたい。
そんな夢見がちな考えが浮かんでくるのも、恋をしているからかもしれない。
そう。
私は浮足立って、浮かれて、この舞踏会を心待ちにしてにしていた。
「おお……なんと美しい……!」
「着飾っている……あのプリンセス・マルグリットが着飾っている!!」
「麗しき乙女ッ!! 眼鏡まで麗しい!!」
「女神だ!!」
遥々やってきて予選で洩れたにもかかわらず、令息たちは私の事を好意的に判断してくれているようだ。目が合ったひとりひとりに丁寧にお辞儀をしつつ、奥へ奥へと進んでいく。
私を待つ、お婿さん候補のもとへと。
「プリンセス・マルグリット万歳!!」
「プリンセス・マルグリットに栄光あれ!!」
「「栄光あれ!!」」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
まるで凱旋。
こうして私の我儘に付き合い、今では私を祝福しようという、残念ながら相続からは洩れた令息たち。私は彼らを見棄てはしない。彼らはジュリアスにだけは劣るものの、ジュリアスと同じように優秀かつ健康かつ若い。未来は希望に満ち溢れているべきなのだ。
職務。
そして花嫁。
望むのであれば、私が仲介人となって、彼らに祝福を返そう。
「「プリンセス・マルグリットに乾杯!」」
私は手をあげて応えた。
「「乾杯!」」
「「プリンセス・マルグリットに乾杯!!」」
という喝采を受けながら、ついに彼らのもとへとたどり着く。
優秀かつ頼れる冷静な策士、メルネス侯爵令息ジュリアス・リンドストランド。
心を許せる慈悲深い友、ヤルテアン侯爵令息及びヴィレーン伯爵ラーシュ=オロフ・グッルバリ。
あわてんぼうだけれど建築の天才、サンドボリ侯爵令息及びヘダー伯爵及び教会評議員ロレンソ・マリーツ。可愛い人。
どうなろうと一生付き合う事には変わりない疑似的な兄、ダールストレーム侯爵令息エディ・ダールマン。ポチョムキンの孫。若かりし日のポチョムキンは、きっともっと真面目で硬派だったはず。
4人に見つめられながら、今宵は深く深く、頭を垂れる。
そして膝を伸ばし、私はくるりとふり返った。
「皆様!」
手をあげて呼びかけると、楽団の音が止み、喝采の波は忽ち凪いだ。
彼らに、心からの感謝を告げる。
「ついにこの時が訪れました。今宵、この舞踏会で、私はデュシャン公爵家のお婿さんを選定いたします。お集まりいただきました皆様には心からの感謝を。皆様、どうもありがとう」
「プリンセス・マルグリット万歳!!」
「栄光あれ!」
沈黙を破ったぽつぽつとあがる声のほうにも丁寧に目礼し、私は続けた。
「既にお知らせしたとおり、皆様には投票をしていただきます。これは多数決によって私が最終的な決断を下すという目的ではなく、あくまで、最後まで皆様に楽しく参加していただきたいという気持ちを具体的に表したものです。誰が票を集めるか、自分の心が多数派か少数派か、私と同じ決断を下すか……どうぞ、お楽しみに」
頷く者、歓声を上げる者、静かに4人を見比べる者……それぞれが拍手をもって了承を表している。
再びふり返り、私も4人の顔を順に見つめた。
真顔のジュリアスはまるで彫刻、まさに神の作品のよう。
ロレンソはあたふた。赤らめた頬がピクピクしていて、とても可愛い。
ラーシュ=オロフの穏やかな微笑みには、癒しと勇気を与えてくれる。
エディは相変わらず笑っている。和むから悔しい。苛立っていいはずなのに……
「皆様、よろしく」
「よっ、よろしくっ、お願いします……!」
言うまでもなくロレンソ。
私は期待に胸が躍り、我ながら輝かしい笑顔を浮かべていた。
それぞれの眼差しを受ける。
「音楽!」
手をあげて宣言。
舞踏会が幕を開けた。
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