あつまれ相続から洩れたイケメンぞろいの令息たちよ! ~公爵令嬢は浮気者の元婚約者と妹を追放して幸せになる~

百谷シカ

文字の大きさ
上 下
13 / 21

13 認め合いの精神

しおりを挟む
「ではジュリアスから。もしあなたでないとしたら誰が私の夫に相応しいと思うか、具体的な考えを聞かせてちょうだい」

「……」


 ジュリアスは思案顔で私を見つめた後、噛み締めるように頷いて言った。


「エディが相応しいと考えます」

「彼は選考に含まれないと私は言って、あなた方は了承したものと思っていたけれど」


 早速、思いがけない展開に。
 ここは様々な意見が聞けたほうが有意義なので、問題はない。


「理由を聞かせて?」

「はい、申し上げます。まず第一に、エディには絶大な信頼を置ける点があげられます。デュシャン公爵家に代々仕えるポチョムキン一家の者であり、正統な貴族の血も持ち合わせ、あなたとも気が合い、申し分ありません」

「彼は疑似的な兄よ」

「理性より感情を優先されるとしたら、実の兄とも思い込めそうな男を婿に迎えるのは非常に苦痛かと思われますが、信頼の置ける格下の婿としては好物件極まりないのが現実です。それに事実エディは血縁者ではない」

「なるほど」


 さすが、ジュリアス。
 私が見込んだだけあって、手厳しい現実的な意見。


「どうもありがとう。次はロレンソ、あなたの意見をぜひ聞かせてちょうだい」


 彼を見ると、自然と唇に笑みが浮かぶ。
 

「はっ、はい! あのっ、わわっ」

「落ち着いて。まず、そのナイフを置いて」

「はい!」


 とても素直。
 彼の背後でそわそわしている彼の従者と当家の給仕をセットで見ていると、その和やかな風景にとても心が和む。


「ぼ、僕は……ッ、僕も……ッ、ヘディがいいと思います!」


 声が裏返って、エディはヘディに。
 そんな珍事も、ロレンソなら許せる。

 彼には非常に、感じるものがある……。


「理由は? ジュリアスの意見は聞きました。あなたの意見を聞かせて?」

「はい! ジュリハスの持論に全面的に賛成でッ!」

「ロレンソ。私たちを人と思わないで、岩だと思ってみて。難しい設計や修繕や建築は、あなたの得意な事でしょう?」

「──」


 驚くべき事が起きた。
 ロレンソが、覚醒したのだ。


「誰しもがジュリアス卿と同じ所見でも、なんら不思議ではないでしょう。付け加えるとしたら、やはりふたりの相性のよさが上げられます。既に完成された絆は、腹を割って本心で語り合える理想的関係を目の当たりにすれば明らかです。なにより、恐らくエディが婿となった事でなんらかの問題が勃発したとしても、それは他の婿たる男が発端となる問題に比べたら、砂利一粒と岸壁ほどの差があるかと。要するに安全第一、それに尽きるとすれば、エディはうってつけです」

「?」

「!?」

「???」


 ロレンソがキリッとしている。
 いいものを見た。彼は立派な頼れる領主だ。


「わかりました。ありがとう。続いて、エリオット。あなたの意見を」

「はい。申し上げます。ジュリアスのほかには考えられません。元使用人であるエディは論外ですし、ロレンソは婿であろうと夫として頼りなく、ラーシュ=オロフは年が離れすぎです。むしろ、この状況でジュリアス以外を候補に残しているあなたの考えに、若干の疑問を抱かずにはいられません」

「……?」


 ジュリアスが厳しい一瞥を送り、ロレンソが目を丸くした。ラーシュ=オロフは落ち着いてエリオットを凝視して待ち、エディは芋にがっついている。


「私としては積極的に意見を言ってもらえて嬉しいと本気で思っています。一言で答えるとすれば、主観と政治で選択する男の花嫁選びに比べ、私は複雑な事情を抱えているのです。女心は範疇外と大目に見てもらえたら嬉しいわ。お願いできるかしら」

「承知しました。無粋を申しました」

「いいえ。ありがとう」


 彼は、本当にいい。
 補欠として申し分ない。


「さて、ラーシュ=オロフ。あなたですね」

「ええ」


 父性の滲み出る温和なラーシュ=オロフと微笑みを交わす。
 強いて言えば、父より若ければいい。だから彼は候補として、非常に有望。それなのに、彼は一票も得る事なく自身の番を迎えた。だからといって焦りも不満も漂っていない辺りも、好感触。


「あなたは、他の3人に比べると、まるで親のような気持ちで私の婿を選別するかもしれませんね」

「滅相もない。ただ、ご覧の通り老いていますから、多少の厚かましさはあるかもしれません」

「そんな。厚かましいなんて思いません」

「寛大ですね」

「それで、あなたは誰が相応しいと思う?」


 一瞬、ラーシュ=オロフは悪戯っぽく目を細めた。
 その表情に、なにやら魅力らしきものを感じた私の胸が、一拍ずれて脈を刻む。


「ロレンソです」

「ふえっ!?」


 建築に長けた若き伯爵が、あがり症の可愛い彼に戻った。


「人柄に好感が持てますし、同じ領主として領民を守ろうとする思いの根底に愛がある事を感じます。目の前にあるのが岩と思えば、どんな場面でも実力を発揮するでしょう。その上で、頼れる老齢の執事ポチョムキンの引退後にはエディを相談役として迎え入れ、ロレンソとエディで脇を固めるのが理想的に思えます」

「喧嘩になっちゃいますよ!?」


 私よりロレンソが我が事として取り乱している。


「ロレンソ。エディは疑似的な兄です」

「彼はそう思っていない!」


 狼狽で声をバウンドさせながら、ロレンソは勢い余って椅子を蹴り立った。
 当然、その椅子を彼の従者と当家の給仕がぬかりなく受け止める。

 ラーシュ=オロフが穏やかにロレンソを見あげて微笑みかけ、反対にエリオットが嫌悪も顕わに眉を顰めた。ジュリアスは単純に真顔。エディはパンに手を伸ばしている。


「エディの思いは重要ではないのよ、ロレンソ」

「ふっ」


 エディが笑った。
 眼鏡の上から睨んでおいた。

 ふいにジュリアスの視線が上へずれたので、私はハッとして背後に首を巡らせた。エディの祖父であり、老齢の頼れる執事ポチョムキンが、震える手で脂汗を拭いていた。こんなにも一大事になるとは、人生の先達であるポチョムキンも予想だにしていなかったのだろう。
 だからと言って、彼の意見もまた、それほど重要ではない。

 私の心は次第に固まりつつあった。
 非常に、有意義だった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】結婚式当日に婚約破棄されましたが、何か?

かのん
恋愛
 結婚式当日。純白のドレスを身に纏ったスカーレットに届けられたのは婚約破棄の手紙。  どうするスカーレット。  これは婚約破棄されたスカーレットの物語。  ざまぁありません。ざまぁ希望の方は読まない方がいいと思います。  7話完結。毎日更新していきます。ゆるーく読んで下さい。

処理中です...