あつまれ相続から洩れたイケメンぞろいの令息たちよ! ~公爵令嬢は浮気者の元婚約者と妹を追放して幸せになる~

百谷シカ

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11 それぞれの理由

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「あなたと共に、ダールストレーム侯爵令息共有するのですね」


 ジュリアスが便乗した。


「ジュリアス。名前で」

「失礼しました、プリンセス・マルグリット」

「ジュリアス」

「……マルグリット。ふむ、緊張しますね」

「よろしい。それでより正確な認識をしていただくと、私と共有するのではなく、私の疑似的な兄という存在を受け入れるくらいに留めてほしい」


 ジュリアスに悪気はない。
 なぜなら、彼は完璧な貴族だから。私がこの場にいなければ、彼が頂点に立ってもおかしくはない。だから、


「申し訳ありません」

「いいの。気にしないで」


 謝る必要はない。


「マルグリット」


 ラーシュ=オロフが静かな微笑みを向けた。
 彼はお婿さん候補の中でも年長者で、落ち着きと余裕の備わった自然体が好ましい。婚期を逃したのは魅力がないためではなく、愛した令嬢が結婚を前にして病死してしまったためだ。悲しい過去が、彼に年輪と精神的な熟成を齎している。


「選出の決め手を、ぜひお聞かせください」

「たしかに」


 なぜ自分が……。
 それを知りたいと願うのは、極自然な感情だ。


「ではまず、ジュリアス」


 ジュリアスが食事の手を止め、会釈で応える。


「誰の目から見ても完璧だから」

「光栄です」


 続けてロレンソに目を移す。


「はっ、はい!」


 緊張しやすい彼は、慌てて口を拭き、居住まいを正しながらフォークを落とした。


「ひゃあ! ごっ、ごめ……申し訳ありませんッ!!」

「落ち着いて」


 彼の従者と給仕が同時にフォークを拾おうとして、手が触れ、なぜか熱く見つめあった。彼自身に集まる視線は、非常に冷たい。

 私の見解が異なるのは、性別のためだろうか。


「ロレンソ。あなたを見ていると、とても和む」

「わっ……! うわ……あッ、ありがとうございます!!」

「グラスに気をつけて」

「はい!」


 手が掛かるけれど素直な性格だから、ちょっと気持ちいい。都度、漠然とした達成感が心地よくさえある。


「皆様、ロレンソは建築に明るいのです。彼は昨年の夏の嵐で崩落した橋を実に驚くべき速さで復旧させ、流通を整え、見事冬に備えたのです。素晴らしい才能です」

「いやぁ……それほどでも……っ」


 頬を染めている。


「次、エリオット」


 会釈にしては深くて長い沈黙の間、こちらも言い訳を考えた。
 ジュリアスが死んだ場合の補欠とは、さすがに今この場で言うべき事ではない。


「あなたは素敵」

「お褒めに与り光栄です」


 そつない返事。
 そして……


「ラーシュ=オロフ、あなたですね」


 質問の主に、私も微笑みを返した。
 会釈ひとつとっても優しい性格が滲み出る。


「あなたは優しく誠実で、堅実で、申し分のない領主であり、きっとそのような父親になるはずです」

「ご期待に沿えるよう励みます」

「特に父性に期待しています」

「勿体ないお言葉です。お答えいただき、ありがとうございます」


 こうして選出理由の発表が済むと、わずかな沈黙の後、各々が食事に戻った。
 エディだけが異議を唱えた。


「俺は?」

「弁えて」


 眼鏡を直し、睨んでおいた。
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