あつまれ相続から洩れたイケメンぞろいの令息たちよ! ~公爵令嬢は浮気者の元婚約者と妹を追放して幸せになる~

百谷シカ

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6 お婿さん候補、と私

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「1番。メルネス侯爵令息ジュリアス・リンドストランド様!」


 扉が開き、お婿さん候補第1号がその姿を現した。
 ちなみに、応接室を出てすぐの廊下に順番待ちの椅子を5脚用意し、3人目が応接室に入ったところで使用人が次の5人を案内する手順でいく。

 机の上で指を組み、私はその人物をくまなく観察した。
 美しい金髪は肩にかかり、透き通る碧い瞳を縁取る目の輪郭は切れ長、すっとした鼻梁。つまり瓜実顔。そして清潔感の見本のような薄い唇。額の面積と眉の形から、知能が高く野心を秘めながら他者と円滑に交流できる人格が窺える。


「本日はこのような素晴らしい機会を賜り、光栄です。プリンセス・マルグリット」


 お辞儀も美しい。
 長身で体格もよく、健康面では合格と言えそうだ。


「かけて」


 机を挟む形で置いた椅子を目で示す。
 ポチョムキンが私の横に立ち、第1号の着席に合わせて頭を下げる。
 私は眼鏡を直し、砂時計を返した。


「立候補した理由を一言で教えてくれる?」

「はい。栄光あるデュシャン公爵家の未来に貢献したく参りました」

「なるほど。どのように貢献が?」

「はい。あなたの忠実なる僕としてデュシャン公爵家の名誉や財政を維持乃至発展させ、家庭に於いてはよい父親としてこどもたちを愛し、次期デュシャン公爵を命果てるまで支え尽くします」


 いい滑り出しだわ。


「ありがとう。手を見せて」

「?」


 ジュリアスは一瞬、小さく驚いた様子で眉をあげた。その表情が嫌味ではなく、私への興味や親近感を表すものだったので、非常に好感触。

 ジュリアスが両手を揃え、手の甲、そして掌の順で示した。それだけでも美しい所作が、更に好感触。


「どうもありがとう。あなたは第二子次男ね。もしお兄様に不幸があった場合、メルネス侯爵となる可能性があるけれど、その場合、両立できる?」

「当然です」


 即答してから、示したままの両掌に目を落とす。
 美貌が一瞬、打ち解けやすいものになる。


「手はどうぞ、膝の上へ。続けて」

「はい、プリンセス・マルグリット。──前提として私は兄によるメルネス侯爵家の繁栄を強く望んでいます。弟として兄を支える必要に迫られた時には、それを御赦し頂きたい。しかしあくまでデュシャン公爵家の人間として、あなたの夫としての範囲で行います。あなたと時期デュシャン公爵を人生の軸として生きていくのであれば、生家へ何某かの協力をしたとしてもそれは両立と言えるでしょう」


 完璧ね。


「ありがとう、ジュリアス。面接を終わります」

「ありがとうございました。プリンセス・マルグリットとデュシャン公爵家に栄光と神の祝福があらん事を」


 ジュリアスが退室した。
 私は番号札に書き込みをしながら、ポチョムキンに話しかける。


「有意義だった」

「いやぁ、立派な方でしたな。神々しさと雄々しさについては、若き日のデュシャン公爵を彷彿とさせるものがあります」

「待っていれば本当のプリンセスが嫁いで来そうなものなのに。本当のというのは、正統、正真正銘、王宮にいらっしゃる4人の姫君の内の誰かという意味よ」

「承知しております」

「彼は今のところ、最有力候補ね。おっと、当然だった。ひとりめだわ」

「面接のし甲斐があるというものです。さ、お嬢様! 次なる候補者をお迎えください!! さっ!!」

 
 いつになく楽しそうなポチョムキンの顔を見て和んでから、私は手を2回叩いた。なぜなら、それが合図だから。

 係の使用人が速やかに扉を開き、第2号の名を高らかに読み上げる。


「2番。ランツ侯爵令息ラルフ・シーンバリ様!」


 扉が開き、お婿さん候補第2号がその姿を現した。


「……」


 あら、嫌だ。
 卑しい錆びついた臭いがするわ。


「かけて」


 ラルフは無言のまま会釈し、席についた。
 私は眼鏡を直し、番号札に目を落とした。


「あなたは第五子、四男、お母様は後妻で元娼婦ね。なぜ立候補する資格があると判断したのか、一応、聞かせてくれる?」

「金です」

「?」

「母は類稀な美貌で父の愛を勝ち得ました。そして父は、母に莫大な遺産を残し、私には莫大な投資をする心積もりがあります。これが父からの証書です」

「結構よ」


 懐からなにかを出そうとしたラルフを制し、番号札に「賄賂・娼婦」と記入し、脇へ避ける。


「ありがとう。面接を終わります」

「お待ちください! 父はかなりの金額を提示しています! それを見てから判断してください!」


 さすが、娼婦の子は強引で強欲だわ。


「ポチョムキン。ご案内して」

「畏まりました」

「はっ!? なっ、なんだ貴様! 私は侯爵令息だぞ! 触るな! ぐっ、その汚い手で触るなぁーッ!!」


 まだふたりめなのに、元々の婚約者、身の程知らずの無礼なイーサンを越える侯爵令息が現れるなんて。心臓に悪い。

 
「抓み出しました」

「ありがとう」

「種々雑多ですね」

「ええ。でも、炙り出して世に警告できるという面を見れば、非常に有意義だった」

「手を見るまでもありませんな」

「その価値もない」


 父は言っていた。
 相手の手を見て、嫌悪感を抱くようなら心に従え。警戒すべき敵だ──と。

 敵ではなく、虫けらの手など見る価値はない。


「次は気分転換になればそれ以上は望まない」

「平凡も、時としてよきですな」

「ええ」


 私は番号札3番を目の前に置いて、手を叩いた。


「3番。サンドボリ侯爵令息及びヘダー伯爵及び教会評議員ロレンソ・マリーツ様!」


 砂時計を返す。
 その価値がある相手だと希望を込めて。


「マッマッマッ、マルグリット様! よっ、よろしくお願いしま──ッ、たぁ!」


 緊張しすぎ。
 舌を噛んだ。気の毒だけど、気は和んだ。


「よろしく。かけて」


 こうして、面接は続いた。
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