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5 イケメンぞろいの令息たち
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「皆様、ようこそお越しくださいました! ここデュシャンの地では様々な楽しみを見つけて頂ける事と自負しております。美しい森、湖、クロッケーには最適な広場、馬が駆けるのを待ちわびるような豊かな草原と丘、街ではオペラや絵画などの芸術、などなど。そして当デュシャン公爵家では、ご滞在される皆様に最高のおもてなしをさせて頂きます。ぜひ、有意義なバカンスをお楽しみくださいませ。そして!」
前庭に集まったお婿さん候補たちに、本題を伝える。
「本日夕刻より私マルグリットの夫選びのための面接を行います! 花咲き誇る中庭での夜会にてご歓談いただきながら、ひとりずつ応接室へお呼び致します。夜会のはじめに番号札をお渡しいたしますので、必ずご出席くださいませ! では! ごきげんよう!!」
高らかに告げると、男性特有の低い声がワッと応えた。
ごきげんよう。ごきげんよう。ごきげんよう。
レディ・マルグリット。
プリンセス・マルグリット。
私は一旦背を向けてからふり返り、眼鏡を直し、右手を挙げた。
辺りがしんと鎮まる。
「皆様に、栄光あれ!!」
うおおおおおおおおお!
なぜか上がった雄叫びに目礼し、ポチョムキンを引き連れ中へ戻る。
「凄いですね、お嬢様! 来ましたね!」
「ええ。さすが有力な諸侯の出がらし令息たちね。皆様方、代々美人を娶って美人が産んでいる家系だから、磨き抜かれた美貌ばっかりだわ。驚いた」
「いやぁ、壮観ですな!」
「宮廷で見慣れていたつもりだったけれど、見目麗しい若い紳士だけ不自然に固まって他の世代の顔が見えないと、不気味」
「いやいや、さすがはお嬢様。いちいち鼻の下を伸ばすような不埒な花嫁選びの主役とは大違いですな!」
「誰の事? 具体的に例をあげて」
などと言葉を交わしながら、書斎へ向かう。
私たちには、番号札の管理という仕事が待っているのだ。使用人ではなく敢えて自分で管理するのにはわけがある。
ひとつ、こちらの本気を見せる。
ふたつ、賄賂などの不正を防ぐ。
みっつ、把握しておいたほうが本質的に楽だから。
「はあ! 38人ですか!」
「多いわね。12人くらいかと思ってた。もちろん、当初はという意味だけど」
「到着が遅れている候補者もいますから、これは実に楽しみですな。ひとつの家から複数人で名乗りを上げているパターンもあるわけですし」
「誰が誰かわからなくなりそう。ひとり面接するごとにあなたの顔をじっと見て頭をスッキリさせなくては」
「お役に立てて光栄です」
そして夕刻が迫り、候補者は最終的に45人である事がわかった。
事前通知を受け取った他、こちらからも飛び入りを許可している為、想定の範囲内。もちろん、不審者がいてもポチョムキンというこれ以上ない護衛がいるし、この管理の行き届いたデュシャン公爵家に名門貴族の令息たちが集まっているという意味でも、瞬殺で暴けるので、心配ない。
問題は、何時に終えられるのかという事。
「ポチョムキン! 5分の砂時計を持ってきてちょうだい。8分は長いわ」
「畏まりました! 念のため3分もご用意します!」
「ええ、よろしく!」
私はそっと、10分の砂時計をいちばん下の抽斗にしまった。
それから姿勢を正し、眼鏡を直し、ひとつ深呼吸。
デュシャン公爵家の未来を左右するお婿さん選び。
焦りは禁物。冷静に、冷徹に、時には冷酷に。
私は正しく決断しなければならない。
そしてそれが、私にはできるのだ。
運命の夜が、刻一刻と迫りくる。
しかしその時、私は予想だにしていなかった。
まさかあの男が、私の婿として名乗りを上げこのデュシャン公爵家に舞い戻って来るなんて……
前庭に集まったお婿さん候補たちに、本題を伝える。
「本日夕刻より私マルグリットの夫選びのための面接を行います! 花咲き誇る中庭での夜会にてご歓談いただきながら、ひとりずつ応接室へお呼び致します。夜会のはじめに番号札をお渡しいたしますので、必ずご出席くださいませ! では! ごきげんよう!!」
高らかに告げると、男性特有の低い声がワッと応えた。
ごきげんよう。ごきげんよう。ごきげんよう。
レディ・マルグリット。
プリンセス・マルグリット。
私は一旦背を向けてからふり返り、眼鏡を直し、右手を挙げた。
辺りがしんと鎮まる。
「皆様に、栄光あれ!!」
うおおおおおおおおお!
なぜか上がった雄叫びに目礼し、ポチョムキンを引き連れ中へ戻る。
「凄いですね、お嬢様! 来ましたね!」
「ええ。さすが有力な諸侯の出がらし令息たちね。皆様方、代々美人を娶って美人が産んでいる家系だから、磨き抜かれた美貌ばっかりだわ。驚いた」
「いやぁ、壮観ですな!」
「宮廷で見慣れていたつもりだったけれど、見目麗しい若い紳士だけ不自然に固まって他の世代の顔が見えないと、不気味」
「いやいや、さすがはお嬢様。いちいち鼻の下を伸ばすような不埒な花嫁選びの主役とは大違いですな!」
「誰の事? 具体的に例をあげて」
などと言葉を交わしながら、書斎へ向かう。
私たちには、番号札の管理という仕事が待っているのだ。使用人ではなく敢えて自分で管理するのにはわけがある。
ひとつ、こちらの本気を見せる。
ふたつ、賄賂などの不正を防ぐ。
みっつ、把握しておいたほうが本質的に楽だから。
「はあ! 38人ですか!」
「多いわね。12人くらいかと思ってた。もちろん、当初はという意味だけど」
「到着が遅れている候補者もいますから、これは実に楽しみですな。ひとつの家から複数人で名乗りを上げているパターンもあるわけですし」
「誰が誰かわからなくなりそう。ひとり面接するごとにあなたの顔をじっと見て頭をスッキリさせなくては」
「お役に立てて光栄です」
そして夕刻が迫り、候補者は最終的に45人である事がわかった。
事前通知を受け取った他、こちらからも飛び入りを許可している為、想定の範囲内。もちろん、不審者がいてもポチョムキンというこれ以上ない護衛がいるし、この管理の行き届いたデュシャン公爵家に名門貴族の令息たちが集まっているという意味でも、瞬殺で暴けるので、心配ない。
問題は、何時に終えられるのかという事。
「ポチョムキン! 5分の砂時計を持ってきてちょうだい。8分は長いわ」
「畏まりました! 念のため3分もご用意します!」
「ええ、よろしく!」
私はそっと、10分の砂時計をいちばん下の抽斗にしまった。
それから姿勢を正し、眼鏡を直し、ひとつ深呼吸。
デュシャン公爵家の未来を左右するお婿さん選び。
焦りは禁物。冷静に、冷徹に、時には冷酷に。
私は正しく決断しなければならない。
そしてそれが、私にはできるのだ。
運命の夜が、刻一刻と迫りくる。
しかしその時、私は予想だにしていなかった。
まさかあの男が、私の婿として名乗りを上げこのデュシャン公爵家に舞い戻って来るなんて……
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