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3 こういう妹も必要ありません
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「えええっ!? 私がイーサンと結婚ッ!? 違う違う、そうじゃないのよお姉様! 早まらないで!? お姉様の事は心から尊敬しているし、心から大切に想っているのよ? だけど今回ばかりは、ちょっと正気に戻ってほしいわ!!」
「正気に戻るのは私なの? あなたじゃなくて?」
私はすぐ下の妹ミシェルに問うた。
「そうよ!! お姉様はイーサンと結婚するべきよ! だって婚約者なんでしょ? 婚約者なのに結婚しないなんておかしいわ!」
「婚約者なのに、その婚約者に向かって『君の妹が好きだ』なんて告白するほうがおかしいと思うけど」
「イーサンは純粋な人なのよ! だから愛にとっても素直なの! 私の事を愛してしまったのよ!! それを咎めるなんて可哀相だわ、違う? 愛しちゃいけないの? 人を愛するってとっても素晴らしい事でしょ!? そんな事も忘れてしまったのッ!? お姉様ッ!?」
「勢いで押し切ろうとしたって駄目よ、ミシェル」
「うっ」
妹が黙り込んだ。
「イーサンは公爵家の婿という立場を確保した上で、妻の妹、つまりあなたと恋愛関係を続け、それを公認してほしい──と要求してきたわ。あなた、それを聞いてどう思うの?」
「愛は素晴らしい」
「……」
困った。
私はてっきり、妹はイーサンに言い包められてうっかり我を忘れただけかと希望をかけていたのだけれど、違うかもしれない。
「そう。私としては、そんなに愛しあっているのならイーサンとあなたが結婚するべきだと思っているのだけど、どう思う? さっきも聞いたけど」
「さっきも言ったけど、イーサンの希望を叶えてあげるべきだと思うわ! 私たちは貴族よ!? 政略結婚は当然でしょう!? お姉様だって別に心からイーサンを愛しているなんて言えないはずよ!? 彼が誰と恋愛したっていいじゃない!!」
「そうだとしても、結婚前から『君の妹との仲を公認してくれ』って言うのは、どうかと思うわ」
「難しく考え過ぎよ! ねえ、聞いて? デュシャン公爵家の事はお姉様に任せる。なぁんにも口出ししないわ。ただ、どうしても私たちの愛は止まらないしもう隠せないの。秘密にしたまま結婚して、後からわかって『夫が私じゃなく妹を愛していたなんて!』って傷つくお姉様を見たくなかったのよ。わかるでしょう? お姉様たちが結婚して、私たちが恋愛する。それがいちばんいい方法なのよ?」
妹の本心が見えた。
私は、見逃すつもりは毛頭ない。
「つまりあなたは『公爵令嬢として生まれながら格下の家に嫁ぐのは嫌だ』とか言って婚期を逃した上、隣国の王家に嫁いだ末の妹ノエルに劣等感を抱いていて、なんとしても生まれ持った〈公爵家〉というブランドだけは維持したいがために、この家から出て行く事になるような結婚は受け入れ難いという事ね?」
「ぐっ……!」
ふん。図星ね。
「次期ベロム侯爵夫人ではなく、ずっとデュシャン公爵令嬢でいたいと」
「……」
「本当にイーサンを愛しているのかしらと疑問に思うには思うけれど、置いといて。たとえばこんな事を考えたのではないかしら。私がイーサンに嫌悪感を抱き跡継ぎを産む事ができず、代わりにあなたが産んだ私の夫──今は婚約者だけど──との子を、次期デュシャン公爵にして自分が実権を握ろうって」
「……難しく考えすぎだっていつも言ってるでしょ。お姉様」
「そう? だったらどうしてそんなにバツが悪そうな顔で私を見るの? ミシェル」
私たちは見つめあった。
真剣に、睨みあった。
そして、妹が理性を失った。
「あっそう! なによ!! 長女ってそんなに偉いのッ!? たかが2年早く産まれただけでお父様に贔屓されて、全部ご自分の思い通りにできるって!? デュシャン公爵家にしがみついているのはお姉様のほうじゃない!!」
私は眼鏡を直し、冷静に真実を告げた。
「しがみついているというより、資質を認められて後継者としての教育を施されたに過ぎないわ。そして、この家の当主が代々受け継ぎ、次の世代へと遺していくものがなんであるかを理解し、正統な管理の元で守っていく義務を担っている。あなたには無理よ、ミシェル」
権力と色に狂って醜聞を撒き散らし、没落一直線。
そんな危険は、排除しなければならない。
「馬鹿にしないで! お姉様より美人よ。イーサンも私を選んだでしょ!」
「ええ。だから、お父様に選ばれた私はその権限であなたとイーサンを結婚させるわ。その上で当公爵家はベロム侯爵家と距離を置き、威厳と伝統、そして気高い王家の血筋の一端を守り続けます。いつかまた会いましょう、未来のベロム侯爵夫人」
「……っ、このひとでなし!」
姉妹の絆は強い。
命まで取りはしない。
さようなら。可愛かった私の妹。
格下と蔑んだ侯爵家の男と愛を育み続けるがいいわ。
ね、ミシェル。
「正気に戻るのは私なの? あなたじゃなくて?」
私はすぐ下の妹ミシェルに問うた。
「そうよ!! お姉様はイーサンと結婚するべきよ! だって婚約者なんでしょ? 婚約者なのに結婚しないなんておかしいわ!」
「婚約者なのに、その婚約者に向かって『君の妹が好きだ』なんて告白するほうがおかしいと思うけど」
「イーサンは純粋な人なのよ! だから愛にとっても素直なの! 私の事を愛してしまったのよ!! それを咎めるなんて可哀相だわ、違う? 愛しちゃいけないの? 人を愛するってとっても素晴らしい事でしょ!? そんな事も忘れてしまったのッ!? お姉様ッ!?」
「勢いで押し切ろうとしたって駄目よ、ミシェル」
「うっ」
妹が黙り込んだ。
「イーサンは公爵家の婿という立場を確保した上で、妻の妹、つまりあなたと恋愛関係を続け、それを公認してほしい──と要求してきたわ。あなた、それを聞いてどう思うの?」
「愛は素晴らしい」
「……」
困った。
私はてっきり、妹はイーサンに言い包められてうっかり我を忘れただけかと希望をかけていたのだけれど、違うかもしれない。
「そう。私としては、そんなに愛しあっているのならイーサンとあなたが結婚するべきだと思っているのだけど、どう思う? さっきも聞いたけど」
「さっきも言ったけど、イーサンの希望を叶えてあげるべきだと思うわ! 私たちは貴族よ!? 政略結婚は当然でしょう!? お姉様だって別に心からイーサンを愛しているなんて言えないはずよ!? 彼が誰と恋愛したっていいじゃない!!」
「そうだとしても、結婚前から『君の妹との仲を公認してくれ』って言うのは、どうかと思うわ」
「難しく考え過ぎよ! ねえ、聞いて? デュシャン公爵家の事はお姉様に任せる。なぁんにも口出ししないわ。ただ、どうしても私たちの愛は止まらないしもう隠せないの。秘密にしたまま結婚して、後からわかって『夫が私じゃなく妹を愛していたなんて!』って傷つくお姉様を見たくなかったのよ。わかるでしょう? お姉様たちが結婚して、私たちが恋愛する。それがいちばんいい方法なのよ?」
妹の本心が見えた。
私は、見逃すつもりは毛頭ない。
「つまりあなたは『公爵令嬢として生まれながら格下の家に嫁ぐのは嫌だ』とか言って婚期を逃した上、隣国の王家に嫁いだ末の妹ノエルに劣等感を抱いていて、なんとしても生まれ持った〈公爵家〉というブランドだけは維持したいがために、この家から出て行く事になるような結婚は受け入れ難いという事ね?」
「ぐっ……!」
ふん。図星ね。
「次期ベロム侯爵夫人ではなく、ずっとデュシャン公爵令嬢でいたいと」
「……」
「本当にイーサンを愛しているのかしらと疑問に思うには思うけれど、置いといて。たとえばこんな事を考えたのではないかしら。私がイーサンに嫌悪感を抱き跡継ぎを産む事ができず、代わりにあなたが産んだ私の夫──今は婚約者だけど──との子を、次期デュシャン公爵にして自分が実権を握ろうって」
「……難しく考えすぎだっていつも言ってるでしょ。お姉様」
「そう? だったらどうしてそんなにバツが悪そうな顔で私を見るの? ミシェル」
私たちは見つめあった。
真剣に、睨みあった。
そして、妹が理性を失った。
「あっそう! なによ!! 長女ってそんなに偉いのッ!? たかが2年早く産まれただけでお父様に贔屓されて、全部ご自分の思い通りにできるって!? デュシャン公爵家にしがみついているのはお姉様のほうじゃない!!」
私は眼鏡を直し、冷静に真実を告げた。
「しがみついているというより、資質を認められて後継者としての教育を施されたに過ぎないわ。そして、この家の当主が代々受け継ぎ、次の世代へと遺していくものがなんであるかを理解し、正統な管理の元で守っていく義務を担っている。あなたには無理よ、ミシェル」
権力と色に狂って醜聞を撒き散らし、没落一直線。
そんな危険は、排除しなければならない。
「馬鹿にしないで! お姉様より美人よ。イーサンも私を選んだでしょ!」
「ええ。だから、お父様に選ばれた私はその権限であなたとイーサンを結婚させるわ。その上で当公爵家はベロム侯爵家と距離を置き、威厳と伝統、そして気高い王家の血筋の一端を守り続けます。いつかまた会いましょう、未来のベロム侯爵夫人」
「……っ、このひとでなし!」
姉妹の絆は強い。
命まで取りはしない。
さようなら。可愛かった私の妹。
格下と蔑んだ侯爵家の男と愛を育み続けるがいいわ。
ね、ミシェル。
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