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6 憂鬱な狼

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 けれど不作法者は私の理解の範疇を越えていた。『私はドルイユの地と結婚したのです』と断りの返事を送ったら、強気な返事が舞い戻ってきた。華美で悪趣味な贈り物と一緒に。


「『私はそのドルイユと結婚すると言っているのです』……?」

「我儘な坊ちゃんだ」


 デュモンが溜息を吐く。
 彼は毎年、商売のためにしばらく滞在する。宴や行事以外は宿屋で寝起きしていて、暇を見つけては私を訪ね、励ましてくれる。

 そして今、ちょうど、励まされようとしているところ……


「どうしましょう。言葉が通じないわ」


 私は机に手紙を置いて、椅子に沈んだ。
 呪われた気分。


「コドモなんですよ。女の口説き方も心得ていない、実に馬鹿な男です」

「ええ。それはそうなんだけど、問題は彼の人格じゃなくて、そういう人に目をつけられた事よ」

「気色悪い?」

「ええ、とてもね」


 その時だ。
 デュモンがあまり見せない険しい顔で、重い溜息を吐いた。


「ああ。せっかくお守りしてきたのに、ここへきて変な虫がついたか」

「え?」


 違和感は、思い違いではなかった。
 彼を見ていてハラハラさせられるのは初めてだ。なぜかはわからない。ただ彼が、別人にでもなってしまったかのような不安が胸を占めた。

 5つの海を統べる大商人。
 荒波を乗りこなし、海賊をも打ち負かす、強い男だ。

 そう。
 私には彼が、狼の姿をした優しい犬に見えていた。

 今、目の前で呻っているのは、狼の彼。
 大商人カジミール・デュモンが不機嫌を顕わにしている。


「デュモン……?」


 獣を宥めるように、呼んでみる。
 彼は私を無視して、険しく壁を睨んだ。壁が生き物だったら、ヒィッとでも悲鳴をあげていそうなほど、殺意を込めた目をしている。


「……」


 気まずくなって、私は指を揉みながら俯いた。
 
 今まで、特に彼との友情が始まった頃の数年は、私たちの関係についてあれこれとふしだらな噂があちこちで沸いた。その度に彼が出向いて、清らかな友情である事を納得させた。

 だけど、気づいていた。
 どんな呼び名をつけたところで、彼が私に向ける感情は、特別だと。

 ただそれは、私が彼の命を助ける結果になって、彼がその事に恩を感じているからだ。あれ以来、私たちは互いに支え合う素晴らしい友情を築いてきた。

 彼が私を助け、時に守り、海の交易権という強力な武器を預けてくれたのは、私が命の恩人だから。感謝から友情が芽生えた。
 そう思わなければ、私たちは歩んで来られなかった。

 それなのに、今になって彼は……あの頃の危うい関係に戻ろうというのだろうか。


「ラファラン伯爵が忌々しいわ」

「俺もだよ。プリンセス」


 彼は低く、切り刻むように囁いた。
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