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1 レディ・ドルイユの晩餐会

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「皆様、大変長らくお待たせ致しました。今宵、皆様にご覧頂きますのは、南の果ての島から会いに来てくれた大きな皴だらけの友、カバのグングンです」


 喝采が沸いた。

 天鵞絨の幕を裂いて現れたのは、土色の肌の丸々とした、豚にも似た動物。
 よく見ると丸顔で可愛いし、居眠りしている時なんて赤ちゃんみたい。けれど今は主のハイラに従い、大きく口を開けて吠える真似をしている。大迫力。


「どうぞご安心ください。でも手懐けようとしたり、可愛いからといって揶揄うのは禁物。誇り高い水の守り神であるカバに、皆様も敬意をお忘れなく」


 鳴りやまない拍手にも、グングンは怯える様子なくハイラに従っている。
 ハイラはカバガイ島を統べるラヤヤル族の族長の末娘で、今季からデュモンの行商に加わった。今では5つの海を統べる大商人となったカジミール・デュモンは、私より2つ年下で、私をプリンセスと呼ぶ親友だ。

 彼が異国の珍しい品々を持ち帰り、私が晩餐会でお披露目する。
 毎年の恒例となったこの行事を、招待客たちも心から楽しんでいる。

 一度は没落しかけたのが嘘みたいな栄華。
 私は新しい時代を築いたのだ。


「それでは、説明を船長のカジミール・デュモンから」


 私が手で示し場を譲ると、正装に身を包んだデュモンが反対側に立った。
 その間で、ハイラがグングンと遊び始める。可愛い。


「皆様、お久しぶり。1年ぶりですね。あ! ラスペード伯爵、お元気そうでよかった。膝の調子はどうです? いい薬を用意してありますよ。ああ! これはこれはレディ・グレース、見る度にお美しくなられますね。美容に効くハーブをあとでお見せしましょう。お肌がもっとツルツルになりますよ。ああああ、マダム・モントロン。そんな顔をしないで。あなたには、特別なクリームがあります。きっとお気に召すはずです!」


 デュモンは人気者だ。
 いくら持ち直したと言っても王家とは確執のあるドルイユ伯爵家。それを挽回するのが、この大商人デュモン。彼は王家にもそこそこ顔が利くようになってきたし、なんといっても各国の王族に重宝されている。

 大柄で、野性的な顔立ち。
 彼は狼の姿をした、優しい犬。

 この10年のドルイユ領への献身が、彼の人柄を物語っていた。
 私たちの仲を噂するのは、遠くの他人だけ。こうして公の場に仕事仲間として立てば、嫌な噂も払拭できる。

 
「カバの事を教えてくれ!」

「はい、閣下。仰せのままに」


 彼が頭を下げてなにを考えているかも、親友だからお見通し。
 微笑ましい。お金の勘定をしているのだわ。頑張って、デュモン。


「ご主人様」


 背後からそっと執事に呼ばれ振り返る。
 思いつめた表情を見て、急に胃が痛んだ。


「来たの?」

「はい」


 12年前に家を没落寸前まで追い詰めた妹が、また来たのだ。
 お金の無心に。
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