妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ

文字の大きさ
上 下
10 / 20

10 そっくり姉妹(※モーリス視点)

しおりを挟む
 本当にそっくりな姉妹だ。
 外見と声だけなら、まるで双子。

 ソーンダイク伯爵夫人は幼子のように癇癪を起しているが、忌々しさと同時に物珍しさが禁じ得ない。シビルそっくりな顔と声で、なんという醜態……

 しかし姉に妹の真似はできても、妹に姉のふりは難しそうだ。
 
 
「連行させて頂いたほうが、よさそうかな?」

「待って!」


 泣き顔は悔しさに歪み、その顔で見つめられると居た堪れなくなる。
 だが、知性的で凛としたシビルの美しい姿が視界に収まっているとあれば、迷いはない。


「誤解よ! 私、罪に問われるような事はやっていないわ!」

「それこそが誤解だ」

「姉から男を奪ったら逮捕されるの!?」

「論点がずれている」

「はあっ!?」

 
 妹のほうには、なにをどう話せば伝わるのか、それだけが心配だ。
 わからせてから捕えなければ意味がない。


「はっきり言おう。あなたには国家反逆罪の嫌疑がかけられた」

「はあっ!? なんですって!?」


 濡れた目で激高する顔には、思うところもあるが、油断はできない。
 愚か者を装う、姉の遥か上をいく賢くて狡猾な悪女かもしれない。


「あれは姉であって国じゃないわよ!?」

「……」


 やはり、ただの愚か者なのか。
 シビルが額を押さえ、溜息を吐いた。

 咳払いで仕切り直す。


「あなたは姉君によく似ている。あなたは姉君の死を偽装した。そしてあなたは、姉君がなるはずだったソーンダイク伯爵夫人となった。あなたはシビル・ラヴィルニーを装う事ができる」

「だから?」

「あなたは軍人を蔑んでいるようだが、国の重要な任務に着いている」

「本棚に隠れて盗み聞きするとか?」

「なにを盗聴するかによるだろう。重ねて言うが、あなたには国家反逆罪の嫌疑がかけられている。あなたが死を偽装した姉君とふたりきりでどんな会話をするのか、それを隠れて盗み聞く事を調査という。或いは警護」

「随分とご執心ね。ご自分が牢屋に入ったら? 人の婚約者を奪ったら反逆罪なんでしょ? あなた、戦場でお気に入りの看護婦が見つかってさぞ楽しかったでしょうね。ああ汚らわしい! でも、その看護婦には婚約者がいたのよ!」


 声を荒げる妹に食って掛かろうとしたシビルを手で制し、話を続けた。


「どうしても略奪婚に話を向けたいようだが、死を偽装した件と切り離して扱う事はできない」

「自分の女がコケにされて悔しいのね」

「あなたにどう邪推されようとかまわないが、あなたは理解するべきだ」

「ああ。家族を捨てて戦地に赴いた姉が、婚約者を裏切って男を作って半分死んで帰って来たのに、はじめに裏切った姉の婚約者の愛を奪った私が逆恨みされてるって事?」

「違う」


 愚か者の珍妙な理屈に翻弄されてはいけない。
 邪悪な人間のほうがまだましだ。馬鹿とは話が嚙み合わない。

 どうしてそっくりなんだ!


「あなたの認識はすべて間違っているという事だ。ソーンダイク伯爵夫人」

「はい?」


 顔にも態度にも出さない自信はあるが、相手がシビルと似ているだけに、言葉にし難い焦燥感が胸の中で渦巻いて暴れている。
 ソーンダイク伯爵ガストン・ドゥプラが言い包められたのも無理はない……などという事まで考えてしまった。

 この女は質が悪い。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

処理中です...