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1 友愛の絆

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「それで父は言ったの。『すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ』──って。わかる? 私が、私の婚約者だったソーンダイク伯爵に妹を嫁がせたって。寝てたっつーの」


 ゆらめくランプの灯の向こうで、彼が冷徹な右目を細める。
 今にも人を殺しそうな顔だけど、それはお互い様だわ。


「あの〈ニザルデルンの火祭〉からまだ2ヶ月だ。婚約者なら、充分待てる」

「そうでしょう!? だから、つまり」

「死んだ事にされたんだな」

「そうよ!」


 叫んだもので、背中がみしみし痛むわ。


「私は3週間寝ていたらしいんだけど、起きたら妹のマーシアはもういなかった。10日目に結婚式をあげたんですって」

「急いだな」

「私もそう言ったのよ。そうしたら、父がね……あのね、悲しみを払拭したかったとか、言うかと思うじゃない?」

「ああ」

「『我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル』って、尤もそうに言いやがったわけ。仔牛のソテーを頬張りながらね!」

「金持ちに嫁がせたから水準があがった」

「そう!」


 あ……いたたたた。
 叫ばないようにしないと。


「たしかにうちは没落寸前の田舎貴族よ。あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?」


 彼は冷徹な表情に少しだけ意思を垣間見せ、溜息をついた。


「君に対して、国軍からは勲章を授与する話も出ている」

「え? そうなの?」

「君は従軍看護婦として優秀だったが、それ以上の功績をあげた」

「やだ。嬉しいわ」

 
 痛みも和らぐというものだ。


「誰も君を殉死とは思っていない。臭うな」

「私が?」

「君の妹と、君の婚約者がね」


 よかった。
 起き上れるようになってすぐ旅を始めたから、満足いくほど入浴していない。


「そう。薄情でしょう?」

「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」


 彼は執務机に乗り出して、私の目を鋭く覗き込んだ。
 私も同じように、身を乗り出して彼を見つめる。


「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」


 沈黙が落ちた。

 彼は国軍元帥イヴォン伯爵の令息、モーリス・ヨーク。
 私が〈ニザルデルンの火祭〉で最後に担いで運んだ男。

 モーリスが静かに立ち上がり、左目の眼帯を外した。


「この傷に君への友愛を誓った。その話、乗ろう」


 そう言ってくれると信じて、ここまで来た。
 

「ありがとう」


 その命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
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