「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。

百谷シカ

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10 愛の大地

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 初めて私から寄り添い、その胴体に腕を……つまり抱擁をすると、陛下はヒッと息を詰まらせて震えた。


「エーディット……!? どどどっ、どうしたのカナ!?」

「陛下」

「甘えたい気分なのカナ!?」

「はい、陛下」

「くぅぅぅぅぅぅっ!」


 震えが止まり、私も抱擁を受ける。
 つまりこれは夫婦の抱擁。


「キュンキュンして死んでしまいそうですよぅ、エーディットぅ」


 陛下が細い声で言った。
 私は陛下の胸に顔をこすりつけ、つまり否定した。


「いけません。生きてください。私と」

「もぉぉぉちろんですともぉぉぉ!」


 珍しく野太い声が出ている。
 その声に呼応するように、陛下の鼓動が、耳に届く。

 あたたかな体温が心地いい。

 その日、私たちは、主に私にその責任はあるのだけれど、初めて心の通ったキスを交わした。素晴らしかった。

 10ヶ月後、私は世継ぎとなる男児を生んだ。
 母子ともに健康で産後の肥立ちもよく、宮廷のみならず国をあげてのお祝いムードはかなり長く続いた。年単位で。

 ある年、私の幼い甥が長旅に耐えうる年齢に達すると、式典に際して兄が一家揃ってこちらに滞在する事になった。数年ぶりの再会となったけれど、ヒセラは相変わらず可憐だった。
 義姉は私の頬に触れ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


「ああ、エーディット。あなた、素敵な笑顔」

「心配をかけてしまった事は自覚しているわ」


 その滞在中にヒセラが身篭り、長旅はよくないとして出産して落ち着くまで滞在、というよりもう移り住んだような形になった。彼女とは親友になれた。そして私も身篭った。王子、姫、姫、王子の順で産んだ。
 
 何年かして親族とごく親しい大臣たちとで食卓を囲んでいた際、父が言った。


「ああ、ほら。なんと言ったかな。凄まじく強固な土があったはずなのです。砂……だったかな。あれは運びやすく加工もしやすい上、砂状の時には柔らかで扱いやすいのに土と混ぜて加工すると泥のように柔らかくなり、しかし固まった後は強固になり、経年によって更に頑強な性質に変わっていく、まさに城壁にうってつけの……ああ、なんと言ったかな」

「ネクネ砂岩です、お父様。オーラビヨリカ海峡の南のアドシミア諸島の」

「そうだ!」


 この何気ない会話から城壁の改築が始まった。
 元バッケル伯領の人たちがこぞって手をあげてくれた事で人手も充分。計画性と安全性を重視した余裕を持った改築は37年に及んだ。

 如何なる外敵からも脅かされない、壁だ。
 愛する大地を、守るように。正に抱擁と呼べる壁。

 平安と繁栄を願い建てられた城壁が、後の世の侵略戦争で正に鉄壁となり国を救う事になるのだけれど、もちろんそれを願った上での改築だったのだけれども、今を生きる私がそれを肌で感じる事ができないのもまた当然の話。
 
 ところで、その後。
 私の顔のほうが先に老け始めたけれど、陛下は私を生涯、可愛い、可愛いと言って愛でた。私も彼を可愛く思い、私のコリー……なんて呼んだりして。

 私は深く愛され、愛を学び、深く愛し生きた。



                                (終)  
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