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5 コルネリウス1世陛下
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食卓を囲みながら事の次第と今後の計画を話すと、兄とその妻ヒセラは顔色を変えて憤慨した。
「空気税? とんでもないわ!」
「ええ、ほんとにね」
「馬鹿げた話だ! 俺には考えられない!」
「わかってる。だから国王陛下に謁見を申し込むのよ、お兄様」
こうして翌日には王都へ出発。
そして到着。
そしてなぜか優遇されて、一直線で謁見の間に通された。
「国王陛下」
私と、私のすぐ後ろに控える兄とで、膝をついて頭を下げる。
驚くべき事に、国王コルネリウス1世陛下は恐ろしく童顔だ。少し動揺した。
「謹んで申し上げます。この度、私はバッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストより離縁され、兄であるフェルフーフェン伯爵のもとに帰って参りました。この離婚に至る原因となったのは、元夫バッケル伯爵の非常に無慈悲で常軌を逸した悪政に意見し不愉快な思いをさせた事に端を発する夫婦の言い争いであります」
「エーディット……」
恐るべき事に、声も若い。
人間なのかしら。兄より年上のはずだけど……
「バッケル伯爵は結婚直後には豹変し、突如、税金を引き上げました。決して貧しい土地ではないにも関わらず、領民は食べるのもやっとです。はじめは話せば通じる相手だと信じていましたが、私は間違って──」
なぜかしら。
陛下、滑るように歩いてくるわ。
……人間かしら。人間よね。きっとそう。
「ああ、エーディット……!」
「……私の認識は間違っていました」
無意識に急いで言い直した。
「バッケル伯爵は高い税金に加え、人頭税まで取り、更には一呼吸毎に加算される空気税を取ると言い出しました。これに反対した結果、私は」
「顔をあげてください、エーディット」
「……!」
信じられない事に、陛下が私のすぐ前で跪き、私の手をそっと握った。
さすがに、言葉に詰まる。
そして目も剥いてしまう。
陛下の手は、顔に似合わず大きく、しっかり成人男性の骨格と厚みを持っていた。そして私はその手を凝視した。
「よくぞ報せてくれました。国民と国の領土を預かる身でありながら、悪魔の所業に他ならない。早速、厳罰を下します。あなたがバッケルの民を守ったのですよ。こちらを向いて、勇敢な女神の顔を僕に見せてください」
「……?」
いえ、自分を女神と形容されてそれを認めるほど愚かではないけれど。
相手が陛下なのだから、顔をあげるしかない。
「……」
近い。
そして、非常に神秘的な童顔。
「……あ」
目元に年相応の小皺を発見。
安心した。
「どうしました? エーディット」
「い、いいえ」
「ああ、よかった。顔色といい、英知を湛える瞳といい、あなたはとても元気そうだ。怪我がなくてよかった」
その瞬間、閃いた。
今、言うべきだと。
「髪を掴まれ、引き摺られ、着の身着のまま叩き出されました」
「えっ!? そうなのか!?」
斜め後ろで兄が仰天。
そして……
「チッ」
「!?」
神秘的な童顔のまるで天使かのようなコルネリウス1世陛下が、舌打ち。
「……」
興味深くて、つい凝視。
そうしていると、陛下の目が昏く光った。
そして譫言のような、呟き。
「処刑したい」
「空気税? とんでもないわ!」
「ええ、ほんとにね」
「馬鹿げた話だ! 俺には考えられない!」
「わかってる。だから国王陛下に謁見を申し込むのよ、お兄様」
こうして翌日には王都へ出発。
そして到着。
そしてなぜか優遇されて、一直線で謁見の間に通された。
「国王陛下」
私と、私のすぐ後ろに控える兄とで、膝をついて頭を下げる。
驚くべき事に、国王コルネリウス1世陛下は恐ろしく童顔だ。少し動揺した。
「謹んで申し上げます。この度、私はバッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストより離縁され、兄であるフェルフーフェン伯爵のもとに帰って参りました。この離婚に至る原因となったのは、元夫バッケル伯爵の非常に無慈悲で常軌を逸した悪政に意見し不愉快な思いをさせた事に端を発する夫婦の言い争いであります」
「エーディット……」
恐るべき事に、声も若い。
人間なのかしら。兄より年上のはずだけど……
「バッケル伯爵は結婚直後には豹変し、突如、税金を引き上げました。決して貧しい土地ではないにも関わらず、領民は食べるのもやっとです。はじめは話せば通じる相手だと信じていましたが、私は間違って──」
なぜかしら。
陛下、滑るように歩いてくるわ。
……人間かしら。人間よね。きっとそう。
「ああ、エーディット……!」
「……私の認識は間違っていました」
無意識に急いで言い直した。
「バッケル伯爵は高い税金に加え、人頭税まで取り、更には一呼吸毎に加算される空気税を取ると言い出しました。これに反対した結果、私は」
「顔をあげてください、エーディット」
「……!」
信じられない事に、陛下が私のすぐ前で跪き、私の手をそっと握った。
さすがに、言葉に詰まる。
そして目も剥いてしまう。
陛下の手は、顔に似合わず大きく、しっかり成人男性の骨格と厚みを持っていた。そして私はその手を凝視した。
「よくぞ報せてくれました。国民と国の領土を預かる身でありながら、悪魔の所業に他ならない。早速、厳罰を下します。あなたがバッケルの民を守ったのですよ。こちらを向いて、勇敢な女神の顔を僕に見せてください」
「……?」
いえ、自分を女神と形容されてそれを認めるほど愚かではないけれど。
相手が陛下なのだから、顔をあげるしかない。
「……」
近い。
そして、非常に神秘的な童顔。
「……あ」
目元に年相応の小皺を発見。
安心した。
「どうしました? エーディット」
「い、いいえ」
「ああ、よかった。顔色といい、英知を湛える瞳といい、あなたはとても元気そうだ。怪我がなくてよかった」
その瞬間、閃いた。
今、言うべきだと。
「髪を掴まれ、引き摺られ、着の身着のまま叩き出されました」
「えっ!? そうなのか!?」
斜め後ろで兄が仰天。
そして……
「チッ」
「!?」
神秘的な童顔のまるで天使かのようなコルネリウス1世陛下が、舌打ち。
「……」
興味深くて、つい凝視。
そうしていると、陛下の目が昏く光った。
そして譫言のような、呟き。
「処刑したい」
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