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1 小賢しい妻
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「あなた、やはりどこか頭がおかしいのではないの? 空気を吸うごとに税金を払うべきだなんて本気で思ってる? ただでさえ重税を課したばかりだというのに、更にそんな事をしたら領民は死んでしまうわ。絶対にやめて」
「うるさい!」
夫が怒鳴った。
「うるさいっていうのはこういう声の感じぃッ!?」
怒鳴り返す。
声量の調節なんて、難しい事ではない。
ただ、あまり大きな音は好まない。
「なんなんだ貴様は!」
「あなたの妻です。残念ながら」
「ああそうか! 妻はそんなに偉いのか!? 随分と御立派だな!!」
「仮にあなたが立派な領主であれば、私もそうであった可能性はあるわね」
「その口を塞ぐに殺すしかないのか!? あああ!?」
「まあ落ち着いて」
掌で制しても、夫の癇癪は収まらない。
「クソ! ちょっと顔がいいからって調子にのりやがって!」
「顔に惹かれて求婚したのは知ってる。あなたがそう言ったから」
「癪に障るんだよ!」
「あらそう、ごめんなさい。でも言わせてちょうだい。空気税は、やめて」
「もうたくさんだッ!!」
そう怒号をあげると、夫は私の髪を掴んで歩き出した。
さすがに驚いた。今まで肉体的な暴力は受けた事がない。ただ恐がるほどではない。髪は抜けても生えてくる。
「その顔で黙って頷いていればいいものを、生意気に意見ばかり言いやがって! 図に乗るな! 貴様より若くて愛嬌のある女はいくらでもいる! 身の程を弁える事も知らない年増女が調子に乗るな!」
「確かに結婚当初から年はとったけど、10年後に頭のてっぺんが薄くなるのは私ではなくてあなたよ、リシャルト」
髪を掴まれているので、自分の額に向かって話しかけているようなふしぎな体勢。これはこれで、興味深い。あと生え際が痛い。
と思っていたら、階段を下り、ついに玄関広間から外へ放り出された。
「おっと」
軽く転ぶ。
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」
「?」
疑問を感じている間に、扉が閉じられる。
「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」
私は大声で呼びかけた。
なんといっても、扉が閉まっているのだから。これくらいしないと。
「……」
返事はない。
ふと我に返り、私は立ちあがって、扉の傍まで行って、考えながら右往左往してみた。それから答えを見つけた。これは事態を明確にしたほうがいい。
私は再び、声を張り上げた。
「これ離婚って事!?」
「そうだ!!」
扉の向こうで、夫が叫んだ。
「うるさい!」
夫が怒鳴った。
「うるさいっていうのはこういう声の感じぃッ!?」
怒鳴り返す。
声量の調節なんて、難しい事ではない。
ただ、あまり大きな音は好まない。
「なんなんだ貴様は!」
「あなたの妻です。残念ながら」
「ああそうか! 妻はそんなに偉いのか!? 随分と御立派だな!!」
「仮にあなたが立派な領主であれば、私もそうであった可能性はあるわね」
「その口を塞ぐに殺すしかないのか!? あああ!?」
「まあ落ち着いて」
掌で制しても、夫の癇癪は収まらない。
「クソ! ちょっと顔がいいからって調子にのりやがって!」
「顔に惹かれて求婚したのは知ってる。あなたがそう言ったから」
「癪に障るんだよ!」
「あらそう、ごめんなさい。でも言わせてちょうだい。空気税は、やめて」
「もうたくさんだッ!!」
そう怒号をあげると、夫は私の髪を掴んで歩き出した。
さすがに驚いた。今まで肉体的な暴力は受けた事がない。ただ恐がるほどではない。髪は抜けても生えてくる。
「その顔で黙って頷いていればいいものを、生意気に意見ばかり言いやがって! 図に乗るな! 貴様より若くて愛嬌のある女はいくらでもいる! 身の程を弁える事も知らない年増女が調子に乗るな!」
「確かに結婚当初から年はとったけど、10年後に頭のてっぺんが薄くなるのは私ではなくてあなたよ、リシャルト」
髪を掴まれているので、自分の額に向かって話しかけているようなふしぎな体勢。これはこれで、興味深い。あと生え際が痛い。
と思っていたら、階段を下り、ついに玄関広間から外へ放り出された。
「おっと」
軽く転ぶ。
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」
「?」
疑問を感じている間に、扉が閉じられる。
「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」
私は大声で呼びかけた。
なんといっても、扉が閉まっているのだから。これくらいしないと。
「……」
返事はない。
ふと我に返り、私は立ちあがって、扉の傍まで行って、考えながら右往左往してみた。それから答えを見つけた。これは事態を明確にしたほうがいい。
私は再び、声を張り上げた。
「これ離婚って事!?」
「そうだ!!」
扉の向こうで、夫が叫んだ。
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