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4 感謝するべき縁組について

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「ヴィクトリヤ! 準備できてる!?」


 玄関広間から轟く、エクトル伯爵令嬢ジャニスの甲高い声。


「来たわ……!」


 私はぐったりと座り込み、額を押さえた。
 早朝の散歩は嘘、良くいって見栄だったわけだけれど、クィンラン子爵家訪問は現行中の恒例行事なのだ。エクトル伯爵の対処というのも、行事を撤廃するには至っていないらしい。


「ヴィクトリヤ!?」

「今行きますお義姉様!!」


 エクトル伯爵が手を焼いているからといって、クィンラン子爵夫人を見棄てる理由にはならない。今やエクトル伯爵の問題は私の問題でもある。

 玄関広間に下りると、ジャニスが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ふんっ、嫌ね。お義姉様だなんて。もう結婚したつもり?」

「意外だわ。まるで家族のように事前の連絡もなしにいらしたのに、まだ他人だなんて。ジャニスとお呼びしたほうがお気に召すかしら」

「まあ! なんて生意気なの!? ウスターシュ本当に趣味が悪いわ!」


 馬車に乗り込むまで、そして馬車で走行中、ずっと、ずっと、ずっと、ジャニスは私を貶し続けた。よくそこまで否定的な評価を捻り出せるものだと感心したけれど、気分は悪い。


「あなたを認めたわけではないのよ!? お父様が決めた事だから仕方なく従っているだけ! 調子に乗らないで頂戴!!」

「お誘い頂かなくても結構でしたのに」

「その口を閉じなさい、ヴィクトリヤ。お母様の気遣いを悪く言ったら只じゃおかないわよ」


 エクトル伯爵が娘の年齢分解決できなかった問題が、ジャニスだ。
 希望的観測は役に立たない。


「そうだ! どうして今日も黄色を身に着けているの!?」

「これは深緑色のドレスです」

「リボンよ! 馬鹿なの!? はんっ。澄まし顔のくせにこんな些細な言いつけも守れないわけ!?」

「次は白にします」

「白!? あなた頭おかしいんじゃない!? 緑には赤でしょう!?」


 ……クリスマス?


「お二方のように着こなせる自信がありませんわ」

「それはそうよ。洗練度が違いますもの!」


 奥の手をこんなに早く使ってしまうなんて、失策だった。
 でも悔やんでも遅い。

 少し気をよくしたジャニスは誇らしげに自身の婚約を語り始めた。ジャニスは今のところ可憐な外見が功を奏し、ヘンシャル伯爵ヒュー・バークレイに求婚されたらしい。肖像画が口を利けば、ヘンシャル伯爵も早まらなかっただろうに。


「ヒューはカムデン公爵の甥よ? わかる?」

「ええ」

あたくし・・・・は、ただの伯爵夫人にしかならないあなたとは格が違うの」

「あなたの弟が婚約者ですが」

「そうよ? だからあなた、もっと感謝なさい。ウスターシュのおかげでこうしてと並んで座れるのだから」

「……ウスターシュに会いたいわ。今すぐ」

「情けないわね。夫に頼るなんてもう時代遅れよ」


 深呼吸。

 見て、いい景色。
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