2 / 17
2 裏切り者を追放せよ
しおりを挟む
「ぉお父様ッ!!」
「おう! どうしたッ!」
書斎の扉を開け放った私に、父が起立で答えた。
「ハドリーは狙撃が趣味の女は嫌いだそうよ。それで可愛いキャンディーを妻にしたいんですって」
「なん……だ、と!?」
「そんな筋の通らない話ある?」
「ぃいいや!」
「馬鹿に言ってもしょうがないから、話は父親に通せと言ってやったわ」
「ああ!」
「キャンディーを呼ぶ?」
父が頷いたので、一度廊下に顔を出す。
「キャンディー! ちょっと来てぇぇぇぇっ!!」
返事が聞こえ、父に向き直る。
「それで、そんな奴は私も嫌だし、キャンディーだって渡せないわよ」
「ああ、もちろんだ」
「どう思う? リーバー伯爵は息子の婚約相手を変えたがるかしら?」
「まっさっか! リーバー伯爵は真面目な男だ。息子があんな馬鹿とは思わなかった」
「そうよね。どうなの? 女側から婚約破棄ってできる?」
「うぅーむ……」
父が顎を撫でる。
「相手がもっと悪人なら理屈も通るが……ただの馬鹿な軟弱者では、ただお前が我儘を言ったのだと世の中は受け取るかもしれん」
「そうね。実際、銃を持つ女はウケが悪いし」
「くそぉー! お前にはあれくらい下手に出てくれる奴がちょうどいいと思ったのに……まさか、よそ見するとは!」
「むかつくわ」
「お姉様、なぁに?」
キャンディーが入って来た。
「ああ。こっちへいらっしゃい、キャンディー」
「お父様も恐い顔して、なにか問題事?」
おっとりと語尾をあげて、私の腰に腕を回し抱きついてくる。
私もその肩を抱いて、少し背の低い妹の顔を覗き込んだ。
「そう。ハドリー、私と結婚したくないんですって」
「……は?」
キャンディーの瞳が凍てつき、声が下がった。
「しかもその理由が、お前が可愛いからお前と結婚したいなんて言ったそうだ」
「はあっ?」
おっとりした子でも、うちの子。
怒るときは怒る。
「なに、ふざけた事……言ってる、の……?」
「もちろん、そんな奴にあなたはあげないわ」
「私だって、そんな奴にお姉様はあげないわよ」
「お父様だってお前たちをそんな馬鹿にやれん」
私たちは、沈黙を挟み見つめあった。
……で。
「よし、リーバー伯爵に手紙を書くかな。うん。どう落とし前をつけるか委ねよう」
「〝婚約破棄は受け入れる〟って書いて」
「〝私は求婚を受け入れない〟って書いて」
父が着席し、黙々と筆を走らせる。
キャンディーがひっそりと呟いた。
「あの裏切り者。お姉様をふるなんて」
こういう子のほうが怒ると恐いのよ、ハドリー?
「おう! どうしたッ!」
書斎の扉を開け放った私に、父が起立で答えた。
「ハドリーは狙撃が趣味の女は嫌いだそうよ。それで可愛いキャンディーを妻にしたいんですって」
「なん……だ、と!?」
「そんな筋の通らない話ある?」
「ぃいいや!」
「馬鹿に言ってもしょうがないから、話は父親に通せと言ってやったわ」
「ああ!」
「キャンディーを呼ぶ?」
父が頷いたので、一度廊下に顔を出す。
「キャンディー! ちょっと来てぇぇぇぇっ!!」
返事が聞こえ、父に向き直る。
「それで、そんな奴は私も嫌だし、キャンディーだって渡せないわよ」
「ああ、もちろんだ」
「どう思う? リーバー伯爵は息子の婚約相手を変えたがるかしら?」
「まっさっか! リーバー伯爵は真面目な男だ。息子があんな馬鹿とは思わなかった」
「そうよね。どうなの? 女側から婚約破棄ってできる?」
「うぅーむ……」
父が顎を撫でる。
「相手がもっと悪人なら理屈も通るが……ただの馬鹿な軟弱者では、ただお前が我儘を言ったのだと世の中は受け取るかもしれん」
「そうね。実際、銃を持つ女はウケが悪いし」
「くそぉー! お前にはあれくらい下手に出てくれる奴がちょうどいいと思ったのに……まさか、よそ見するとは!」
「むかつくわ」
「お姉様、なぁに?」
キャンディーが入って来た。
「ああ。こっちへいらっしゃい、キャンディー」
「お父様も恐い顔して、なにか問題事?」
おっとりと語尾をあげて、私の腰に腕を回し抱きついてくる。
私もその肩を抱いて、少し背の低い妹の顔を覗き込んだ。
「そう。ハドリー、私と結婚したくないんですって」
「……は?」
キャンディーの瞳が凍てつき、声が下がった。
「しかもその理由が、お前が可愛いからお前と結婚したいなんて言ったそうだ」
「はあっ?」
おっとりした子でも、うちの子。
怒るときは怒る。
「なに、ふざけた事……言ってる、の……?」
「もちろん、そんな奴にあなたはあげないわ」
「私だって、そんな奴にお姉様はあげないわよ」
「お父様だってお前たちをそんな馬鹿にやれん」
私たちは、沈黙を挟み見つめあった。
……で。
「よし、リーバー伯爵に手紙を書くかな。うん。どう落とし前をつけるか委ねよう」
「〝婚約破棄は受け入れる〟って書いて」
「〝私は求婚を受け入れない〟って書いて」
父が着席し、黙々と筆を走らせる。
キャンディーがひっそりと呟いた。
「あの裏切り者。お姉様をふるなんて」
こういう子のほうが怒ると恐いのよ、ハドリー?
33
お気に入りに追加
2,046
あなたにおすすめの小説
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる