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6 和やかな昼食会

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 穏やかな日々が過ぎていった。
 どこかに出かけるより、たとえ短い時間でもランデル公爵と日々の食卓を囲むほうが、ずっとよかった。楽しかったし、顔を合わせる度に信頼が育っていくようだった。

 4ヶ月ほどたったある日。
 ランデル公爵と一緒に、ドレヴァンツ伯爵家の昼食会へ赴く事になった。ドレヴァンツ伯爵家は、ランデル公爵の亡き母親、つまり私にとっては義母にあたる夫人の生家であり、昼食会は、義母の弟、ランデル公爵の叔父であるドレヴァンツ伯爵の細やかな誕生祝いも兼ねているという。

 兄を残し、初めて夫婦ふたりだけで行動する。
 少し緊張したけれど、それは嫌な感覚ではなく、少し恥ずかしいような、甘酸っぱくこそばゆい緊張だった。相変わらずランデル公爵は優しく、静かながら心地よい会話に誘ってくれた。

 半日馬車に揺られ、昼食会の前日にドレヴァンツ伯爵家に着く。
 ドレヴァンツ伯爵家の人たちは私にもとても優しく接してくれた。
 私たち夫婦の泊まる客室は広く、更に続き部屋になっていて、別々のベッドで眠れるようになっていた。

 
「おやすみ、ルート」

「おやすみなさい」


 穏やかな挨拶のあとで、静かに続き部屋の扉を閉める。
 私はランデル公爵に、父とは違う安心感と、兄とは違う信頼感を抱くようになっていた。胸にあたたかな熱を宿してベッドに入ると、そこから体がほかほかとあたたまるようだった。

 そして迎えた、昼食会。
 それは身内と親しい友人が招かれた、和やかなものだった。晴れた空の下、広い庭の一点に食卓と天幕が並び、笑顔で集う。音楽を奏でるのも楽団ではなく、ドレヴァンツ伯爵の御友人。その孫たちが讃美歌を歌う。
 
 
「疲れていないかい?」


 会食の最中、ランデル公爵がそっと気遣ってくれた。


「大丈夫です。とてもいい方々で、気分が安らぎます」

「そうか。よかった」


 頷いて、私のために料理を取ってくれる。
 ランデル公爵は本当に優しい、とても優しい、便宜上の夫。

 便宜上でなくても、いい。
 便宜上でなくなればいい。

 穏やかな宴の中で、私はそんな事を考えていた。

 食後にはベンチで休んだり、クロッケーに興じたり、女の子たちが花冠を編んだりと、かなり寛いだ時間が設けられた。

 そんな時だった。

 花冠を編む女の子たちのうちのひとりと目が合って、ランデル公爵もドレヴァンツ伯爵ほか数人と話し込んでいたので、彼女たちのほうへ向かって私は歩き出した。
 ふと、視線を感じた。

 振り向くと、天幕の向こうにフィリップ卿が立っていた。
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