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1 人生めちゃくちゃ

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「すべて君がふしだらなせいだろう。君が色目を使わなければ、男の心を掴むわけもない。深い関係にあるからこそ、フィリップ卿は君への愛情を公言している、そう考えて然るべきだ。ルート・ユングクヴィスト、わかっているだろう? 当然、この婚約は破棄させてもらう」

「そんな……っ」


 世界が崩れ落ちてしまったようだった。
 実際、眩暈がした。兄が支えてくれていなければ、倒れていたに違いない。


「娘は潔白です。リンドホルム伯爵、今一度、考えを改めては頂けませんか」


 父の声は震えていた。
 リンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツは、冷たく首を振っただけだった。

 こうして、私の未来は潰えた。
 私は兄の腕の中で泣いた。号泣した。

 誰よりも事態を深刻に捉えているのは父だった。


「急がなければいけないんだ、ルート。お前を守るためなんだよ」

「お父様……」


 絶望は留まる事を知らない。
 父は私を守るため、遠い地の修道院へ入れると言い出したのだ。


「嫌です……!」

「ルート、わかってくれ。こうでもしなければフィリップ卿はお前を諦めない。もう破談を聞きつけて、勝手に婚約発表の日程を伝えて来た」

「えっ!?」


 寒気がして、私は自分で自分を抱きしめた。

 フィリップ卿。
 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルトこそ、すべての元凶だ。

 私がリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツ卿の婚約者として出席したパーティーで、初めて声を掛けられた。その初めて声を掛けられた時に求婚されたのだけれど、当然、お断りした。なにもおかしくない。
 けれど、わかってもらえなかった。
 

「その男はいいから、ふたりきりで会おう」

「え……?」


 エドガーの目を盗んで、耳元で、そう囁かれた。
 ぞっとした。話が通じないのだ。

 幸い、エドガーがすぐ気づいてくれたのだけれど、地獄の口が開いたような絶望感はその時から確実に私を捕らえていた。

 兄が間に入っても、父が正式に断っても、変わらなかった。
 むしろ兄に対してフィリップ卿が協力を要請するという、変な展開になった。

 フィリップ卿の執着は凄まじく、公の場では必ず現れて私をさらおうとした。
 エドガーの心が離れ始め、あからさまに嫌な顔をするようになった。そして危惧した通り、彼は私を見限ったのだ。

 でも、破談になった事より、それによってフィリップ卿の脅威が増す事のほうが恐ろしい。

 私を自分のものだと思っている。
 私に愛されていると思い込んでいる。

 気が狂いそうだ。
 恐くてたまらない。
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