私を罵った皆様、お元気かしら。今、辺境伯が私への愛を叫んでいます。

百谷シカ

文字の大きさ
上 下
5 / 15

5 フロールマン城の守護霊

しおりを挟む
「ん? どうしたの?」


 ビアンカが唐突に宙を見つめたので、聞いてみた。
 私の言葉に、ジークフリード卿が取り乱す。

 いや、さっきからずっと取り乱しているけど。改めて。
 

「へっ!? なっ、ななななんだ!?」

「ジークフリード卿、落ち着いて。大丈夫ですから。ビアンカ? どうしたの?」


 私の問いかけには答えず、少女の霊はスンッと消えた。


「ほっふ」

「?」


 ジークフリード卿、安堵してる。
 なるほどぉ、ちゃんと気配でわかるのね。

 中途半端な霊感だと苦労するんだなって、なんか、しみじみ思わされたわ。


「どこかへ行っちゃいましたね」

「あっ、当たり前だ! 四六時中はりつかれてたまるか!」

「ん!?」


 ジークフリード卿の自我と自尊心が瞬間的に回復した瞬間、とてつもなく大きくて強いホーリーな気配が、唐突に辺りを満たした……ので、私が声をあげた。


「ひん!」


 ジークフリード卿も、悲鳴をあげた。
 フックスベルガーはおじぃちゃんの貫禄を崩す事なく、佇んでいた。


「ビアンカ……」


 が再び現れたと思ったら、別の霊を連れていた。
 連れられていた、と表現すべきかも。

 嫋やかに微笑む、異国情緒あふれる美女の霊。


「なッ!? おっ、お嬢さん、しつこいぞ!! 私は仕事があるんだ!! いつまでも構ってられルかぁぁぁっ!! ひゃんっ! スティナ、スティナ、スティナッ!! スティナッ!!」


 声を裏返したり自分が飛び跳ねたり、忙しい辺境伯様だなぁ。
 

「ビアンカ、その人は?」

「なんだ! 誰だ!! いくらお嬢さんだからって寄ってたかって私をおちょくるとギェヤアアアアアッごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!」

「ジークフリード卿、1分だけ黙っててくれます?」

「無理だ恐いッ!!」


 無理だったかぁ……

 私は、額に手を当てて俯いた。
 こんな厄介な相手だったとは。あ、人間のほうの話。


「えっ、どどどどうした!? スティナ!? レディ・スティナしっかりしろ!! 私を置いていくなッ!!」

「マイ・ロード。レディ・スティナの邪魔をしてはいけません」

「邪魔ッ!? あっ、そっ、そうか……それはすまなかった。年甲斐もなく騒ぎ過ぎた。ヒィッ……あ、否。私の事は気にしないでくれ……んぎゅ」


 我慢してる。
 

〈アハハハハ! ジークフリードったら情けないッ!〉


 ビアンカはお腹を抱えて大笑い。
 私は安定のおじぃを見あげて、ビアンカとまとめて孫みたいな気持ちになってから、異国情緒あふれる美女の霊にずばり聞いてみた。


「どなたですか?」

「目線……ッ! 相手は大人なのか……ッ!!」


 戦々恐々としているジークフリード卿に少し切ない笑みを向けてから、美女の霊はサラッと答えた。


〈私はハザル。フロールマンの地を守護しとるんでィやっす〉

「…………!」


 美麗な顔とおっとり口調で、語尾が変!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

幸薄な私達の幸せな在処

こん
恋愛
ただの街娘な私。薬屋の両親の手伝いをして毎日を過ごしていた。ある日、偶然見知らぬ少年に助けてもらう。その少年は赤い瞳をしていた。赤い瞳に銀髪。私は、その瞳に魅せられた。綺麗で、何か凄い物が眠ってそうな瞳に。未だにバクバクする心臓のあたりをギュッと抑えた。それが、彼との出会い。 幸薄になった少女と不幸少年の幸せを探す物語。 ※なろう様でも掲載

幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」 「私が愛しているのは君だけだ……」 「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」 背後には幼馴染……どうして???

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

処理中です...