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4 アンビバレントな貫禄

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「しっ、失礼」

「いいえ」

「話は聞いていると思うファァッ!? この城で最近ッ、ヒィッ! おっふ……みょっ、妙な現象ガアァァァァッ!?」


 クールな外見のジークフリード卿が、声音をアップダウン……違うか、ダウンあっぷあっぷダウンしながら、威厳を取り戻した瞬間に手放すというお茶目な一面を披露してくれている。

 たしかに、ジークフリード卿の周りを駆け回っている少女の霊がいる。
 

〈キャハハッ! アハハハハッ! ウフフッ!〉


 すっごくご機嫌の少女、の霊。
 まったく悪意は感じないし、ただこどもが大人を揶揄って味をしめて癖になってエキサイトしてるだけみたい。

 
「なっ、なんだッ! 君ッ、見えているのか!!」

「はい」

「誰だッ!! ヒギィッ!!」

「お名前は?」


 私が腰を屈めて声をかけると、少女はピタッと止まった。
 そして、天真爛漫な瞳を輝かせて、私を見た。

 その透けた体の向こうで、ジークフリード卿が内股で我が身を抱きしめてキョロキョロしている。


「私はスティナよ。今日からここでお世話になるの。お世話をするとも言うけど。あたなと友達になりたいわ。名前を教えて?」


 名を暴くのが除霊の第一歩。
 だから警戒するかと思いきや、少女は嬉しそうに笑顔を咲かせた。


〈見えるのね!? ようこそ、私たちのお城へ!〉

「ええ、ありがとう。なんて呼んだらいい?」

「は……ッ!? かっ、会話してる……ッ!?」

〈ビアンカよ! 6才なの、ずっと! でも心はもう立派なレディよ!〉


 それはどうかしらね。
 たぶん、心も純真無垢な6才のままだと思うけど。

 でも、微笑ましい。


「笑ってる!? きっ、君! なぜ笑ってるんだッ!! いっ、いるのか!? そこにいるのか!? おい!」

「ここにいますし、悪い霊ではありません。ジークフリード卿が好きみたい」

「す、好きィッ!?」

〈!〉


 意思疎通の希望に目を煌めかせ、永遠の6歳児ビアンカが再びジークフリード卿の足元を走り抜けた。


「ヒンッ!」

「とても可愛い女の子です」

〈ジークフリード! こっちよ! こっち見て!!〉

「はうっ! オッ、お嬢さん!? お嬢さん!! やめないかっ! ひゃうっ! ごめんなさいごめんさないごめんなさいィッ!!」

〈アハハハハハッ!〉


 見てると、和むわ。

 ジークフリード卿もある程度は目で追っているけど、ビアンカの姿が見えているわけではないみたい。だから必要以上に恐がっているし、それがビアンカを楽しませている。


「ジークフリード卿、どういう風に見えているんですか?」

「どっんっなっ風ッ!?」

「はい。私はまったく恐いと思いませんし、おじぃ──フックスベルガー氏も平然としていますよ?」

「その男はどんな事にも動じないッ!!」


 たしかに、貫禄と安定感が桁違い。
 

「マイ・ロード。もう安心ですね。これほど頼もしいレディがフロールマン城に──」

「白い靄がッ! ふわふわした白い靄が私に纏わりついて、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁなんとかじてぇぇぇっ!!」

〈しっかりしてぇぇぇぇぇっ! マイッ・ロードッ!!〉


 応援されてる。
 で、泣いてるわ。ジークフリード卿。

 なんか、可愛い。
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