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9 これが王族の旅

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 さて、私の旅が始まった。
 人生の旅が。

 
「クララ。お前に馬車を買うぞ」

「あぇ?」


 急すぎて、もう変な声が出たわよ。
 

「女を夜中に馬上で寝かせる俺ではないぞ」

「あ、ありがとう……」


 実感がなかったから、まともにお礼も言えず怒涛の馬車買い。
 それも買った馬車が豪華すぎて、更に絶句。絶句に次ぐ絶句。


「殿下、買い物ばかりうまくなって」

「ああ、世界を回って見聞を広めているからな」


 四頭の馬に、小さな寝室を牽かせる感じ。
 小さいけれどベッドがあって、ベッドとは別に座席もあって、小さいとはいえ箪笥を積んでいる。どれも質のいいものばかり。


「いい感じだな。たまに食糧を備蓄させてもらうかもしれない」

「あの、どんどん使って? 私一人で使うなんて、贅沢すぎる」

「お前にとってこれは贅沢なのか。慣れろ!」

「……ええ、うん。わかった」


 驚きと戸惑いの連続だった。
 馬車が豪華なら、泊まる宿も豪華。そもそもまず、宿ではないよ。その土地の領主や権力者に挨拶した流れでそこに賓客として滞在する事になるので、常に王族としてもてなされている。

 私の扱いに、微妙な戸惑いを感じ取らなくはないわよ。
 鈍くないもの。

 でもなんとなく王子の連れとして、よくしてもらえる。

 見聞を広める目的の、王子の気分任せの旅なので、滞在するとその土地について一月以上は調査が行われる。

 国内にいるうちは私はただのお荷物だった。
 でも、国外に出た段階で、私は自分の有能さをアピールしてみた。


「クララ、お前、何ヶ国語話せるんだ?」

「数えた事ないわ。趣味なの」


 そう。
 私、外国語、趣味なのよ。

 
「実地で通用するか試してみたいというのが夢だったの。こんなに早く叶うとは思わなかった。アシェル、本当にありがとう」

「なあ、もしかして俺の母国語も話せる……のか?」


 私は試してみる事にした。
 アシェルの国の言葉で自分から話しかけたら調子に乗ってると思われそうで、水を向けてくれるのを実は待っていた。


「────こんな感じ? どうかしら。発音がおかしい所があれば教えてくれる?」

「いや、完璧だ。驚いた」


 アシェルがぼぅっと私を見つめた。

 嬉しい!
 なんだか、私自身の力を認めて貰えたようで、凄く嬉しいわ!


「外国語がわかるといいわよね。私、思うんだけど……あなたもどこの国の言葉も喋れるんでしょうけれど、母国語を話している時が一番素敵よ」

「クララ……」


 アシェルがまだ私を見つめてる。
 誇らしいし、ちょっと照れる。


「お嬢さん……」


 ハツさんまで私を見つめる。


「それなのにどうして、私の名前を……いつまでたっても……」

「お前の名前は確かに発音しにくいよな」

「まあ、そうですけど」


 ごめんね、ハツさん。
 出会った頃すごく疲れていたから、頭が追いつかなくて、その間に癖になっちゃったのよ。


「そうしたらクララ、俺を手伝ってくれないか?」

「もちろん。私にできる事なら、なんでもさせてもらいたいわ」

「翻訳を頼む。俺一人でするより、倍の量がこなせる」

「競争しましょう」

「おお!」


 こんな感じで、私も役に立てた。
 そんな旅は楽しくて、瞬く間に時は過ぎ…………
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