上 下
15 / 17

15 祝福の嵐

しおりを挟む
 王家主催の舞踏会では実に23組の求婚が成立した。
 花嫁候補の中で、カリプカ総督令嬢姉妹とリボーフ侯爵組だけが悲しい結果となった。元々、招待された貴族たちの中の、花嫁候補以外の令嬢のほうが数が多い。それを思えば、多いのか少ないのかよくわからない結果だ。

 ただ、どの婚約者たちも一つの制約を共有していた。
 フローレンスの次にレディ・レイラ。プリンセスとなるふたりの結婚式が先。当然の事だった。

 フローレンスが特に多忙を極め、私には手伝う能力もないのだけれど、やはりレーテルカルノ伯爵家に住み込む事になった。


「あなたに傍にいてほしいの」


 フローレンスにそう言われた時の喜びは、一生、忘れられない。
 
 舞踏会を終え、推薦人としての最後の仕事と婚約報告を兼ねて、ゼント卿は一旦、私を生家ニネヴィー伯爵家へ送り届けた。私は、一度は帰ったのだ。そこで父に頬を打たれた。


「王子の気を引くべき大事な時にこんな若造に色目を使ったのか! 馬鹿者が!!」


 私は頬を押え転び、唖然とした。
 ゼント卿も、信じられないものを見たと言う顔で固まっていた。

 私を庇ったのは、母だった。


「やめてください! 殴るなら私を殴ってください!!」


 再び手を上げようとした父を、ゼント卿が無言で止めた。
 その目には、鋭い敵意が光っていた。

 父の予定通り、両親は離婚に至った。ただそれは、私が修道院へ入り母が見捨てられるというものではなかった。ゼント卿が母の生家ヴィマー伯爵家の後ろ盾となり、母と私に有利な形で離婚を成立させたのだ。冷静さを取り戻した父はゼント卿に何度も謝罪を申し込んだらしいけれど、彼は受け付けなかった。私が暴力を受けた瞬間、彼の中の父に対する冷ややかな評価は憎しみと嫌悪に変わったのだという。

 母は充分な慰謝料を受取り、小さな別荘を買ってそこで静かに暮らしている。

 私は改めてヴィマー伯爵家の令嬢として、レーテルカルノ伯爵家に赴いた。
 ゼント卿はピーター殿下の側近に戻り、殿下とレディ・レイラの結婚式の調整役などを務めながらも、手紙や贈り物で私を安心させてくれたり、時間を作って訪ねてくれた。

 そして、瞬く間に時は流れた。

 国をあげての王太子フランシス殿下とフローレンスの結婚式は、言葉にできないほど素晴らしかった。その2週間後にはピーター殿下とレディ・レイラの結婚式が執り行われ、ますます国全体が祝福に包まれた。私はどちらの式にも花嫁の介添え人として参列し、忙しさの中でこの上ない幸せを感じていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました

紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。 だがそれは過去の話。 今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。 ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。 タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。

はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」 「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」 「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」 「ああ…なるほど。わかりました」 皆が賑わう昼食時の学食。 私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。 マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。 全くこの人は… 全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

処理中です...