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14 私の王子様
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こちらへ向かって歩いてくるゼント卿の行く手を遮ったのは、カリプカ総督令嬢リオノーラ・カマーフォードだった。立ち止まり、笑顔で対応するゼント卿の様子を見て、私はなぜか傷ついた。
すると一度離れかけたドミニク卿が、思い留まり、隣で小さな溜息を吐いた。
「あの異国の令嬢は目に余りますね。なんでも姉君のほうは控室で不祥事を起こしたそうではないですか。大丈夫、ゼント卿は惑わされたりしません。自信を持って」
「は、はい……」
ドミニク卿に励まされ、思わず返事をしてしまってから、なんとなくふしぎな状況になっている事に気づく。
「恋敵の肩を持つのが悔しくないと言えば嘘になりますが、気になればこそ、見ていたのですよ。あなたたちは互いに惹かれ合っている。それにゼント卿は公正な人物だ。無垢な美しさと純粋な心を持つあなたは、愛する人物に愛されて幸せになるべきです。ほら、言ったでしょう? こっちへ来ますよ。自信を」
言葉遣いや物腰は違えど、ゼント卿のように私を励ますドミニク卿。
けれど私は、ドミニク卿には、惹かれなかった。それがもうゼント卿に恋をしているからなのか、本来、親切心に心が惹かれる性格ではなかったからなのか、わからない。
ただ、はっきりしているのは、ゼント卿が私を見つめているという事。
「どうも」
傍へ戻って来ると、ゼント卿はただ一言ドミニク卿に言葉を掛けた。
「ご不在の間お守りしましたよ」
「ありがとう」
短い会話のあと、ドミニク卿は優しい微笑みで私に会釈をして離れた。
「あ……ゼント卿」
「ローズマリー、ちょっといいか」
「え。はい」
ゼント卿は私をバルコニーに連れ出した。
夜の冷たい風が、大広間の熱気で火照った体には心地いい。それにいくら素晴らしい伴奏だろうと、ずっと近くで聞き続けていては疲れてしまう。宴の盛り上がりが遠のいて、驚くほど楽になった。
「疲れたか?」
「……少し。でも、平気です」
「そうか」
ゼント卿はずっと真顔だ。
いつもは私を励ましたり、持ち上げたり、冗談を言ったりしていたのに。真剣な面持ちをしていると、彼が本当に素敵に見えて、実際、素敵なのだけれど、だからこそ困ってしまう。
私は花嫁候補で、彼は私の推薦人だった。
それももう過去の話。
「ピーターに小突かれた」
「え!?」
唐突に始まった話の内容に、私は衝撃を隠せずつい大声を出してしまう。
「君の父親のように振舞っている。それが卑怯だと言われた」
「……」
「確かに、その通りだ。俺は卑怯だった」
私は彼の事を卑怯だなんて思った事はないし、今そう言われても腑に落ちない。だから、なんと言葉をかければいいのか迷った。だから、黙っているしかなかった。
黙って見つめていたら、ゼント卿は、跪いた。
そして私の手を掬った。
「ローズマリー・ボイス。愛している。俺の妻になってくれ」
真剣な眼差しは熱く、声はひそやかに重く。
杭に貫かれたような衝撃を、私は受けた。
それが喜びに変わるまで、数秒かかった。
「愛している」
彼が言葉を重ねる。
私は喜びに震え、見つめていた。涙が溢れた。
「……はい!」
手の甲にキス。
それからすぐに立ち上がり、彼は私を抱きしめた。
月灯りの下、私は初めて、熱く甘いキスに身を任せた。
すると一度離れかけたドミニク卿が、思い留まり、隣で小さな溜息を吐いた。
「あの異国の令嬢は目に余りますね。なんでも姉君のほうは控室で不祥事を起こしたそうではないですか。大丈夫、ゼント卿は惑わされたりしません。自信を持って」
「は、はい……」
ドミニク卿に励まされ、思わず返事をしてしまってから、なんとなくふしぎな状況になっている事に気づく。
「恋敵の肩を持つのが悔しくないと言えば嘘になりますが、気になればこそ、見ていたのですよ。あなたたちは互いに惹かれ合っている。それにゼント卿は公正な人物だ。無垢な美しさと純粋な心を持つあなたは、愛する人物に愛されて幸せになるべきです。ほら、言ったでしょう? こっちへ来ますよ。自信を」
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「どうも」
傍へ戻って来ると、ゼント卿はただ一言ドミニク卿に言葉を掛けた。
「ご不在の間お守りしましたよ」
「ありがとう」
短い会話のあと、ドミニク卿は優しい微笑みで私に会釈をして離れた。
「あ……ゼント卿」
「ローズマリー、ちょっといいか」
「え。はい」
ゼント卿は私をバルコニーに連れ出した。
夜の冷たい風が、大広間の熱気で火照った体には心地いい。それにいくら素晴らしい伴奏だろうと、ずっと近くで聞き続けていては疲れてしまう。宴の盛り上がりが遠のいて、驚くほど楽になった。
「疲れたか?」
「……少し。でも、平気です」
「そうか」
ゼント卿はずっと真顔だ。
いつもは私を励ましたり、持ち上げたり、冗談を言ったりしていたのに。真剣な面持ちをしていると、彼が本当に素敵に見えて、実際、素敵なのだけれど、だからこそ困ってしまう。
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それももう過去の話。
「ピーターに小突かれた」
「え!?」
唐突に始まった話の内容に、私は衝撃を隠せずつい大声を出してしまう。
「君の父親のように振舞っている。それが卑怯だと言われた」
「……」
「確かに、その通りだ。俺は卑怯だった」
私は彼の事を卑怯だなんて思った事はないし、今そう言われても腑に落ちない。だから、なんと言葉をかければいいのか迷った。だから、黙っているしかなかった。
黙って見つめていたら、ゼント卿は、跪いた。
そして私の手を掬った。
「ローズマリー・ボイス。愛している。俺の妻になってくれ」
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彼が言葉を重ねる。
私は喜びに震え、見つめていた。涙が溢れた。
「……はい!」
手の甲にキス。
それからすぐに立ち上がり、彼は私を抱きしめた。
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