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8 鮮烈な出会い
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フローレンスが庇うように立ち塞がる。
するとカリプカ総督令嬢が怪訝そうに眉を寄せた。
「なぜ庇うの? 代わりに潰してあげたのに」
「……!?」
私が驚愕しているのを見て、カリプカ総督令嬢は更に嘲笑を浮かべた。
「あのゼント伯爵とやらが冴えない田舎娘で人数合わせをしたのは、あなたを確保したから。そうでしょ? みんなそれくらい承知してる。不作法者は控室で粗相をして棄権。それでみんなの胸の閊えがとれる」
「……っ」
フローレンスは言い返さなかった。
でもそれは、身分の上では格上の相手だから当然だ。
慌てた様子でゼント卿が駆けつけ、私を庇うフローレンスの更に前に立ちはだかった。カリプカ総督令嬢が手を添えて笑い、顎を上げて目線で見下す。
「ああ、そういう事。お手付きなのね」
「……!」
あらぬ誤解だ。
只でさえ酷い状況なのに、更に迷惑をかけてしまう。
「……っ」
喉からおかしな音がして、私はぶるりと震えた。そうしたらすぐ、涙が溢れた。
消えてなくなりたい。
私が侮辱されるのは、構わない。初めてではないのだから。でも、大事な舞踏会だというのに私のせいでフローレンスとゼント卿に迷惑をかけてしまった。そんな私は、要らない。居てはいけない。
フローレンスが恐い顔でふり向いた。
「!」
嫌われた。
心が、張り裂けるように痛む。
「……」
けれど次の瞬間、フローレンスは私の頭を彼女の首元に引き寄せるようにして、抱きしめてくれた。無言だったのは、発言が不利にしかならないからだ。彼女は優しかった。フローレンスは、本当に私の友達だったのだ。
フローレンスが力強く髪を撫でてくれる。
だから私は、ただ、頷いた。
もう涙は止まっていた。
状況は最悪のままで、たぶん私は舞踏会に出る事はできない。
それでも、私は一心にフローレンスを応援できる立場に希望を見出していた。
「きゃあ!」
唐突に叫んだのはカリプカ総督令嬢だった。
フローレンスが様子を確かめるために腕の力を緩めたので、私もゼント卿の大きな背中の脇から窺う。するとそこには思いがけない人が立っていた。
アドレフ侯爵令嬢レイラ・ペンリー。
この人もまた、雲の上の御令嬢だ。フローレンスは近寄ってみたら小柄だったけれど、レディ・レイラは背が高い。漆黒の髪と切れ長の目が湛える威厳は、これからプリンセスになろうというより、既に女王のような風格を見る者に感じさせる。
そのレディ・レイラの長い腕が、驚いてあたふたしているカリプカ総督令嬢のドレスの襞を掴んだ。誰もが目を瞠った。レディ・レイラは一言、
「ふんっぬ」
と洩らしながらカリプカ総督令嬢のドレスを引き裂いたのだ。
するとカリプカ総督令嬢が怪訝そうに眉を寄せた。
「なぜ庇うの? 代わりに潰してあげたのに」
「……!?」
私が驚愕しているのを見て、カリプカ総督令嬢は更に嘲笑を浮かべた。
「あのゼント伯爵とやらが冴えない田舎娘で人数合わせをしたのは、あなたを確保したから。そうでしょ? みんなそれくらい承知してる。不作法者は控室で粗相をして棄権。それでみんなの胸の閊えがとれる」
「……っ」
フローレンスは言い返さなかった。
でもそれは、身分の上では格上の相手だから当然だ。
慌てた様子でゼント卿が駆けつけ、私を庇うフローレンスの更に前に立ちはだかった。カリプカ総督令嬢が手を添えて笑い、顎を上げて目線で見下す。
「ああ、そういう事。お手付きなのね」
「……!」
あらぬ誤解だ。
只でさえ酷い状況なのに、更に迷惑をかけてしまう。
「……っ」
喉からおかしな音がして、私はぶるりと震えた。そうしたらすぐ、涙が溢れた。
消えてなくなりたい。
私が侮辱されるのは、構わない。初めてではないのだから。でも、大事な舞踏会だというのに私のせいでフローレンスとゼント卿に迷惑をかけてしまった。そんな私は、要らない。居てはいけない。
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「!」
嫌われた。
心が、張り裂けるように痛む。
「……」
けれど次の瞬間、フローレンスは私の頭を彼女の首元に引き寄せるようにして、抱きしめてくれた。無言だったのは、発言が不利にしかならないからだ。彼女は優しかった。フローレンスは、本当に私の友達だったのだ。
フローレンスが力強く髪を撫でてくれる。
だから私は、ただ、頷いた。
もう涙は止まっていた。
状況は最悪のままで、たぶん私は舞踏会に出る事はできない。
それでも、私は一心にフローレンスを応援できる立場に希望を見出していた。
「きゃあ!」
唐突に叫んだのはカリプカ総督令嬢だった。
フローレンスが様子を確かめるために腕の力を緩めたので、私もゼント卿の大きな背中の脇から窺う。するとそこには思いがけない人が立っていた。
アドレフ侯爵令嬢レイラ・ペンリー。
この人もまた、雲の上の御令嬢だ。フローレンスは近寄ってみたら小柄だったけれど、レディ・レイラは背が高い。漆黒の髪と切れ長の目が湛える威厳は、これからプリンセスになろうというより、既に女王のような風格を見る者に感じさせる。
そのレディ・レイラの長い腕が、驚いてあたふたしているカリプカ総督令嬢のドレスの襞を掴んだ。誰もが目を瞠った。レディ・レイラは一言、
「ふんっぬ」
と洩らしながらカリプカ総督令嬢のドレスを引き裂いたのだ。
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