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1 なにもない私

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「君には『華』というものがない。いるんだかいないんだかわからない、取り柄も特徴もない、そんな妻は必要ない。このまま結婚するくらいなら一生独身のほうがまだましだ。存在感のない息子に相続させるという苦悩を抱える事もなく、後継者を選べるからね。そういうわけで婚約は破棄する。なに、悲観する必要はない。君のような女でも必要とする冴えない貴族がいないわけではない。ひとつ助言するならば、行く末を憂いて身分を落とさない事だ。そんな事をされたら一度は婚約関係にあった私まで品性を疑われる。君はただ修道院に入ればいい」

「……」

「そういうわけです、ニネヴィー卿。御理解頂けますかな?」


 父は、エームス伯爵ハンフリー・フォースター卿からの一方的な婚約破棄を承諾した。慰謝料を取る事もなく、本当にすんなりと。

 そしてその夜、私に言った。


「お前には幻滅した、ローズマリー。出来損ないめ」

「……お、お父様……っ」


 あまりのショックに眩暈がした。
 でも、なんとか耐えた。


「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは。お前にもうんざりだ」

「……!」


 母も真っ青になって涙を堪えている。
 父は忌々しそうに溜息を吐くと、目を合わす事なく言った。


「婚姻は政治。一度の失敗が生涯後を引くんだぞ。更に、跡継ぎを産むのが女の仕事だ。そのどちらもできないのか。お前たちは女じゃない。女以前の人形。それも飲み食いし、それなりに生活をさせてやらねば体面の保てない酷い荷物だ。仕方ない、必要悪だからな。このままではまずい」


 なにも言えない。
 私は固唾を呑んで、父の次の言葉を待った。

 やがて父は言った。


「年末、王家主催の舞踏会が開かれる。ふたりの王子の花嫁選びが行われるが、あぶれた令嬢を目当てに有力貴族がこぞって参加する。挽回するんだ、ローズマリー。結婚相手は自分で獲得しろ」

「……そんな……!」


 私は絶望した。
 人見知りでなんの取り柄もない私にとって、そんな大舞台は恐ろしいものでしかない。その上、結婚相手を自分で獲得しろだなんて……

 でも、甘かった。

 父はもっと冷酷だった。


「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて、離婚する」

「!?」

「あなた……!」


 母が泣き崩れる姿を見て、これが現実なのだと思い知る。
 
 まるで生きた心地のしない、生殺しの日々が始まった。
 ただ、父はふたりの王子の花嫁候補として舞踏会に参加する手続きだけはしてくれた。

 そして、彼がやってきた。
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