1 / 17
1 なにもない私
しおりを挟む
「君には『華』というものがない。いるんだかいないんだかわからない、取り柄も特徴もない、そんな妻は必要ない。このまま結婚するくらいなら一生独身のほうがまだましだ。存在感のない息子に相続させるという苦悩を抱える事もなく、後継者を選べるからね。そういうわけで婚約は破棄する。なに、悲観する必要はない。君のような女でも必要とする冴えない貴族がいないわけではない。ひとつ助言するならば、行く末を憂いて身分を落とさない事だ。そんな事をされたら一度は婚約関係にあった私まで品性を疑われる。君はただ修道院に入ればいい」
「……」
「そういうわけです、ニネヴィー卿。御理解頂けますかな?」
父は、エームス伯爵ハンフリー・フォースター卿からの一方的な婚約破棄を承諾した。慰謝料を取る事もなく、本当にすんなりと。
そしてその夜、私に言った。
「お前には幻滅した、ローズマリー。出来損ないめ」
「……お、お父様……っ」
あまりのショックに眩暈がした。
でも、なんとか耐えた。
「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは。お前にもうんざりだ」
「……!」
母も真っ青になって涙を堪えている。
父は忌々しそうに溜息を吐くと、目を合わす事なく言った。
「婚姻は政治。一度の失敗が生涯後を引くんだぞ。更に、跡継ぎを産むのが女の仕事だ。そのどちらもできないのか。お前たちは女じゃない。女以前の人形。それも飲み食いし、それなりに生活をさせてやらねば体面の保てない酷い荷物だ。仕方ない、必要悪だからな。このままではまずい」
なにも言えない。
私は固唾を呑んで、父の次の言葉を待った。
やがて父は言った。
「年末、王家主催の舞踏会が開かれる。ふたりの王子の花嫁選びが行われるが、あぶれた令嬢を目当てに有力貴族がこぞって参加する。挽回するんだ、ローズマリー。結婚相手は自分で獲得しろ」
「……そんな……!」
私は絶望した。
人見知りでなんの取り柄もない私にとって、そんな大舞台は恐ろしいものでしかない。その上、結婚相手を自分で獲得しろだなんて……
でも、甘かった。
父はもっと冷酷だった。
「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて、離婚する」
「!?」
「あなた……!」
母が泣き崩れる姿を見て、これが現実なのだと思い知る。
まるで生きた心地のしない、生殺しの日々が始まった。
ただ、父はふたりの王子の花嫁候補として舞踏会に参加する手続きだけはしてくれた。
そして、彼がやってきた。
「……」
「そういうわけです、ニネヴィー卿。御理解頂けますかな?」
父は、エームス伯爵ハンフリー・フォースター卿からの一方的な婚約破棄を承諾した。慰謝料を取る事もなく、本当にすんなりと。
そしてその夜、私に言った。
「お前には幻滅した、ローズマリー。出来損ないめ」
「……お、お父様……っ」
あまりのショックに眩暈がした。
でも、なんとか耐えた。
「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは。お前にもうんざりだ」
「……!」
母も真っ青になって涙を堪えている。
父は忌々しそうに溜息を吐くと、目を合わす事なく言った。
「婚姻は政治。一度の失敗が生涯後を引くんだぞ。更に、跡継ぎを産むのが女の仕事だ。そのどちらもできないのか。お前たちは女じゃない。女以前の人形。それも飲み食いし、それなりに生活をさせてやらねば体面の保てない酷い荷物だ。仕方ない、必要悪だからな。このままではまずい」
なにも言えない。
私は固唾を呑んで、父の次の言葉を待った。
やがて父は言った。
「年末、王家主催の舞踏会が開かれる。ふたりの王子の花嫁選びが行われるが、あぶれた令嬢を目当てに有力貴族がこぞって参加する。挽回するんだ、ローズマリー。結婚相手は自分で獲得しろ」
「……そんな……!」
私は絶望した。
人見知りでなんの取り柄もない私にとって、そんな大舞台は恐ろしいものでしかない。その上、結婚相手を自分で獲得しろだなんて……
でも、甘かった。
父はもっと冷酷だった。
「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて、離婚する」
「!?」
「あなた……!」
母が泣き崩れる姿を見て、これが現実なのだと思い知る。
まるで生きた心地のしない、生殺しの日々が始まった。
ただ、父はふたりの王子の花嫁候補として舞踏会に参加する手続きだけはしてくれた。
そして、彼がやってきた。
32
お気に入りに追加
1,667
あなたにおすすめの小説
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました
紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。
だがそれは過去の話。
今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。
ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。
タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。
そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。
はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」
「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」
「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」
「ああ…なるほど。わかりました」
皆が賑わう昼食時の学食。
私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。
マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。
全くこの人は…
全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる