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1 ヤバい令嬢が凸してきた

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「彼を返して! その方は私の夫なのよ!!」

「えっ、なにッ!?」


 グイっと腕を掴まれてふり返ると、小柄で目の大きな令嬢が私を見あげていた。
 というか、睨んでいた。爛々と。

 でも、どうして……?



「ごめんなさい。私、なにかご迷惑を──」

「違うッ!」

「!」


 怒鳴られた。
 

「聞いてなかったの!? 彼は私の夫なの! 彼を返してッ!!」

「え?」


 彼?
 どこの彼?


「あ、あなた、なにか勘違いをされているんだわ。私の夫は──」

「あなたの夫じゃないッ!!」

 
 ああ、話を聞いてもらえない。

 ちょうど夫のパールはポーカー仲間とばったり会って、新しい友人を紹介してもらうため少し離れてしまった。楽しそうに歓談している姿は見えるけれど、晩餐会も余興に差し掛かって、声が届かないくらいには賑やかさが極まっている。


「私の夫をじろじろ見ないでってば! 泥棒!! 淫売!!」


 こっちの令嬢も極まっている。
 勘違いしているのは確かだとしても、婚約者か夫を横取りされたのだとしたら、それは取り乱して当然だ。

 涼しい場所で、ミルクでも飲んでもらおう。
 私は誘おうとして腕に触れた。


「やめて!」

「!」


 叩き落された。
 痛い。


「許さないわよ、ヴェロニカ」

「!?」


 それは私の名前。


「……え?」


 やましい事なんてないのに、ギクリとしてしまう。
 なんだか、とんでもない人に掴まってしまったかも……?


「パールは私と結婚するはずだったのよ? 生まれる前から決まっていたの。それなのに、あなた横取りした。私から夫を奪った! 奪ったッ!!」

「!」


 相手は本気だ。
 私は肩の辺りを叩かれ、一歩後ずさる。


「彼を愛してるのは私! 彼の妻は私!!」


 パール。
 それは、夫の名前。

 そして私はパールの妻。


「ちょっと意味がわかりませんけど……あの、どちら様?」


 ちなみにパールと私は正真正銘のメランデル伯爵夫妻。
 幼馴染で、大人になったら結婚しようねって言い出した次の年には許婚になって、年齢が一桁の頃から社交界では公認の仲だった。

 もし私との前に誰かと婚約関係があったとしたら……いいえ、そんな話は聞いた事がない。両家の間に、そんな後ろ暗い秘密はない。
 だいたい、目の前で鼻息を荒くしている令嬢の見た目からして、私たちが許婚になった頃は赤ちゃん、せいぜいハイハイしていた頃のはず。

 
「……?」


 さっき、生まれる前から……とかなんとか、言っていた。
 

「フレイヤよ。私、前世の記憶があるの。彼と結婚していたのよ! 彼を返してッ!!」

「──」


 えっ?
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