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7 カーテンの中

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「どうしていないの? 大きくて目立つのに」

「今あなたが目立ってる」

「私じゃなくてキャロルを見て」

「いや。あの様子を見るにもう……」


 バルコニーに目を戻すと、可愛いキャロルがうっとりと相手を見あげていた。
 

「まあ、婚約者見せびらかすような鈍感チャーリーはもういいわ」

「あー……お会いするのは初めてですよね?」


 チャーリーは気取って顎なんか撫でている。
 求婚した自分を棚にあげて……今、それどころじゃない。


「キャロル、それは誰? 知り合いなの?」

「ああ、あれは……」

「わかった。ダニエル、バルコニーの近くにいるんだわ」


 ばしん、と。
 チャーリーを叩いて促し、窓のほうへ進んでいく。当然、途中で優雅に挨拶などを交わしながら、キャロルの様子を確かめるのも忘れない。
 もう少しでバルコニーというところで分厚いカーテンから腕が出てきて、すぐダニエルだとわかった。広間に目を走らせてからカーテンの内側に入る。


「(どうなってるの?)」

「(今、求婚されてる。たぶん)」

「(ほんと? 私もさっきされた)」

「(え、誰に)」

「(チャーリー・ハズウェル)」

「はあっ!?」


 右手でダニエルの口を塞ぎ、左手でなかなかカーテンの内側に入ってこないチャーリーを引きずり込んだ。


「んなっ、馬鹿力……」


 自分が私より小さいだけのくせに、チャーリーは本当に生意気だ。
 キャロルはいったいチャーリーのどこがよかったのだろう。
 顔?

 あ。


「(わかった。あれもアヴァンズロックの幼馴染ね)」


 幼馴染の結婚式があって、今年は冬も大集合しているというわけか。


「(チャーリー。お前、オーロラに求婚したのか?)」

「(お前の知り合いなんだな)」

「(なんで求婚したんだ)」

「(悪かった。知らなかったんだ)」

「(今キャロルの話をしてるってどうしたら思い出してもらえる?)」


 ダニエルの肩に肘を掛け、睨みつつ目を覗き込んだ。


「(キャロルはいいんだよ)」


 顎を引くようにして、ダニエルも私を睨む。


「(いいってなにが?)」

「(キャロルの相手がいちばん安心できる奴になりそうだから)」

「(はん。チャーリーはお兄ちゃまの目に適ってなかったわけ)」

「(お前にはわからないだろうけど、あの性格は兄だから許せるんだ)」

「(は? じゃあ、あなたは妹だと思えば我慢できるって気持ちで一緒にいたの? ちょっと、どこ行くのよ)」


 逃げ出そうとしていたチャーリーを、再び引きずり込む。


「(いや、ふたりきりにしてやったほうがいいのかと思って)」

「(私とダニエルが気を遣う仲に見える? キャロルの気持ちにも気づかないし。私のお姫様に相応しくないのはこの鈍感のほうよ)」

「(鈍感はどちらかな?)」

 
 ふいにチャーリーが怜悧な一瞥をくれた。
 まあダニエルの幼馴染で、保護者としてはキャロルを大切にしているようだし、あと私の美貌目当ての求婚ではなかった点も考慮すれば、決して悪い男ではないかもしれない。頭は良さそうだし。


「(忘れてた。弟さん、ご結婚おめでとう)」

「(キャロルの話をしよう。相手はジョシュア・ノリス子爵だ)」


 チャーリーが話題交渉を持ちかけてくる。たしかに私にとって今いちばん重要なのは、キャロルだ。

 ダニエルの肩に掛けていた肘を伸ばして肩を抱き込み、ぽんぽんと叩く。そしてチャーリーを見おろし、ダニエルの目を覗き込む。


「(子爵?)」


 破産寸前だから、この際、貴族なら爵位がさがってもいいのだろうか。


「(いずれ伯爵家を継ぐんだよ)」


 それならよかった。


「(いいじゃない。探さなくても相手はすぐ近くにいたわけね)」

「(誤解があるようだが、キャロルの気持ちを知るジョシュアの気持ちを知っていたから、キャロルにもジョシュアにも中立の立場をとり続けた。ダニエルも同じだ。鈍感はおま……失礼、なぜか男に見えて)」


 口調が砕けたチャーリーは、少し可愛げがあった。
 私はチャーリーの背中をばしんと叩いて、笑顔で言った。


「(男に見えたならお目が高いけど、私は鈍感じゃない)」

「なにやってるの?」


 勢いよくカーテンが開かれ、呆れ顔のキャロルが順に私たちを見あげた。
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