11 / 12
11 幼馴染と永遠の愛を誓う
しおりを挟む
平和でとてつもなく慌ただしい日々に追われていた、ある日。
王都は田舎より進歩的なのか、それとも彼の執着心が成せる業なのか、リシャールはドレスの試着についてきた。私はもう驚かなかった。謎の気を利かせて母が帰ってしまったのには驚いたけど。
「私は嘘も秘密もないから安心してね」
試着中、分厚いカーテンで仕切られているだけでも、変に意識するのは彼だけなので遠慮なく話しかける。
「ああ。君にその才能はない」
「あなたはどうなの?」
「必要に迫られたら君を守るための嘘は吐くだろう」
「え? そうなの?」
「君に限ってそんな心配はない」
「まあ、そうね」
「だがいろいろと秘密はある」
「──なんで?」
苛立ちが声に交じる。
「心配する必要はない。君を愛しいと想う気持ちをいちいち言葉にしていたら君は逃げる。或いは、飽きる。もしくは俺を嫌う」
「あなたのリスさんを見縊らないで」
鏡に映る自分の顔が、照れて真っ赤になっていた。
これが、まあ、私の秘密。
「せいぜい強がるがいい。結婚したら、これまでの挑発的な態度に対するツケはたっぷり払ってもらうからな。覚悟し給え」
「……」
ちょっと待って。
「挑発なんて、してないわよ……?」
「なんだ、嘘が吐けたじゃないか。お礼にこちらの秘密もざっと紹介しようか? ん? その純白の花嫁衣裳を着た状態で、俺の心の声を聞くという試練に耐えられるのか? 何万秒でも羞恥に悶えさせてやるぞ」
「そんな事しなくていいから正装して横に立って!」
カーテンの向こうから、彼のクックッと笑う憎らしい声が聞こえてくる。
私はもう、馬鹿みたい露出している肌の全てが真っ赤な自分にも目が当てられないし、母の代わりにあれこれとチェックしている係の人からも隠れたいし、なによりこんな会話を始めてしまった事を後悔していた。
連れて来るべきではなかったんだわ……。
これから一生、傍にいるのだから、こんな我儘きかなくてよかったのよ……。
「リスさん」
ふいに彼が、とても優しい声で、私を呼んだ。
「……?」
鏡越しに、彼と私を隔てるカーテンを見つめる。
分厚い天鵞絨の向こうに、彼がいる。
「この世の暴くべきではない全ての秘密から、永遠に君を守り続けるために俺がいる。どうか恐がらないで、ただ、安心して生きて欲しい。愛してるよ。ルイゾン」
「──」
キスをした。
今、彼は、言葉で誓いのキスをしたのだ。
幸せが胸いっぱいに広がって、私は微笑み、少しだけ目頭が熱くなった。
「あなたを愛しているわ。心から。私のリシャール。愛してる」
(終)
王都は田舎より進歩的なのか、それとも彼の執着心が成せる業なのか、リシャールはドレスの試着についてきた。私はもう驚かなかった。謎の気を利かせて母が帰ってしまったのには驚いたけど。
「私は嘘も秘密もないから安心してね」
試着中、分厚いカーテンで仕切られているだけでも、変に意識するのは彼だけなので遠慮なく話しかける。
「ああ。君にその才能はない」
「あなたはどうなの?」
「必要に迫られたら君を守るための嘘は吐くだろう」
「え? そうなの?」
「君に限ってそんな心配はない」
「まあ、そうね」
「だがいろいろと秘密はある」
「──なんで?」
苛立ちが声に交じる。
「心配する必要はない。君を愛しいと想う気持ちをいちいち言葉にしていたら君は逃げる。或いは、飽きる。もしくは俺を嫌う」
「あなたのリスさんを見縊らないで」
鏡に映る自分の顔が、照れて真っ赤になっていた。
これが、まあ、私の秘密。
「せいぜい強がるがいい。結婚したら、これまでの挑発的な態度に対するツケはたっぷり払ってもらうからな。覚悟し給え」
「……」
ちょっと待って。
「挑発なんて、してないわよ……?」
「なんだ、嘘が吐けたじゃないか。お礼にこちらの秘密もざっと紹介しようか? ん? その純白の花嫁衣裳を着た状態で、俺の心の声を聞くという試練に耐えられるのか? 何万秒でも羞恥に悶えさせてやるぞ」
「そんな事しなくていいから正装して横に立って!」
カーテンの向こうから、彼のクックッと笑う憎らしい声が聞こえてくる。
私はもう、馬鹿みたい露出している肌の全てが真っ赤な自分にも目が当てられないし、母の代わりにあれこれとチェックしている係の人からも隠れたいし、なによりこんな会話を始めてしまった事を後悔していた。
連れて来るべきではなかったんだわ……。
これから一生、傍にいるのだから、こんな我儘きかなくてよかったのよ……。
「リスさん」
ふいに彼が、とても優しい声で、私を呼んだ。
「……?」
鏡越しに、彼と私を隔てるカーテンを見つめる。
分厚い天鵞絨の向こうに、彼がいる。
「この世の暴くべきではない全ての秘密から、永遠に君を守り続けるために俺がいる。どうか恐がらないで、ただ、安心して生きて欲しい。愛してるよ。ルイゾン」
「──」
キスをした。
今、彼は、言葉で誓いのキスをしたのだ。
幸せが胸いっぱいに広がって、私は微笑み、少しだけ目頭が熱くなった。
「あなたを愛しているわ。心から。私のリシャール。愛してる」
(終)
170
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

婚姻破棄された私は第一王子にめとられる。
さくしゃ
恋愛
「エルナ・シュバイツ! 貴様との婚姻を破棄する!」
突然言い渡された夫ーーヴァス・シュバイツ侯爵からの離縁要求。
彼との間にもうけた息子ーーウィリアムは2歳を迎えたばかり。
そんな私とウィリアムを嘲笑うヴァスと彼の側室であるヒメル。
しかし、いつかこんな日が来るであろう事を予感していたエルナはウィリアムに別れを告げて屋敷を出て行こうとするが、そんなエルナに向かって「行かないで」と泣き叫ぶウィリアム。
(私と一緒に連れて行ったら絶対にしなくて良い苦労をさせてしまう)
ドレスの裾を握りしめ、歩みを進めるエルナだったが……
「その耳障りな物も一緒に摘み出せ。耳障りで仕方ない」
我が子に対しても容赦のないヴァス。
その後もウィリアムについて罵詈雑言を浴びせ続ける。
悔しい……言い返そうとするが、言葉が喉で詰まりうまく発せられず涙を流すエルナ。そんな彼女を心配してなくウィリアム。
ヴァスに長年付き従う家老も見ていられず顔を逸らす。
誰も止めるものはおらず、ただただ罵詈雑言に耐えるエルナ達のもとに救いの手が差し伸べられる。
「もう大丈夫」
その人物は幼馴染で6年ぶりの再会となるオーフェン王国第一王子ーーゼルリス・オーフェンその人だった。
婚姻破棄をきっかけに始まるエルナとゼルリスによるラブストーリー。


姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。


【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします
よどら文鳥
恋愛
私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。
このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。
ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。
ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。
その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。

とある令嬢と婚約者、そしてその幼馴染の修羅場を目撃した男の話【完結】
小平ニコ
恋愛
ここは、貴族の集まる高級ラウンジ。そこにある日、変わった三人組が来店した。
楽しげに語り合う、いかにも貴族といった感じの、若い男と女。……そして、彼らと同席しているのに、一言もしゃべらない、重苦しい雰囲気の、黒髪の女。
給仕の男は、黒髪の女の不気味なたたずまいに怯えながらも、注文を取りに行く。すると、黒髪の女は、給仕が驚くようなものを、注文したのだった……
※ヒロインが、馬鹿な婚約者と幼馴染に振り回される、定番の展開なのですが、ストーリーのすべてが、無関係の第三者の視点で語られる、一風変わった物語となっております。

婚約解消したはずなのに、元婚約者が嫉妬心剥き出しで怖いのですが……
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のフローラと侯爵令息のカルロス。二人は恋愛感情から婚約をしたのだったが……。
カルロスは隣国の侯爵令嬢と婚約をするとのことで、フローラに別れて欲しいと告げる。
国益を考えれば確かに頷ける行為だ。フローラはカルロスとの婚約解消を受け入れることにした。
さて、悲しみのフローラは幼馴染のグラン伯爵令息と婚約を考える仲になっていくのだが……。
なぜかカルロスの妨害が入るのだった……えっ、どういうこと?
フローラとグランは全く意味が分からず対処する羽目になってしまう。
「お願いだから、邪魔しないでもらえませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる