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3 さよならツムシュテーク伯爵家
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「そうは言っても、優しいあの子をあんなに怒らせたのはロミルダが悪いんだしねぇ」
「そうだそうだ!」
「好きでやってる〝りょうちけいえい〟っていうの? そんなに橋が必要なら、さっさと起きて始めればいいと思うんだけど……」
「そうだ! 僕はなにも悪くない! 怠けて勝手に寝てるだけだ!! 出来損ないの馬鹿妻なんかもう知るか! 目が覚めないならそのままいっそ死ねばいいんだッ!!」
想像より3割増しくらいに屑だわ。
無表情でベッドに横たわって目を瞑ってピクリとも動かずに様子を伺っていると、その間、夫と義母は廊下でドクター・ペッペルマンに意義を申し立て続けた。
いよいよ苛ついてきた頃、そこはデキるルイーゼがピシッと、
「お静かに。奥様になにかあれば困るのは旦那様と大奥様です」
と言って部屋の扉を閉めた。
「なんなの! あの失礼なメイドは!!」
「ああやって使えないメイドを雇っておいて……! 何が完璧な領地経営だよ! おい! 起きろ!! 起きて僕に謝れッ!! お前もお前だ、ベーレンス! 僕たちへの恩を忘れたかッ!? 僕の言う事を聞けないならあの馬鹿妻と一緒に出て行けよッ!!」
「そうよ!! 冗談じゃないわッ!!」
よし、あの馬鹿二人を棄てよう。
私はむくりと起き上がり、ルイーゼを見あげた。
「離婚するわ。あなたについて来てほしい」
ルイーゼは無言でこちらに向き直り、膝をついて深く頭を垂れた。
「奥様、光栄です。仰せのままに」
「ありがとう。アニーも誘いましょう」
と、私たちが未来へと目を向けるのと同時に、扉の向こうでは夫と義母も未来へと目を向けていた。
「だいたい、本当にちゃんと〝りょうちけいえい〟できてるのッ!? 余所者のくせに私たちのお金を使って贅沢してるんじゃないの!? きっとそうよ!! ただじゃおかないわッ!!」
「ああママ! あんな奴、身包み剥がして追い出してやるよッ!!」
「それでこそ男よッ! やっておやりッ!!」
乱入して来ようとしている気配と、それを食い止めるやり手執事&町医者コンビの気配を感じる。あれだけ騒いでいたら、こちらの会話は聞こえないだろう。
「実際、私が手放したらツムシュテーク伯爵家はどうなるのかしら」
「破産するでしょうね。大奥様の散財癖はもはや病気です」
「遺伝ね。メアリックは加えて酒癖も悪いし、ついに暴力を覚えたし。救いようがないわね」
「仰る通りかと」
数日後、軽く準備を整えて、私は片付けた執務室に夫と義母を呼んで告げた。
「離婚します」
「え?」
「は?」
そんな目を丸くしたって、鳩みたいに可愛くないわよ。
「あっ、あっ、あっ、あなた……なに言ってるの!? そんな事できるわけないでしょう!?」
「僕を棄てるって言うのか……君は、君はそこまで冷酷な女だったのか……?」
「ええ。離婚して心を温め直します」
「僕のせいだって言うのかッ!?」
「ええ。ま、半分は領地に目が眩んだ私のせいでもあ──」
「ふざけるなクソアマァッ!!」
夫が拳を振り上げたので、アニーが用意しておいてくれた鉄のフライパンで防ぐ。ゴッ、となかなかの音があがり、夫も悲鳴をあげて飛び上がり、義母が
「んまっ!」
と飛び上がった。
戸口に控えるルイーゼの口角も、わずかに上がった。
「じゃ、失礼します。手続きはこちらで済ませますので。サヨナラ~♪」
「あっ、ロミルダ……! えっ……? えっ???」
「血も涙もない魔女め……路頭に迷って地獄に落ちろッ!! 痛ぁ……っ」
どんな罵詈雑言も、私にとってはもう雑音。
「♪~」
家族だったツムシュテーク伯爵家のお二方。
どうぞ自滅なさいませ。
「そうだそうだ!」
「好きでやってる〝りょうちけいえい〟っていうの? そんなに橋が必要なら、さっさと起きて始めればいいと思うんだけど……」
「そうだ! 僕はなにも悪くない! 怠けて勝手に寝てるだけだ!! 出来損ないの馬鹿妻なんかもう知るか! 目が覚めないならそのままいっそ死ねばいいんだッ!!」
想像より3割増しくらいに屑だわ。
無表情でベッドに横たわって目を瞑ってピクリとも動かずに様子を伺っていると、その間、夫と義母は廊下でドクター・ペッペルマンに意義を申し立て続けた。
いよいよ苛ついてきた頃、そこはデキるルイーゼがピシッと、
「お静かに。奥様になにかあれば困るのは旦那様と大奥様です」
と言って部屋の扉を閉めた。
「なんなの! あの失礼なメイドは!!」
「ああやって使えないメイドを雇っておいて……! 何が完璧な領地経営だよ! おい! 起きろ!! 起きて僕に謝れッ!! お前もお前だ、ベーレンス! 僕たちへの恩を忘れたかッ!? 僕の言う事を聞けないならあの馬鹿妻と一緒に出て行けよッ!!」
「そうよ!! 冗談じゃないわッ!!」
よし、あの馬鹿二人を棄てよう。
私はむくりと起き上がり、ルイーゼを見あげた。
「離婚するわ。あなたについて来てほしい」
ルイーゼは無言でこちらに向き直り、膝をついて深く頭を垂れた。
「奥様、光栄です。仰せのままに」
「ありがとう。アニーも誘いましょう」
と、私たちが未来へと目を向けるのと同時に、扉の向こうでは夫と義母も未来へと目を向けていた。
「だいたい、本当にちゃんと〝りょうちけいえい〟できてるのッ!? 余所者のくせに私たちのお金を使って贅沢してるんじゃないの!? きっとそうよ!! ただじゃおかないわッ!!」
「ああママ! あんな奴、身包み剥がして追い出してやるよッ!!」
「それでこそ男よッ! やっておやりッ!!」
乱入して来ようとしている気配と、それを食い止めるやり手執事&町医者コンビの気配を感じる。あれだけ騒いでいたら、こちらの会話は聞こえないだろう。
「実際、私が手放したらツムシュテーク伯爵家はどうなるのかしら」
「破産するでしょうね。大奥様の散財癖はもはや病気です」
「遺伝ね。メアリックは加えて酒癖も悪いし、ついに暴力を覚えたし。救いようがないわね」
「仰る通りかと」
数日後、軽く準備を整えて、私は片付けた執務室に夫と義母を呼んで告げた。
「離婚します」
「え?」
「は?」
そんな目を丸くしたって、鳩みたいに可愛くないわよ。
「あっ、あっ、あっ、あなた……なに言ってるの!? そんな事できるわけないでしょう!?」
「僕を棄てるって言うのか……君は、君はそこまで冷酷な女だったのか……?」
「ええ。離婚して心を温め直します」
「僕のせいだって言うのかッ!?」
「ええ。ま、半分は領地に目が眩んだ私のせいでもあ──」
「ふざけるなクソアマァッ!!」
夫が拳を振り上げたので、アニーが用意しておいてくれた鉄のフライパンで防ぐ。ゴッ、となかなかの音があがり、夫も悲鳴をあげて飛び上がり、義母が
「んまっ!」
と飛び上がった。
戸口に控えるルイーゼの口角も、わずかに上がった。
「じゃ、失礼します。手続きはこちらで済ませますので。サヨナラ~♪」
「あっ、ロミルダ……! えっ……? えっ???」
「血も涙もない魔女め……路頭に迷って地獄に落ちろッ!! 痛ぁ……っ」
どんな罵詈雑言も、私にとってはもう雑音。
「♪~」
家族だったツムシュテーク伯爵家のお二方。
どうぞ自滅なさいませ。
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