「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。

百谷シカ

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5 恐るべき陰謀

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「お姉様、何やってるの? マフィンは明日も明後日も食べられるわよ! あのアホは一生トイファー伯領に足を踏み入れるもんかって意気込みで来てるのよ!?」

「そこまで?」


 ユリアーナを挑発する楽しみも、結婚してしまったら失うのね。
 ユリアーナの目がぐるんと回るところも、見ようと思ったら着替えて馬車に乗らなくてはいけないのね。


「当たり前でしょう!? こんな美人を棄てるのよ!? 恐るべき決意よ! 今日を逃したらあいつに付け入る隙はないわ!! 立って!!」

「ああっ、お嬢様! 待ってください!」

「ビルギッタ、いい加減にして! 乙女の結婚がかかってるのよ!!」

「クリームがお付きです!!」

「え?」

「顎に」


 二人を見ているのって、楽しい。
 生きている事を実感できる。

 結婚とは女にとって残酷なものだわ。二人と離れた事なんてないのよ。だけど、ユリアーナがベリエスを誑かして上手くアルビン伯領を手に入れたら、私は頻繁に入浸り、そんな私にビルギッタが伴い、アルビン城の厨房を占拠。ああ、けれど、その場合とてつもなく邪魔なのはアルビン伯爵夫妻だわ。どうするの? 殺す? ユリアーナはどこまで計画しているのかしら。ベリエスは顔がいいだけのお馬鹿さんだけれど、だからといって二親どちらも同じおつむとは限らない。


「お姉様、なにぼぉーっとしてんの?」

「考え事」

「ケッ。どうせしょうもない事でしょう!?」

「いいえ。私の義父母になるかに思えて、あなたが義父母にしようとしている」

「アホの親?」

「ええ。二人をどう始末すれば真の意味でアルビン伯領が私たちのものになるかしらって」

「簡単よ! 褒めて機嫌取って飲まして食わして飲まして飲まして飲まして食わしまくっていたらでっぷり太ってじきに寝室から出てこられなくなるわよ!」

「なるほど。若く美しい跡継ぎ夫妻の前に醜い我が身を晒したくないと。羞恥心をうまく利用するとは、よく考えたわねユリ──」

「違う!! 自分のお肉に老いた足が耐えられないからベッドで燻製肉になるしかなくてそんな不味いベーコンは誰も食べたくないって話ッ!!」

「まぁ~あ素敵な御伽噺ですね、お嬢様! 急がないとハムが帰りますよ?」


 たまにビルギッタは私に加担しているのかと期待してしまう。
 いつも丁度いい所でとどめを刺すの。


「ベーコンよッ!!」


 叫んだユリアーナの顎を拭いてあげて、そのナプキンを掴んだまま歩き始めてしまったので畳んで袖に押し込んだ。


「お姉様は傍にいてね? 引き立て役よ」

「同じ顔よ」

「同じ顔だから引き立て役になるのよ! 頭使って!!」


 やはり。
 ユリアーナも私を完璧に理解してはいない。ちぐはぐな双子だわ。愉快愉快。
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