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11 愛すべき重荷(※ドミニク視点)

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 それなら、僕が背負おう。

 唐突に沸いた答えがすべてを物語っていた。
 ルシアの寛いだ顔が見たい。笑顔が見たい。燥ぐ声や、甘える声が聞きたい。

 出会ったばかりだというのに、僕は、恋に落ちていた。
 守りたい。ともに歩いていきたい。その願いが欲望に変わる。

 それに、ルシアは衣装室にとてもよく馴染んでいた。
 ロイエンタール侯爵家に相応しいなにかを備えているのはたしかだ。男の僕には、詳しくはわからない。もしかするとエイミーがそれを感じ取ったのかもしれない。


「それではこちらでお待ちください。マーニー伯爵と先に話をつけてきます」


 まずは、ルシアに気に入られなければ。
 その想いが先行したために、夫人の不興を買った。


「いえ、クレヴァリー伯爵家とソマーズ伯爵家を巻き込んだ大騒動です。こちらを先に片付けないと、後に響きます」


 喋らせる隙を与えずに言い切り、ウィッカム伯爵に頷いて促す。
 そしてルシアに手を伸ばした時、夫人が笑った。


「あら、その子は置いて行ってくださいまし。男の話し合いには必要ありませんわ」

 
 頭の奥で警鐘が鳴り響く。
 夫人の目が笑っていない。兄エドウィンに至っては、嗜虐的な醜い熱を帯びてさえいる。ここに残していくわけにはいかない。これ以上、ルシアをこの悍ましいふたりの傍にいさせてはいけない。

 
「いえいえ、僕にいい考えがあります。お任せください」


 また機嫌をとるために笑って、ルシアの腕をそっと掴んだ。夫人はまだなにか言いたそうだったが、とにかくルシアを連れて部屋を出る。ウィッカム伯爵がついてきた。僕は扉を閉めた。


「凄い」


 その一言を伝えただけで、ウィッカム伯爵には僕の気持ちが通じたらしい。
 泣きそうな疲れ果てた顔で俯くウィッカム伯爵を励まし、とにかく早足で歩いて部屋から引き離していく。ルシアは小走りで並び、戸惑いと期待を混ぜたような顔で僕を見あげた。


「大丈夫だよ」


 彼女の瞳の奥で、少しだけ期待の色が濃くなったように見えて、嬉しい。


「本当にご迷惑をおかけして、なんとお詫び申し上げたらよいのか……」


 歩きながらウィッカム伯爵が洩らした。迷惑というのは、不躾な婚約破棄の後始末だけでなく、夫人の奇怪な性格の事も指しているのは明らかだ。
 こちらとしては今日ルシアと出会えたのだからありがたいくらいだが、不謹慎なので口には出さない。事実、彼女は悲しみや苦しみを抱えて耐え忍び生きてきたのだから、手放しで喜べるものでもない。ただでさえ恐がりなルシアを不必要に恐がらせないため、慎重さが求められた。

 
「あなたは優しい方だ。マーニー伯爵令息は例の幼馴染を妹のように大切にしていたと聞きました。優しい兄のような性質を持つ人物だからこそ、ルシアに相応しいとお考えになったのでは? もしそうなのだとしたら、やはりそれは、優しさです。あなたは優しい」


 僕に向かってしきりに頭をさげるので、僕も多めに彼を励ます必要があった。けれどそれは、苦ではなかった。

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