XLサイズの龍大くんはくっつきたがりなクーデレ男子

星詠みう菜

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乗り越えるべき試練

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 しかしオフィスに戻ってすごく個人的な問題が発生した。今日は打ち合わせや部門全体の会議などもなく、完全に作業デーだ。今進行している案件の作業が終わってしまえば、後はなにもない。金曜日は基本的に新規の仕事は来ない。
 午前中はまだ集中力が続いていたが、問題は午後だ。ランチタイムに小春ベーカリーで買ったサンドイッチをデスクで食べた後、もう9割近くの作業が終わってしまった。ふと集中力が切れると、なんだか下着や服が体と擦れる感触が気になってしまう。
 ――何? このむずむずする感じ……。
 
 昨日までは打ち合わせがあったり百田に仕事を任せたりで人と話す機会が多かったせいか、こんなにも服の擦れが気になったことはない。でも、今日は異常に気になってしまう。座りっぱなしだと大丈夫だけど、ふと気を抜いてチェアの背にもたれかかると脇腹や背中の生地が動く。その感覚すら敏感になってしまう。しかも今日に限って鬱陶しい電話も来ない。
 仕方がないので、残っている仕事は気合で終わらせて、確認は百田へ任せることにした。

「百田くん、ちょっといい?」

 百田を呼び出して、打ち合わせ用デスクに向かい合う。

「今急ぎの仕事ってある?」
「いや、ないです」
「じゃあこの図面のチェックを1時間以内にやってほしいんだけど、やれそう?」
「たぶんできます」
「うん、じゃあお願い。やり方は前と同じでいいから、気になるところがあったら教えて」

 1時間以内と言われて百田は緊張した表情になっていたが、期限を決めたほうが確実にやってくれるだろう。鈴夏がやれば10分くらいで終わる仕事だけど、誰かと多少会話をしないと雑念が頭に入り込みそうだった。
 百田に仕事を任せて時間ができた鈴夏は、デスク周りの資料や図面を整理していく。散らばった赤鉛筆やボールペンはペン立てにしまい、もう必要ない図面は処分した。
 そうこうしているうちに、百田の仕事が終わったらしい。思ったより早く仕事を終えていたが、気になるところがあるらしい。

「鷲尾さん、すいません。ここがなんか変っていうか……部材の寸法大きいかなって」
「あぁこれは寸法多少大きくても問題ないけど……よく気づいたね。言ってくれて助かったよ。ありがとう」
「いえ」
 
 百田の指摘した部分は、とくに修正する必要がなかった。でも、こういうことに気づき、ちゃんと指摘してもらえることが大事だ。職場の先輩にミスを指摘するようなものだし、新入社員なら尚更勇気が要るだろう。今回は修正の必要がない内容だったが、大掛かりな修正が必要だったら後の作業が膨大になってしまう。
 ――一応隣の部署に掛け合ってみるか。

 修正する必要がないとは言え、最適解を求めるなら設計部門に相談するべきだ。そう思った鈴夏は、図面を持って設計部門へと向かった。
 担当の仲谷はだいぶ眠そうにパソコンに向かっていて、声をかけるとビクッと肩を揺らした。

「仲谷さん」
「ウッ! びっくりしたぁ」
「そんなに大きい声出してないでしょう。この図面の部材の寸法、ちょっと大きいんですが」
「あぁー……確かにねぇ。盛田ぁ。寸法表貸してくれんか」

 仲谷は隣のデスクに座っている盛田という社員に話しかけ、寸法表を受け取った。

「あぁー……これはこれは……直さなくてもいいけど、工事するとき大変だからこっちのサイズにしておいて」
「はい、じゃあこっちで直しておきます。」
「いやぁ、毎度毎度鷲尾さんに助けられちゃってるなぁ~」
「もう……ちゃんとしてくださいよ」
「だってさ、盛田」
「いや俺ですか!?」

 いきなり会話を振られた盛田が驚いて、その場に笑いが起こった。正直仲谷の仕事のスタンスは好きじゃないが、人たらしで場を和ませるのにはけている。人を頼るのも上手く、自分の弱みを隠さない。鈴夏にはできないことだから、そこは単純に羨ましい。
 鈴夏は自分のデスクへと戻り、図面を修正して納品したら喫煙所へと向かった。先ほどまで誰かいたのか、だいぶたばこ臭い空間だった。ポケットから電子シーシャを取り出して一服していると、上司の野瀬も喫煙所へと入ってくる。

「あ、お疲れ様です」
「お疲れー」

 野瀬と喫煙所で一緒になることは何度かあったが、そのときは他にも人がいた。今回はふたりきりだから、妙に緊張が走る。野瀬はポケットからアイコスと取り出して、たばこをセットしたらスイッチを押した。

「鷲尾さ」
「はい?」
「百田が『鷲尾さんは優しい先輩って感じです』って言ってたよ。良かったじゃん」
「いえ、百田くんが真面目にやってくれるからですよ」

 そう謙遜はしたが、内心嬉しかった。
 なんでかはわからないけど、妙に周囲が優しく見える。ひとりひとりが輝いて見えて、イヤなところよりも良いところに目がつく。今週始まってからは目覚めも良くなっていってるし、前向きに仕事に向き合えている。この不思議な感覚が、鈴夏を一層前に進ませてくれた。

「鷲尾だいぶ仕事頑張ってんじゃん。もし余裕あるんだったら、1級建築士目指さない?」
「1級建築士ですか……」

 1級建築士は合格率も低い難関資格だ。合格に必要な勉強時間の目安は1000時間。鈴夏も過去にチャレンジはしているが、勉強時間が捻出できずに諦めていた。でも1級建築士に合格すれば、確実に仕事は上のステージへと行ける。それに、今の自分ならできるという直感が働いた。
 
「資格手当も出て昇給もするから悪い話じゃないと思うんだけど」
「受けます!」
「……そう。頑張って」
 
 野瀬はくいっと口角を上げ、ほわっと煙を吐いた。1級建築士の試験は年1回。受験受付が4月で、7月に学科試験がある。今は6月だから、間に合わせることはできそうだ。
 鈴夏は新たな決意を胸に、ミントの香りの煙を吐いて喫煙所を出ていった。
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