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クーデレな素顔

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 ドラッグストアで買ってきたお泊り用ミニサイズのボディソープで、鈴夏は丹念に体を洗う。シャンプーとリンスで髪も洗い、顔のメイクも落としていく。すっぴんを晒すのはちょっと気が引けるが、鈴夏は眉のアートメイクをしているから一応は大丈夫だ。カラコンを取るのは少し躊躇したが、さすがにこれは仕方がない。着色直径が大きくないナチュラルなタイプだから気にならないだろうと自分に言い訳しながら両目から取り出し、ゴミ箱に捨てさせてもらった。
 お風呂から上がると、リビングの隣に面した和室で、龍大が布団を2セット敷いていた。片方の布団はサイズが大きいから、おそらく龍大が寝る用の布団だろう。部屋はパッと見で8畳はあって、かなり広々としている。髪を拭いたタオルですっぴんの顔を隠しながら和室へ入っていく。

「来客用なんで、ちゃんと寝られるかと」
「なんか至れり尽くせりな旅館みたい」
「そうっすか? あ、ドライヤー使います? リビングに置いてるんで」
「うん、お借りしようかな」

 鈴夏は、リビングの机の上に置いていたドライヤーを使わせてもらった。ドライヤーも、日本製ブランドのちょっと値段が高くてハイクラスなもの。きっと母親か妹さんが買ったものだろう。風量はたっぷりなのに、音はそこまで大きくない。
 鈴夏が髪を乾かし終わると、龍大もリビングへとやってくる。どうやら布団が敷き終わったらしい。時刻は21時だから、鈴夏はまだ全然眠たくない。
 とりあえず布団に潜って、スマホで電子書籍でも読むことにした。布団はふんわりと軽くて、4月の気温にちょうど良い。シーツもサラっとしていて、普段からきちんと干したり手入れしているのがわかる。おそらくチャラいお兄さんであるユイトさんが、しょっちゅう泊まりに来ているのだろう。

「部屋暗くしますね」

 そう言うと、龍大が部屋の照明を落とす。真っ暗な部屋になり、鈴夏のスマホのライトだけが眩しく光る。しばらく漫画アプリを開いていたが、眩しくて目が痛くなってきた鈴夏は、もう諦めて寝ようかと考えた。
 でも、寝ようと思っても寝付けなかった。敷かれた布団は少し距離が空いていて、龍大から「何もしないから安心してね」と言われているような気がする。それが鈴夏にとっては寂しかった。
 ――男の子の部屋に泊まって、何もされない。それもアリだよね。

 鈴夏の中では、男の部屋に泊まることと、一線を越えることはイコールだった。だからこそ、無理矢理頭の中で納得させるしかない。龍大は明日の朝早いからというのはわかっていても、なんとも言えない空虚な気持ちが頭の中を駆け巡る。
 最近の男の子は草食化が進んでいると言うし、龍大もあまりそういうものにがっついている雰囲気はない。今までの人生でそれなりに遊んできた鈴夏も、少し戸惑いを感じる。
 部屋が真っ暗だから、龍大の方を向いても何も見えない。それが余計に寂しさを促して、悶々もんもんと考えていた鈴夏は龍大に声をかけた。

「あの、龍大くん」
「はい……」
「そっちの布団、広そうだから行ってもいい?」
「……いいっすよ」
 ――いいんだ。というか、まだ起きてたんだ。

 鈴夏はそっと起き上がって、枕を持って膝をついたまま歩を進め、龍大の布団へと入った。何も見えなかったが、掛け布団を少し上げて「どうぞ」と言いつつ受け入れてくれた。
 龍大の布団は縦も横も余裕があり、鈴夏の全身を包み込むくらいに暖かかった。でも、すぐそこに龍大がいるのに、鈴夏は遠慮して肌は触れ合わなかった。
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