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こんなはずじゃなかった
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いつもならギリギリに乗る電車、1本も早く乗ったのはいつぶりだろうか。
飽き飽きしていた日常に、流星のごとくトキメキが現れた。鈴夏は早足気味に駅の構内を歩きながら、胸を躍らせている。
でも月曜日は、あのチャラいお兄さんと大きいお兄さんはいなかった。どうやらシフトが休みだったらしい。それだけのことなのに、鈴夏自身思った以上に落ち込んでいることに驚いた。
その日は適当なサンドイッチとクロワッサンを昼食用に買い、小春ベーカリーを去った。パンは確かに美味しかった。サンドイッチにもクロワッサンにも、バターがたっぷり使われているのがわかる。しかもサンドイッチには、野菜もたっぷり挟まっている。しゃっきりと歯ざわりのいいレタスと酸味のあるトマト、肉々しいハムが1枚。いつもは適当にコンビニごはんやシリアルバーだったから、新鮮な野菜を食べるのが久しぶりだ。
――また明日来るか……
火曜日の朝に来てみると、焼き立てのパンを並べているチャラいお兄さんの姿が、外からも見えた。昨日よりも、パン屋の扉が重たく感じる。少し緊張しつつ中に入れば、明るい声がかかった。
「いらっしゃいませ~。お、来てくれたんだね」
「なにかおすすめありますか?」
「くるみパンが焼きたてだよ」
「じゃあそれと……サンドイッチも買おうかな」
「うん、ゆっくり選んで行って」
チャラいお兄さんが気さくに話しかけてくれるせいか、鈴夏も自然とタメ口になる。周りを見ると他には3人くらいお客さんがいて、チャラいお兄さんはレジへと戻っていった。始業時間に間に合うように、少し早めにパンを選んでいく。朝にパン屋へ行くことがあまりなかったせいか、焼き立ての香ばしい香りが鈴夏にとっては新鮮に感じた。
パンを選び終わり、レジに並ぶと、チャラいお兄さんが手早く紙袋やビニール袋にパンを入れてくれる。すると、奥の作業場でひときわ身長が高く、目つきの鋭いお兄さんがいた。帽子とマスクを着用していて顔はよく見えなかったが、あの身長は間違いなくあの大きいお兄さんだろう。
「あの大きいお兄さんは職人さん?」
「うん、製造担当」
「へー、どおりで力が強いんだ」
「あはは、それもあるけど柔道経験者だよ」
「あぁー、ぽいね」
――それであんなに身長高くてパワーがあるんだ……
オーブンから出したパンを並べたり、なにかしら作業をしている大きいお兄さん。先週は少ししか話せなかったけど、鈴夏をぶつかりおじさんから守って成敗してくれた人だ。悪い人ではないだろう。そう思いながら大きいお兄さんを見ていると、ふとした瞬間目が合った。
――え、見てるの……バレた?
強い視線を感じて、鈴夏は視線を逸らす。すると、チャラいお兄さんがパンの精算を終えたので、鈴夏もバーコード決済で勘定を済ました。
「今新作考えてるらしいから、楽しみにしてて」
「うん! てか大きいお兄さん、目力強いよね」
「そうなんだけど、結構恐がられちゃうんだって」
「あーそうかもね。じゃあ、急ぐからまたね」
やっぱりチャラいお兄さんは話しやすい人だった。まだ会って2度めなのに、こんなにも親しく話してくれる。鈴夏が普段話す年下の男性は、いつも会社内の人間のみだ。本来全く接点のない人と話すのは、意外と久しぶりなのかもしれないと思った。
その週は、毎日小春ベーカリーに通った。月曜日と木曜日は、チャラいお兄さんも大きいお兄さんも休みみたいだ。金曜日の朝に向かうと、チャラいお兄さんが今までと同じように接客してくれる。
「いらっしゃーい。あ、新作できたよ」
「わぁ、美味しそう!」
「しかも焼き立て」
「買う買う!」
新作はハムとチーズが挟まったチャパタサンドだった。こんがりとした焼き目と、見るからにもちっとした生地がちらりと見える。それといつも買うトマトのサンドイッチを購入して、鈴夏はいつものように会社へと向かった。
飽き飽きしていた日常に、流星のごとくトキメキが現れた。鈴夏は早足気味に駅の構内を歩きながら、胸を躍らせている。
でも月曜日は、あのチャラいお兄さんと大きいお兄さんはいなかった。どうやらシフトが休みだったらしい。それだけのことなのに、鈴夏自身思った以上に落ち込んでいることに驚いた。
その日は適当なサンドイッチとクロワッサンを昼食用に買い、小春ベーカリーを去った。パンは確かに美味しかった。サンドイッチにもクロワッサンにも、バターがたっぷり使われているのがわかる。しかもサンドイッチには、野菜もたっぷり挟まっている。しゃっきりと歯ざわりのいいレタスと酸味のあるトマト、肉々しいハムが1枚。いつもは適当にコンビニごはんやシリアルバーだったから、新鮮な野菜を食べるのが久しぶりだ。
――また明日来るか……
火曜日の朝に来てみると、焼き立てのパンを並べているチャラいお兄さんの姿が、外からも見えた。昨日よりも、パン屋の扉が重たく感じる。少し緊張しつつ中に入れば、明るい声がかかった。
「いらっしゃいませ~。お、来てくれたんだね」
「なにかおすすめありますか?」
「くるみパンが焼きたてだよ」
「じゃあそれと……サンドイッチも買おうかな」
「うん、ゆっくり選んで行って」
チャラいお兄さんが気さくに話しかけてくれるせいか、鈴夏も自然とタメ口になる。周りを見ると他には3人くらいお客さんがいて、チャラいお兄さんはレジへと戻っていった。始業時間に間に合うように、少し早めにパンを選んでいく。朝にパン屋へ行くことがあまりなかったせいか、焼き立ての香ばしい香りが鈴夏にとっては新鮮に感じた。
パンを選び終わり、レジに並ぶと、チャラいお兄さんが手早く紙袋やビニール袋にパンを入れてくれる。すると、奥の作業場でひときわ身長が高く、目つきの鋭いお兄さんがいた。帽子とマスクを着用していて顔はよく見えなかったが、あの身長は間違いなくあの大きいお兄さんだろう。
「あの大きいお兄さんは職人さん?」
「うん、製造担当」
「へー、どおりで力が強いんだ」
「あはは、それもあるけど柔道経験者だよ」
「あぁー、ぽいね」
――それであんなに身長高くてパワーがあるんだ……
オーブンから出したパンを並べたり、なにかしら作業をしている大きいお兄さん。先週は少ししか話せなかったけど、鈴夏をぶつかりおじさんから守って成敗してくれた人だ。悪い人ではないだろう。そう思いながら大きいお兄さんを見ていると、ふとした瞬間目が合った。
――え、見てるの……バレた?
強い視線を感じて、鈴夏は視線を逸らす。すると、チャラいお兄さんがパンの精算を終えたので、鈴夏もバーコード決済で勘定を済ました。
「今新作考えてるらしいから、楽しみにしてて」
「うん! てか大きいお兄さん、目力強いよね」
「そうなんだけど、結構恐がられちゃうんだって」
「あーそうかもね。じゃあ、急ぐからまたね」
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