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オオカミさん
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オオカミの着ぐるみは、うれしそうに話を続けます。
「そのうちに、私は児童絵本館の花形になっていった。子供たちからは『オオカミさん』と呼ばれるようになったよ。
人気者になってからは、子供たちがたくさん私のところに集まるようになったな。子供たちは、私を見るとすぐにかけよってきたよ。私の中のクロダさんは、子供たちをやさしく受け止めてくれた。どんなに子供たちが集まってきても、抱きついてきても、倒れることはなかった。しっかりと足を踏みしめて、子供たちの笑顔にこたえていた。私の口の奥にある小さなのぞき穴から、笑顔で子供たちの姿を見ていたよ」
「クロダさんは強かったんですね」
「その通り。クロダさんは私を着るために、たくさん体を鍛えていたんだ。聞いた話だと、毎朝町を走ることを欠かせなかったらしい。私のためにこんなに頑張ってくれるなんて、着ぐるみとして、とてもうれしかったよ」
「着ぐるみと人は、共に生きているのですね。私たち影が、あらゆるものと響き合うように」
影は、にこやかにうなずきました。
「そうそう。私とクロダさんはいつもつながっていた。
クロダさんが私の中に入ってくれるから、私は動くことができた。
そして私はオオカミさんとして、子供たちを楽しませることができた。
子供たちだけじゃない。ツチヤさんやムライさん、児童絵本館の職員さんたちも笑顔にすることができた」
オオカミの着ぐるみは、誇らしげに笑いました。
「それはよかったですね」
「ああ。子供たちはよくクロダさんにたずねていた。
『ねえ、オオカミさんはいつ来るの?』
ってね。
そのたびに、クロダさんは答えていた。
『僕はオオカミさんと友達だからね。今度、オオカミさんに相談してみるよ』
と。
オオカミさんの中身がクロダさんだってことは、私と児童絵本館の職員さんだけの秘密だったよ。
クロダさんはいつも、子供たちに見られないように、児童絵本館の奥にある事務室で私を着ることにしていたんだ。オオカミの中にクロダさんが入っているってことがばれたら、きっと子供たちはがっかりするだろうからさ。
でも、子供たちも大きくなってくると、着ぐるみの中には人が入っていると知るようになるんだよな」
オオカミの着ぐるみがため息をつきます。
「そうですよね」
「中には、乱暴なことをする子もいたな」
「乱暴!」
「普段、クロダさんが子供たちの前で私を着ている間、ツチヤさんとムライさんは私のそばで見守っていた。着ぐるみを着ると、周りがみえなくなっちゃうからね。転んだりぶつかったりしないように、やさしく手助けをしていたよ。
それでも、よくないことが起こってしまうときだってある。
あれは忘れもしない、クリスマスの日だった」
「そのうちに、私は児童絵本館の花形になっていった。子供たちからは『オオカミさん』と呼ばれるようになったよ。
人気者になってからは、子供たちがたくさん私のところに集まるようになったな。子供たちは、私を見るとすぐにかけよってきたよ。私の中のクロダさんは、子供たちをやさしく受け止めてくれた。どんなに子供たちが集まってきても、抱きついてきても、倒れることはなかった。しっかりと足を踏みしめて、子供たちの笑顔にこたえていた。私の口の奥にある小さなのぞき穴から、笑顔で子供たちの姿を見ていたよ」
「クロダさんは強かったんですね」
「その通り。クロダさんは私を着るために、たくさん体を鍛えていたんだ。聞いた話だと、毎朝町を走ることを欠かせなかったらしい。私のためにこんなに頑張ってくれるなんて、着ぐるみとして、とてもうれしかったよ」
「着ぐるみと人は、共に生きているのですね。私たち影が、あらゆるものと響き合うように」
影は、にこやかにうなずきました。
「そうそう。私とクロダさんはいつもつながっていた。
クロダさんが私の中に入ってくれるから、私は動くことができた。
そして私はオオカミさんとして、子供たちを楽しませることができた。
子供たちだけじゃない。ツチヤさんやムライさん、児童絵本館の職員さんたちも笑顔にすることができた」
オオカミの着ぐるみは、誇らしげに笑いました。
「それはよかったですね」
「ああ。子供たちはよくクロダさんにたずねていた。
『ねえ、オオカミさんはいつ来るの?』
ってね。
そのたびに、クロダさんは答えていた。
『僕はオオカミさんと友達だからね。今度、オオカミさんに相談してみるよ』
と。
オオカミさんの中身がクロダさんだってことは、私と児童絵本館の職員さんだけの秘密だったよ。
クロダさんはいつも、子供たちに見られないように、児童絵本館の奥にある事務室で私を着ることにしていたんだ。オオカミの中にクロダさんが入っているってことがばれたら、きっと子供たちはがっかりするだろうからさ。
でも、子供たちも大きくなってくると、着ぐるみの中には人が入っていると知るようになるんだよな」
オオカミの着ぐるみがため息をつきます。
「そうですよね」
「中には、乱暴なことをする子もいたな」
「乱暴!」
「普段、クロダさんが子供たちの前で私を着ている間、ツチヤさんとムライさんは私のそばで見守っていた。着ぐるみを着ると、周りがみえなくなっちゃうからね。転んだりぶつかったりしないように、やさしく手助けをしていたよ。
それでも、よくないことが起こってしまうときだってある。
あれは忘れもしない、クリスマスの日だった」
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