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13・帰ろう

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カツン・・・。
「ふぉふぉふぉっ!よく眠っておるわ。ここはこんなに弱い奴等じゃったかの?どうじゃ、お主から見てあ奴等は。」
目の前に転がて眠る兵たちを忌々しそうに見つめる男の後ろから声が聞こえて来た。
「ふん!こやつらはまだまだ鍛錬が必要だな。まぁ、俺らの管轄じゃないからこんなに弱いんだろうがな。
こんな煙玉にやられて。お前が気に入ってるあいつらの方が頭は回るみたいだな。
だが、誰も傷つかずにって言う所は甘いがな。」
男はフンッ!っと鼻を慣らして周りに寝こけてる者達をどうするか思ったが自分に支障は無いので放っておく事にした。
「それにしても、王妃の方子カタコはあんなに小さかったか?ここにいてる姫より小さかったぞ。」
「ふむ。あの子はほぼ食事を与えられて無かったと聞いとるのでのー。栄養が回って無かったんじゃろ。何じゃお主あの子の事が気になるのか?珍しい事もあるもんじゃの。」
「はっ!何だジジイ、やけに突っかかって来るじゃねぇか。」
男はクルリと後ろを向き、目の前に見えた人物に言った。
「おぬしは、基本は陛下派じゃ、じゃが何時王妃派になるかもしれん。探りを入れるのは当然じゃよ。」
ふぉっふぉっ。
世間話をするように言った。
「ぬしは・・・。」
「俺は、陛下を裏切る事はしない。不吉な子供って事は実際どうでもいい事だ、過去色々あったんだろうがその事で産まれたての子供を殺す事は許される事では無いと思う。」
それだけ言って、男は今まで見ていた老人の横をすり抜けて行った。
「世間から見れば俺もそう呼ばれていただろうな・・・」
すれ違いざまに小さく声が聞こえた。
(裏切る事は無さそうで良かったわい。世間は残酷じゃからの。まさか、あ奴もとは思わなんだが・・。騎士団長も思う所はあるみたいじゃの)
安堵のため息を吐き老人もその場から去って行った。
(さて、集合場所に行くかの)



ざっ!
お頭・・。さっき大丈夫って言ってたけど右腕がボロボロ・・・。
飛び降りた時に紐を使った際に傷がついた。
「お頭・・・」
腕を気にしながら小さく呟いたらお頭はこっちをチラッて見てまた前を向き走り出した。
「気にするな、そう言っても無理そうだな。だが今お前が受けて来た物に比べたらこんなの大したことねぇよ」
そう言って今までいた建物から遠ざかり、森の中に入って行った。
お頭は私をずっと抱いてるのに疲れないのだろうか?
そう思っていたら、集合場所と言う所に着いたのだろう一旦私を下した。
「ここで、待つ。すぐにあいつらも来るだろう」
少しして、見慣れた人物が来た。
「遅かったなリンゼル。」
「・・・・・。遅かったな。じゃ無いでしょう!思った通り怪我をしてるじゃないですか!?」
副隊長はお頭に説教を始めてしまったが何時もより声が小さかった。
グチグチ・・。
「相変わらずじゃのー」
お頭に説教しつつ簡単に応急処置をしてる所にのんきな声が聞こえて来た。
「へんたい・・。」
ボソッと呟いたらやっぱりあわてて
「その呼び方はやめてくれんかの!」
「ヨービルじぃ」
言い直したらホッとした顔になった
「よし、来たな行くぞ!」
お頭にそう声かけられたけど・・・
「まって!ゼンは?ゼンは待たないの?」
私がそう言うとお頭は淡々と
「あいつは置いて行く」
そう言ってまた私を抱き上げ「行くぞ!」っと言って移動し始めた。
「お頭!置いて行くってどうして!ゼンだよ!」
今までそばにいた人を置いて行くなんて・・!
「あいつは大丈夫だ。今ここであいつを待っていても俺たちが危なくなる。皆の所に帰るんだろ、お前が帰らないと意味が無いんだ、俺たちはそれを第一に動いてるだけだ。」
意味が分からない。だって帰るのは皆がいる所、そこはゼンもいる所だよ。
涙が目に留まって来た。
「泣くなって言っても今は無理だろうな。ゼンは帰って来る。信じてやれ」
そう言われても納得は行かなかった。
ゼン・・・。


そろそろ海が見えてくるみたいだった。
お頭達はいつの間に用意したのか馬に乗って駆けていた。
「ふむ。あ奴等も懲りぬという事かの?」
ヨービルじぃが何かつぶやいたと思ったら後ろから何か飛んできた。
「ひっ!」
私がビックリしたら、前にも見たような黒服の人達が追って来ていた。
「瞬老。いけるか?」
お頭が聞いたら、ヨービルじぃが
「おぬしもうちょっと老体を労わろうと思わんかの?」
「老体?あなたが老体なら他のご老人は何なんでしょうね?」
リンゼルさんがそう言うとやれやれとため息つき後ろにいてる人たちに向かっていった。
「ヨービルじぃ!」
叫んだらお頭に余計に抱き込まれた。
「もうそろそろ海です。合図を送りますか?」
リンゼルさんがそう言った途端「ああ」っと聞こえた
合図?
分からず首を傾げていたら、リンゼルさんは何か取り出して空に向かって投げた。
思わず見てしまったけどいったい何なんだろ?すぐに消えっちゃったし・・。
チラッとリンゼルさんを見たけど何も言わずに前を向いていた。
視界に海が見えて来た。


王妃視点

忌々しい!
恐ろしい!あんな物が私から産まれたとは到底思いたくない!
「たとえ、何処にいようと殺してやる。」
陛下は当てにできないあのお方は双子という事の重大さを分かっていない。
ならば私がどうにかしてあの化け物を始末しないと。


王妃は知らなかった。
自分の娘を殺そうと考えてる顔が鬼のようだという事を。
王妃の事を守るために部屋にいた兵達はここぞって、魔物に取りつかれたような顔をしていたと話していたことを。
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