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三章 外国にて
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湯船にもつからず風呂場を出ると、何枚かのバスローブが重ねて置いてあった。
「コレ、一枚もらってもいい?」
「ああ、好きにしてくれ。」
どうせすぐに脱いでしまうけれど、さすがに全裸で歩き回るのは抵抗がある。タオルをもらってからすぐに自分の部屋に歩き出した。
俺の部屋に続く扉のノブに手をかけたとき、頭をわしゃわしゃとタオルで拭いているラインハルトが声をかけてきた。
「ユーファ、正装姿楽しみにしてるから。」
「う、うん……。」
俺、ヘアセットとか得意じゃないって……。期待されても予想を下回る結果しかご提供できないんですけど……。
扉を後ろ手に閉めてから、クローゼットを開いた。うちの侍女が荷物を詰めてくれたものを出しただけだから服にはシワひとつついていないけれど、ジャケットの構造が難しすぎる。
基本的に自分で全部着るってことなかったし、よくわからないな……。
とりあえず、シャツとスラックスを穿いて真紅のジャケットに腕を通す。鏡の前で見てみると、なんだか俺の頭の色がジャケットに負けているような気がした。
何か変えようにも仕官の制服以外はこれしか持ってきてないしな。
このまま悩んでいても遅刻するだけだしヘアセット、手伝ってもらうか。
テーブルの真ん中に置かれている呼び鈴をチリンと鳴らす。
メイドさんが来るのを待っている間、整髪料や櫛などの必要なものをテーブルに並べているとコンコンコンとノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
ドアを開くと、俺を部屋まで案内してくれたメイドさんが立っていた。そういえば、この人が俺の担当だったな……。
「失礼いたします。」
メイドさんは、きれいに礼をしてから俺の部屋に足を踏み入れた。
「……えっと、いきなりで悪いんですけど髪のセットとかってお願いできます……?俺あんまり得意じゃなくて。」
パーティーの準備で忙しいときに頼んでしまって申し訳ないと頭を掻きながら言うと、大丈夫だと微笑んで了承してくれた。
「あと、名前って聞いていいですか?お世話になるのでせっかくだし聞いておきたくて。」
「……サラと申します。」
「サラさん!いい名前ですね。」
「ありがとうございます。」
人に名前を聞いておいて自分だけ何も言わないのはなんだか変な気がする。
「俺は、ユニファート・ハロイドです。これからよろしくお願いします。」
「存じております。よろしくお願いします。」
深々と頭を下げながら言ったのだけれど、知っているといわれて顔だけ挙げてしばし固まってしまった。
……そりゃあ自分がもてなす客の名前を知らないメイドがいるわけがないよな……。
恥ずかしい。
思わずサラさんにクルリと背を向け顔を両手で覆った。
「……それじゃあセットお願いします……。」
「はい。」
顔を覆っていた手をはずしておそらく赤いであろう顔をさらしてドレッサーの前にある椅子に座る。
「一応使いそうなものはそこのテーブルの上に出しておいたので、好きに使ってください。」
「ありがとうございます。何か髪型のご希望はございますか?」
「……いや、とくには。でもまあ、この派手な服装に髪型だけでも負けないようにお願いします。」
服の色が濃いから、俺の色素の薄い顔じゃあ服だけが歩いてるように見えないか心配なのだ。
「はぁ……。」
サラさんからなんだか気の抜けた返事が返ってきた。
……俺もしかして何か変なことでも言ったか?もしかして、このくらいの色じゃあ派手って言わないのか⁈インドールは!
「この服装って派手な方ですよね……?」
「え、ええ。貴族の方々が身に着けられるものは、基本的に庶民には何でも派手に見えます。」
「ですよねー。よかった。」
「……どうかなさいましたか?」
サラさんは質問の意図が分からないと首を傾げている。
「さっきサラさんが随分と気の抜け返事をしていたので。」
「それは……申し訳ございません。」
鏡越しに頭を下げるサラさんにブンブンと手を振って否定する。
「そうじゃなくて、俺何かしちゃったかなと思って。」
勘違いをさせてしまったと頬を掻きながら言うと、サラさんがポカンと口を開けて固まってしまった。
「……サラさん?おーい、サラさーん。」
俺の髪を梳かしていた櫛をそっと抜いて、振り向いてサラさんの目の前で手を振った。
すると、いきなりパチッと瞬きをしたので、むしろこっちのほうが驚いてしまう。
「サラさん?」
「申し訳ありません、あまりに驚いてしまって……。」
「驚く?なににですか?」
「……ハロイド様が使用人の気持ちまで気にしていらしたので、驚いてしまって。」
……え、普通じゃないのか?兄上も父上も母上も、キリル嬢だってみんな同じようにしていたから俺も習慣づいていたけれど、もしかして非常識な行動だったのか?
「……こういうのってやめたほうがいいんですか?」
「っいいえ、そんなことは全くありません!きっとこういうところがハロイド様のいいところだと思います。」
「そうですか、よかった。」
サラさんが嫌な思いをしたわけじゃなくてよかった……。それにしても国が違うと、使用人の扱いも違うのか。それとも、俺の周りが特殊なのだろうか。
学園を卒業して、なんとなく世の中を知ったつもりになっていたけれど、俺は随分と世間知らずだったみたいだ。
仕官になったのは独り立ちするためだったけれど、世間を知るいい機会かもしれない。
「コレ、一枚もらってもいい?」
「ああ、好きにしてくれ。」
どうせすぐに脱いでしまうけれど、さすがに全裸で歩き回るのは抵抗がある。タオルをもらってからすぐに自分の部屋に歩き出した。
俺の部屋に続く扉のノブに手をかけたとき、頭をわしゃわしゃとタオルで拭いているラインハルトが声をかけてきた。
「ユーファ、正装姿楽しみにしてるから。」
「う、うん……。」
俺、ヘアセットとか得意じゃないって……。期待されても予想を下回る結果しかご提供できないんですけど……。
扉を後ろ手に閉めてから、クローゼットを開いた。うちの侍女が荷物を詰めてくれたものを出しただけだから服にはシワひとつついていないけれど、ジャケットの構造が難しすぎる。
基本的に自分で全部着るってことなかったし、よくわからないな……。
とりあえず、シャツとスラックスを穿いて真紅のジャケットに腕を通す。鏡の前で見てみると、なんだか俺の頭の色がジャケットに負けているような気がした。
何か変えようにも仕官の制服以外はこれしか持ってきてないしな。
このまま悩んでいても遅刻するだけだしヘアセット、手伝ってもらうか。
テーブルの真ん中に置かれている呼び鈴をチリンと鳴らす。
メイドさんが来るのを待っている間、整髪料や櫛などの必要なものをテーブルに並べているとコンコンコンとノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
ドアを開くと、俺を部屋まで案内してくれたメイドさんが立っていた。そういえば、この人が俺の担当だったな……。
「失礼いたします。」
メイドさんは、きれいに礼をしてから俺の部屋に足を踏み入れた。
「……えっと、いきなりで悪いんですけど髪のセットとかってお願いできます……?俺あんまり得意じゃなくて。」
パーティーの準備で忙しいときに頼んでしまって申し訳ないと頭を掻きながら言うと、大丈夫だと微笑んで了承してくれた。
「あと、名前って聞いていいですか?お世話になるのでせっかくだし聞いておきたくて。」
「……サラと申します。」
「サラさん!いい名前ですね。」
「ありがとうございます。」
人に名前を聞いておいて自分だけ何も言わないのはなんだか変な気がする。
「俺は、ユニファート・ハロイドです。これからよろしくお願いします。」
「存じております。よろしくお願いします。」
深々と頭を下げながら言ったのだけれど、知っているといわれて顔だけ挙げてしばし固まってしまった。
……そりゃあ自分がもてなす客の名前を知らないメイドがいるわけがないよな……。
恥ずかしい。
思わずサラさんにクルリと背を向け顔を両手で覆った。
「……それじゃあセットお願いします……。」
「はい。」
顔を覆っていた手をはずしておそらく赤いであろう顔をさらしてドレッサーの前にある椅子に座る。
「一応使いそうなものはそこのテーブルの上に出しておいたので、好きに使ってください。」
「ありがとうございます。何か髪型のご希望はございますか?」
「……いや、とくには。でもまあ、この派手な服装に髪型だけでも負けないようにお願いします。」
服の色が濃いから、俺の色素の薄い顔じゃあ服だけが歩いてるように見えないか心配なのだ。
「はぁ……。」
サラさんからなんだか気の抜けた返事が返ってきた。
……俺もしかして何か変なことでも言ったか?もしかして、このくらいの色じゃあ派手って言わないのか⁈インドールは!
「この服装って派手な方ですよね……?」
「え、ええ。貴族の方々が身に着けられるものは、基本的に庶民には何でも派手に見えます。」
「ですよねー。よかった。」
「……どうかなさいましたか?」
サラさんは質問の意図が分からないと首を傾げている。
「さっきサラさんが随分と気の抜け返事をしていたので。」
「それは……申し訳ございません。」
鏡越しに頭を下げるサラさんにブンブンと手を振って否定する。
「そうじゃなくて、俺何かしちゃったかなと思って。」
勘違いをさせてしまったと頬を掻きながら言うと、サラさんがポカンと口を開けて固まってしまった。
「……サラさん?おーい、サラさーん。」
俺の髪を梳かしていた櫛をそっと抜いて、振り向いてサラさんの目の前で手を振った。
すると、いきなりパチッと瞬きをしたので、むしろこっちのほうが驚いてしまう。
「サラさん?」
「申し訳ありません、あまりに驚いてしまって……。」
「驚く?なににですか?」
「……ハロイド様が使用人の気持ちまで気にしていらしたので、驚いてしまって。」
……え、普通じゃないのか?兄上も父上も母上も、キリル嬢だってみんな同じようにしていたから俺も習慣づいていたけれど、もしかして非常識な行動だったのか?
「……こういうのってやめたほうがいいんですか?」
「っいいえ、そんなことは全くありません!きっとこういうところがハロイド様のいいところだと思います。」
「そうですか、よかった。」
サラさんが嫌な思いをしたわけじゃなくてよかった……。それにしても国が違うと、使用人の扱いも違うのか。それとも、俺の周りが特殊なのだろうか。
学園を卒業して、なんとなく世の中を知ったつもりになっていたけれど、俺は随分と世間知らずだったみたいだ。
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