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三章 外国にて
皇帝陛下の気遣い
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しばらくして、港からみんないなくなった頃。俺たちは荷物をもって階段を下りていた。船から陸まで伸びる長い階段は、随分と高いし長いしとても怖い。
手すりに掴まりながら、一段一段ゆっくりと降りていく。
「おい、ハロイドもっと速く歩けよ~」
とっくの昔に下まで降り切っているボルデモート先輩が下から茶化してくる。今こっちはそれどころじゃないのに……!
「無理です!助けてください!」
せめてトランクだけでも持ってくれ……!そしたらほんのちょっとはスピードが上がる気はする。
ボルデモート先輩は、俺を茶化すばかりで手伝ってくれる気配は全くない。足を震わせながらも一段一段確実に降りていく。
乗るときはワクワクして上しか見ていなかったから、全然怖くなかったのに。
「せんぱーい、助けてくださいー!」
流石にこれ以上は耐えられない。完全に手すりに掴まったまま座り込んでしまった。そんな俺の様子を見かねてかやっと先輩が階段を上がってきてくれた。
先輩が目の前まで来て呆れた顔で俺のトランクに手を伸ばしたその瞬間、トランクが消えた。
「え?」
後ろを向くとラインハルトが俺の荷物を持って立っていた。
「ラインハルト……?」
なんだかちょっと機嫌が悪そうだ。
「どうかした?」
「……なにも。」
口を噤んではいるけれど、俺を気遣って手を差し出してくれる。俺はありがたくラインハルトに掴まらせてもらうことにした。
「あ、ありがとう……。」
みんなの前でこういうことをするのは気が引けるけれど、降りられないままよりはマシだ。
ラインハルトはゆっくりと俺の様子を見ながら降りてくれる。しっかりと手を握っていてくれるから、さっきよりもちょっと気分が楽だ。
俺を迎えに来てくれていたはずのボルデモート先輩はというと、俺とラインハルトの後ろから呆れた顔をしてついてきている。せっかく上って来てくれたのに申し訳ないな……。
下まで降りると、インドールからの出迎えの人が数人、待っていてくれた。
「お待ちしておりました、ファンゼルダ国王陛下。」
皇帝補佐官だという男性が、ラインハルトへ挨拶をする。さすがに妃でもないのに隣に並んで立つなんてことはできないから、後ろで待機をする。
インドールは国民みんなが褐色の肌と黒い髪を持っていて、平均して運動能力が高い。
ファンゼルダにはあまり濃い色を持つ人が少ないから、なんだか新鮮だ。髪も目も薄い色の人が多い中、王族だけは濃い色をしている。
ラインハルトは黒髪に赤い目だし、殿下は赤い髪に緑の目だ。なんでそうなっているかは、王国建国記に書いてあった気がする。建国記はとても長いから、読み返す気にはならないけれど。
「あちらの館で、皇帝による歓迎のパーティをささやかながらご用意させていただきました。」
そういうと補佐官の男性は建物の屋根の間から見える大きな館を指さした。ほかの建物が一色に統一されている中、その館のドーム状の屋根は鮮やかな青と金で彩られている。
それにしても、歓迎パーティーか……たしかしおりにも書いてあったはずだ。手厚い歓迎をしてくれるのは、とても嬉しい。
その館はここからほど近いところにあるらしく、徒歩で向かう。その館にはこの国にいる間俺たちはそのまま宿泊する予定だ。
ぞろぞろと荷物をもって先頭を歩く補佐官の男性についていく。
しばらくみんな町並みに見惚れて黙っていたが、耐えられなくなったのかボルデモート先輩が口を開いた。
「すげーきれいだな……。」
吐息のように言葉を紡いだ先輩に俺は素直に同意する。
「そうですよね、町の建物の色が全部統一されてて一個の芸術品、て感じがします。」
そうするうちにあの青い屋根の館が見えてきた。
『おお……』
皆がそろって感嘆の息を漏らす。もちろん俺も。
さっきは屋根しか見えていなかったため、屋根だけが青いものだと思っていたが、全部青い。
屋根から壁から柱まで全部が青いのだ。それでも、くどくなく美しいと思わせるのは白と金の模様のおかげだろう。青の上を余すところなく駆け巡るそれは、実に見事に調和している。
少し前に立っているラインハルトを見れば、彼もまた同様に息を零していた。
パンパンと手を叩いて補佐官の男性が口を開いた。
「さあ、中に入りましょう。皆様のお部屋にご案内いたします。」
皆視線をフッと補佐官に戻す。壁を見ることに夢中になっていて案内されている途中だということを忘れていた。
入口をくぐり抜けると、四方八方が青でまた足を止めてしまいそうになっていたところをボルデモート先輩に突かれた。
「みんなに置いてかれるぞ~」
「え、あっはい!」
危ない、部屋もわからないまま立ち尽くすところだった。
エントランスまで歩くと、それぞれ部屋まで案内の者が付けられた。
「荷物をお持ちします。」
俺の担当のメイドさんが、スッと荷物を持とうとしてくれる。
「だ、大丈夫です。女性に荷物を持たせるのはなんだか申し訳ないので……。」
「そうですか、かしこまりました。」
なんだか耳が赤い気がするけれど、身長差があるせいでメイドさんの顔が見えない。覗き込むのも失礼だしな……。
「もしかして、体調悪いですか?」
「いえ、そのようなことはございませんが。」
ちゃんと目線を合わせてしゃべってくれているけれどやっぱりちょっと顔が赤いような気がする。
「やっぱり、顔赤いですよ。誰かに仕事変わってもらって休んだほうが……。」
「大丈夫です!」
メイドさんから食い気味に返答がきた。
「そ、そうですか。」
本人がいいといっているのに無理強いをするのはよくないし、それ以上の追及はやめることにした。
「大声を出してしまい、申し訳ございません。」
「全然大丈夫でしたから、気にしないでください。」
「でも……申し訳ございません。」
「だから、大丈夫ですよ。」
2人して頭を下げあいながら歩いていると、部屋までついたらしくメイドさんは表情をキリッと戻して説明をしてくれた。
「こちらがハロイド様のお部屋になります。」
「ここも綺麗ですね……。」
白い扉を開けて中に入ると、きれいにベットメイクされた大きなベットと世界各国で読まれている英雄譚が並ぶ本棚があった。
洗面所だとか、一通り扉を開けて場所を確認したけれど、1つよくわからない扉がある。
「あの扉って何なんですか?」
謎の扉を指さして質問すると、予想外の答えが返ってきた。
「あの扉の先はファンゼルダ国王陛下のお部屋でございます。」
「……え?続き部屋なんですか?」
「はい、そうです。」
「なんで、ですか?」
「皇帝陛下の取り計らいでございます。」
取り計らいって……国外まで俺たちの噂は広まってるのか!恥ずかしい……ほんと恥ずかしい。
皇帝陛下からしたら良いことした気分なのかもしれないけれど、俺からしたら……嫌、ではないけれどでもほら、こういう配慮は妃様がいらっしゃったときにすることだよな⁈
皇帝陛下、いらないですこの気遣い……。
手すりに掴まりながら、一段一段ゆっくりと降りていく。
「おい、ハロイドもっと速く歩けよ~」
とっくの昔に下まで降り切っているボルデモート先輩が下から茶化してくる。今こっちはそれどころじゃないのに……!
「無理です!助けてください!」
せめてトランクだけでも持ってくれ……!そしたらほんのちょっとはスピードが上がる気はする。
ボルデモート先輩は、俺を茶化すばかりで手伝ってくれる気配は全くない。足を震わせながらも一段一段確実に降りていく。
乗るときはワクワクして上しか見ていなかったから、全然怖くなかったのに。
「せんぱーい、助けてくださいー!」
流石にこれ以上は耐えられない。完全に手すりに掴まったまま座り込んでしまった。そんな俺の様子を見かねてかやっと先輩が階段を上がってきてくれた。
先輩が目の前まで来て呆れた顔で俺のトランクに手を伸ばしたその瞬間、トランクが消えた。
「え?」
後ろを向くとラインハルトが俺の荷物を持って立っていた。
「ラインハルト……?」
なんだかちょっと機嫌が悪そうだ。
「どうかした?」
「……なにも。」
口を噤んではいるけれど、俺を気遣って手を差し出してくれる。俺はありがたくラインハルトに掴まらせてもらうことにした。
「あ、ありがとう……。」
みんなの前でこういうことをするのは気が引けるけれど、降りられないままよりはマシだ。
ラインハルトはゆっくりと俺の様子を見ながら降りてくれる。しっかりと手を握っていてくれるから、さっきよりもちょっと気分が楽だ。
俺を迎えに来てくれていたはずのボルデモート先輩はというと、俺とラインハルトの後ろから呆れた顔をしてついてきている。せっかく上って来てくれたのに申し訳ないな……。
下まで降りると、インドールからの出迎えの人が数人、待っていてくれた。
「お待ちしておりました、ファンゼルダ国王陛下。」
皇帝補佐官だという男性が、ラインハルトへ挨拶をする。さすがに妃でもないのに隣に並んで立つなんてことはできないから、後ろで待機をする。
インドールは国民みんなが褐色の肌と黒い髪を持っていて、平均して運動能力が高い。
ファンゼルダにはあまり濃い色を持つ人が少ないから、なんだか新鮮だ。髪も目も薄い色の人が多い中、王族だけは濃い色をしている。
ラインハルトは黒髪に赤い目だし、殿下は赤い髪に緑の目だ。なんでそうなっているかは、王国建国記に書いてあった気がする。建国記はとても長いから、読み返す気にはならないけれど。
「あちらの館で、皇帝による歓迎のパーティをささやかながらご用意させていただきました。」
そういうと補佐官の男性は建物の屋根の間から見える大きな館を指さした。ほかの建物が一色に統一されている中、その館のドーム状の屋根は鮮やかな青と金で彩られている。
それにしても、歓迎パーティーか……たしかしおりにも書いてあったはずだ。手厚い歓迎をしてくれるのは、とても嬉しい。
その館はここからほど近いところにあるらしく、徒歩で向かう。その館にはこの国にいる間俺たちはそのまま宿泊する予定だ。
ぞろぞろと荷物をもって先頭を歩く補佐官の男性についていく。
しばらくみんな町並みに見惚れて黙っていたが、耐えられなくなったのかボルデモート先輩が口を開いた。
「すげーきれいだな……。」
吐息のように言葉を紡いだ先輩に俺は素直に同意する。
「そうですよね、町の建物の色が全部統一されてて一個の芸術品、て感じがします。」
そうするうちにあの青い屋根の館が見えてきた。
『おお……』
皆がそろって感嘆の息を漏らす。もちろん俺も。
さっきは屋根しか見えていなかったため、屋根だけが青いものだと思っていたが、全部青い。
屋根から壁から柱まで全部が青いのだ。それでも、くどくなく美しいと思わせるのは白と金の模様のおかげだろう。青の上を余すところなく駆け巡るそれは、実に見事に調和している。
少し前に立っているラインハルトを見れば、彼もまた同様に息を零していた。
パンパンと手を叩いて補佐官の男性が口を開いた。
「さあ、中に入りましょう。皆様のお部屋にご案内いたします。」
皆視線をフッと補佐官に戻す。壁を見ることに夢中になっていて案内されている途中だということを忘れていた。
入口をくぐり抜けると、四方八方が青でまた足を止めてしまいそうになっていたところをボルデモート先輩に突かれた。
「みんなに置いてかれるぞ~」
「え、あっはい!」
危ない、部屋もわからないまま立ち尽くすところだった。
エントランスまで歩くと、それぞれ部屋まで案内の者が付けられた。
「荷物をお持ちします。」
俺の担当のメイドさんが、スッと荷物を持とうとしてくれる。
「だ、大丈夫です。女性に荷物を持たせるのはなんだか申し訳ないので……。」
「そうですか、かしこまりました。」
なんだか耳が赤い気がするけれど、身長差があるせいでメイドさんの顔が見えない。覗き込むのも失礼だしな……。
「もしかして、体調悪いですか?」
「いえ、そのようなことはございませんが。」
ちゃんと目線を合わせてしゃべってくれているけれどやっぱりちょっと顔が赤いような気がする。
「やっぱり、顔赤いですよ。誰かに仕事変わってもらって休んだほうが……。」
「大丈夫です!」
メイドさんから食い気味に返答がきた。
「そ、そうですか。」
本人がいいといっているのに無理強いをするのはよくないし、それ以上の追及はやめることにした。
「大声を出してしまい、申し訳ございません。」
「全然大丈夫でしたから、気にしないでください。」
「でも……申し訳ございません。」
「だから、大丈夫ですよ。」
2人して頭を下げあいながら歩いていると、部屋までついたらしくメイドさんは表情をキリッと戻して説明をしてくれた。
「こちらがハロイド様のお部屋になります。」
「ここも綺麗ですね……。」
白い扉を開けて中に入ると、きれいにベットメイクされた大きなベットと世界各国で読まれている英雄譚が並ぶ本棚があった。
洗面所だとか、一通り扉を開けて場所を確認したけれど、1つよくわからない扉がある。
「あの扉って何なんですか?」
謎の扉を指さして質問すると、予想外の答えが返ってきた。
「あの扉の先はファンゼルダ国王陛下のお部屋でございます。」
「……え?続き部屋なんですか?」
「はい、そうです。」
「なんで、ですか?」
「皇帝陛下の取り計らいでございます。」
取り計らいって……国外まで俺たちの噂は広まってるのか!恥ずかしい……ほんと恥ずかしい。
皇帝陛下からしたら良いことした気分なのかもしれないけれど、俺からしたら……嫌、ではないけれどでもほら、こういう配慮は妃様がいらっしゃったときにすることだよな⁈
皇帝陛下、いらないですこの気遣い……。
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