貴族なのに結婚できない‼︎‼︎

アクエリア

文字の大きさ
上 下
30 / 40
三章 外国にて

皇帝陛下の気遣い

しおりを挟む
 しばらくして、港からみんないなくなった頃。俺たちは荷物をもって階段を下りていた。船から陸まで伸びる長い階段は、随分と高いし長いしとても怖い。

 手すりに掴まりながら、一段一段ゆっくりと降りていく。

「おい、ハロイドもっと速く歩けよ~」

 とっくの昔に下まで降り切っているボルデモート先輩が下から茶化してくる。今こっちはそれどころじゃないのに……!

「無理です!助けてください!」

 せめてトランクだけでも持ってくれ……!そしたらほんのちょっとはスピードが上がる気はする。

 ボルデモート先輩は、俺を茶化すばかりで手伝ってくれる気配は全くない。足を震わせながらも一段一段確実に降りていく。

 乗るときはワクワクして上しか見ていなかったから、全然怖くなかったのに。

「せんぱーい、助けてくださいー!」

 流石にこれ以上は耐えられない。完全に手すりに掴まったまま座り込んでしまった。そんな俺の様子を見かねてかやっと先輩が階段を上がってきてくれた。

 先輩が目の前まで来て呆れた顔で俺のトランクに手を伸ばしたその瞬間、トランクが消えた。

「え?」

後ろを向くとラインハルトが俺の荷物を持って立っていた。

「ラインハルト……?」

 なんだかちょっと機嫌が悪そうだ。

「どうかした?」

「……なにも。」

 口を噤んではいるけれど、俺を気遣って手を差し出してくれる。俺はありがたくラインハルトに掴まらせてもらうことにした。

「あ、ありがとう……。」

 みんなの前でこういうことをするのは気が引けるけれど、降りられないままよりはマシだ。

 ラインハルトはゆっくりと俺の様子を見ながら降りてくれる。しっかりと手を握っていてくれるから、さっきよりもちょっと気分が楽だ。

 俺を迎えに来てくれていたはずのボルデモート先輩はというと、俺とラインハルトの後ろから呆れた顔をしてついてきている。せっかく上って来てくれたのに申し訳ないな……。











 下まで降りると、インドールからの出迎えの人が数人、待っていてくれた。

「お待ちしておりました、ファンゼルダ国王陛下。」

 皇帝補佐官だという男性が、ラインハルトへ挨拶をする。さすがに妃でもないのに隣に並んで立つなんてことはできないから、後ろで待機をする。

 インドールは国民みんなが褐色の肌と黒い髪を持っていて、平均して運動能力が高い。

 ファンゼルダにはあまり濃い色を持つ人が少ないから、なんだか新鮮だ。髪も目も薄い色の人が多い中、王族だけは濃い色をしている。

 ラインハルトは黒髪に赤い目だし、殿下は赤い髪に緑の目だ。なんでそうなっているかは、王国建国記に書いてあった気がする。建国記はとても長いから、読み返す気にはならないけれど。

「あちらの館で、皇帝による歓迎のパーティをささやかながらご用意させていただきました。」

 そういうと補佐官の男性は建物の屋根の間から見える大きな館を指さした。ほかの建物が一色に統一されている中、その館のドーム状の屋根は鮮やかな青と金で彩られている。

 それにしても、歓迎パーティーか……たしかしおりにも書いてあったはずだ。手厚い歓迎をしてくれるのは、とても嬉しい。



 その館はここからほど近いところにあるらしく、徒歩で向かう。その館にはこの国にいる間俺たちはそのまま宿泊する予定だ。

 ぞろぞろと荷物をもって先頭を歩く補佐官の男性についていく。

 しばらくみんな町並みに見惚れて黙っていたが、耐えられなくなったのかボルデモート先輩が口を開いた。

「すげーきれいだな……。」

 吐息のように言葉を紡いだ先輩に俺は素直に同意する。

「そうですよね、町の建物の色が全部統一されてて一個の芸術品、て感じがします。」

 そうするうちにあの青い屋根の館が見えてきた。

『おお……』

 皆がそろって感嘆の息を漏らす。もちろん俺も。

 さっきは屋根しか見えていなかったため、屋根だけが青いものだと思っていたが、全部青い。

 屋根から壁から柱まで全部が青いのだ。それでも、くどくなく美しいと思わせるのは白と金の模様のおかげだろう。青の上を余すところなく駆け巡るそれは、実に見事に調和している。

 少し前に立っているラインハルトを見れば、彼もまた同様に息を零していた。

 パンパンと手を叩いて補佐官の男性が口を開いた。

「さあ、中に入りましょう。皆様のお部屋にご案内いたします。」

 皆視線をフッと補佐官に戻す。壁を見ることに夢中になっていて案内されている途中だということを忘れていた。

 入口をくぐり抜けると、四方八方が青でまた足を止めてしまいそうになっていたところをボルデモート先輩に突かれた。

「みんなに置いてかれるぞ~」

「え、あっはい!」

 危ない、部屋もわからないまま立ち尽くすところだった。

 エントランスまで歩くと、それぞれ部屋まで案内の者が付けられた。

「荷物をお持ちします。」

 俺の担当のメイドさんが、スッと荷物を持とうとしてくれる。

「だ、大丈夫です。女性に荷物を持たせるのはなんだか申し訳ないので……。」

「そうですか、かしこまりました。」

 なんだか耳が赤い気がするけれど、身長差があるせいでメイドさんの顔が見えない。覗き込むのも失礼だしな……。

「もしかして、体調悪いですか?」

「いえ、そのようなことはございませんが。」

 ちゃんと目線を合わせてしゃべってくれているけれどやっぱりちょっと顔が赤いような気がする。

「やっぱり、顔赤いですよ。誰かに仕事変わってもらって休んだほうが……。」

「大丈夫です!」

 メイドさんから食い気味に返答がきた。

「そ、そうですか。」

 本人がいいといっているのに無理強いをするのはよくないし、それ以上の追及はやめることにした。

「大声を出してしまい、申し訳ございません。」

「全然大丈夫でしたから、気にしないでください。」

「でも……申し訳ございません。」

「だから、大丈夫ですよ。」

 2人して頭を下げあいながら歩いていると、部屋までついたらしくメイドさんは表情をキリッと戻して説明をしてくれた。

「こちらがハロイド様のお部屋になります。」

「ここも綺麗ですね……。」

 白い扉を開けて中に入ると、きれいにベットメイクされた大きなベットと世界各国で読まれている英雄譚が並ぶ本棚があった。

 洗面所だとか、一通り扉を開けて場所を確認したけれど、1つよくわからない扉がある。

「あの扉って何なんですか?」

 謎の扉を指さして質問すると、予想外の答えが返ってきた。

「あの扉の先はファンゼルダ国王陛下のお部屋でございます。」

「……え?続き部屋なんですか?」

「はい、そうです。」

「なんで、ですか?」

「皇帝陛下の取り計らいでございます。」

 取り計らいって……国外まで俺たちの噂は広まってるのか!恥ずかしい……ほんと恥ずかしい。

 皇帝陛下からしたら良いことした気分なのかもしれないけれど、俺からしたら……嫌、ではないけれどでもほら、こういう配慮は妃様がいらっしゃったときにすることだよな⁈

 皇帝陛下、いらないですこの気遣い……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...