貴族なのに結婚できない‼︎‼︎

アクエリア

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三章 外国にて

なんでいる!?

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 赤くなった顔を隠そうともせず、陛下が口を開いた。

「な、なぜわざわざ路地に入るんだ?」

「道のど真ん中で立ち止まってても迷惑になりますし、俺達身長的になんか目立っちゃってるみたいですから。」

 それ以外に路地に用事はないと思うのだが……。路地にある知る人ぞ知る名店!みたいなのもこの町に来たばかりだから知らないし。

 俺の返答を聞いて、陛下は残念そうな、安心したような、変な顔をしていた。そしてその視線は、俺を通り越して、路地に向いている。もしかして路地に変なものでもあったのか?

 後ろを向いて少し目を凝らしてみてみると、男女が口を寄せて絡み合っている。……人がそういうことをしている場面など、今まで見たことがなかったから、驚きと好奇心とでなかなか目線がずらせない。

 戸惑っていると、陛下の手によってスッと視界が閉ざされた。

「え、なに、なんですか?」

「ユニファート、お前にはまだ早いだろう?」

 俺の目の前にある手をどかし、後ろを見ると陛下が困った顔をして立っていた。それに顔がまだ少し赤い。

「別に……早くはないでしょ。」

 子供扱いをされたことに少し苛立つ。確かに未成年ではあるけれど、そこまでおこちゃまでもない。

「……もしかしてだれかと、ああいうことをしたことがあるのか?」

 俺の小さな意地が、変に誤解されてしまったみたいだ。

「ない、ないですけど!とりあえず、店入りましょう……。」

 慌てて否定をすると、陛下の頬が緩んだ。あんまり、陛下の怖い顔は好きじゃないからよかった。





 さっきまで全然思いつかなかったけれど、普通に店に入ればよかったな。しかも、路地に変なことをしている人たちがいたのに、路地に行こうと誘ってしまったから、まるで俺が変態みたいだ。

 それに、俺たちの会話が周りにも聞こえてしまってるみたいで、さっきよりも俄然注目されている。さっさとこの視線から逃れたい。

 どこか手頃な店はないかと周りを見ると、路地の本当にすぐ横にカフェテリアがあった。こんなにも近くに店があったのに、視界に入らないって、俺の目はどうなってるんだ。




 さっさと店に入ろうと、陛下の手を掴んでグイグイと引っ張る。陛下が素直についてきてくれたので、そこまで力を籠めずに済んだ。

 ドアを開けると、ドアベルの子気味良い音が店内に響いた。

「いらっしゃいませ~。何名様でしょうか。」

「2名で。個室とかあります?」

 陛下いるし、あまり人目に触れるのはよくないだろう。店員さんに聞くと快く案内してくれた。

 中に入ると、窓はなく昼間なのに暗めの照明によってちょっとムーディーな空間だった。テーブルはちょっと小さめで、対面のソファに腰を掛けるといつもより距離が近くてちょっとドキドキする。

 陛下のことを好きだと自覚してしまったからなおのことだ。



 俺は、さっきからずっと気になっていたことを聞いた。

「あ、あのラインハルト様はなんでここに?」

 陛下は今回の外交には参加しないと伺っていたから、声をかけられたときは本当に驚いた。

「久しぶりに、インドールの皇帝に会おうかと思ってな。戴冠式以来会っていないから、たまには挨拶をしに行かねばならん。」

 なんか、期待しちゃってたな……俺の会うために来てくれたとか思ってた。陛下なんか俺大好きみたいなこと周りから言われて少し調子に乗っていたかも。

 やっぱり国王なだけあって陛下はとても忙しい。試験を受けるために王都に行っていた期間あんなに会えていたのがむしろおかしいのだ。

 少しがっかりした顔をする俺を見て陛下が慌てた様子で口を開いた。

「今言ったのも理由としてはなくはないのだが……ユニファートとあまり離れたくなかったんだ……。でも、前みたいにお前に怒られるのも嫌だったから……誤魔化した。本当は今日はユニファートに会いに来たんだ。」

 なんか、顔が熱い。心臓もちょっと動きが早いし、もしかして熱でもあるのかも。……って、そんなわけないよなぁ。なんか陛下に妨害されて別れてしまった人たちにも最初はこんな風にドキドキしてたのだから、これがなにかはさすがにわかっている。



 なんだか、キリル嬢に前に読まされた恋愛小説の主人公にでもなったような気分だ。

「う、嬉しい、です……。」

 恋愛小説の主人公は好きな男性に対して天邪鬼なことばかり言ってしまってたくさんすれ違っていた。俺はそんな思いしたくないから、恥ずかしいけれど、ちゃんと気持ちを伝えたい。

 反応が気になって上目で見てみると、陛下が驚いた顔でこちらを見ていた。

「ほ、本当か?」

 コクリと頷く。すると、陛下は本当に嬉しそうに顔を綻ばせた。至近距離でその笑みを見てしまって、俺まで顔が熱くなってしまう。

 顔を覆って悶えていると、控えめなノックの音が聞こえた。「どうぞ。」と返事をすると、さっきの店員さんが顔を覗かせた。

「お水をお持ちしました。」

 そういって、グラスに氷と水を注いでくれた……のだけれど、何故だか恥ずかしそうにして、そそくさと出て行ってしまった。

 この水、どうしようか。確かにのどは乾いているし、お腹も減っているけれど、陛下には今毒見役がいない。俺だけ水を飲むのもなんだしな……。

 まずはゴクリと水を飲んでみる。陛下も水に手を伸ばしていたけれど、やんわりと手で押しとどめた。ゆっくりと口の中で水を味わうけれど、ピリピリするなどの異常もない。

 うん、大丈夫だな。ほかのコップのはまだ飲んでいないし、これは安全なはず。

「これ、大丈夫でした。どうぞ。」

 スッとテーブルの上を滑らせて陛下にコップを差し出した。あ、これ、俺が口付けてるから陛下に出したらダメなんじゃ……。

 陛下は、俺とコップを交互に見て、少し複雑そうな顔をしてコップを持った。

 陛下の薄い唇がコップにつけられる。軽くあいた唇から流れ込んでいく水を陛下がゴクリと飲み込んだ。

 ……水を飲んでるだけだよな?水を飲むだけでこんなにも官能的になるものなのか?

 2人きりの密室だからか、俺に心変わりがあったからかわからないけれど、何はともあれ刺激が強すぎる。思わずゴクリと喉を鳴らしてしまったほどだ。

 ……そういえば、間接キスになってしまうのでは?俺が飲んだ水を陛下が飲むってなんか恥ずかしい……。

「ラインハルト様、何か頼みます?俺、今お腹減ってて……。」

「ユニファート、お前さっきなんで毒見をしたんだ。」

 なんだか怒っている……?

「なんでといわれましても……ラインハルト様に何かあっては大変ですし。」

「俺は、お前が傷つくのが一番嫌いだ。だからこんな真似は二度としないでくれ。」

 縋るような声を出して陛下が言う。俺はきっと陛下のお願いに弱い。身分的な問題にはあり得ないことであろうと、陛下のお願いならば何でも聞いてしまうくらいには。

「……はい。」

「それに、今日のユニファートはなんだか変だな。いつもはもう少し落ち着いているというか、冷静だろう?」

 確かに、陛下への想いを自覚して今まで平気だった距離感がすぐに動揺してしまうようになってしまった。だから、陛下が感じていることは間違いじゃないけど。

 変って言われてしまったら、俺のこの変化が悪いことのような気がしてしまう。



「……陛下は、嫌でしたか?」

 動揺して、呼び方が元に戻ってしまった。わかってはいるけれど、今訂正している場合ではない。ジッと陛下の目を見つめる。

「嫌、ではない。お前が俺を好いてくれているように感じられて、楽しい時間だった。でも、また前みたいに無意識だとしたら、とても、辛い。だから今のユニファートの素直な気持ちが知りたい。」

 嫌じゃない。その一言だけで俺の不安な気持ちが全部拭われた。陛下に今の俺の気持ちを伝えたい。その気持ちは大いにある。あるけれど、恥ずかしくてなかなか声が出てこない。

「……やっぱり前と変わらないままか?」

 フルフルと首を振る。それだけはない。絶対に。だって今陛下のことがこんなにも好きなのだから。

 ……俺の一瞬の恥ずかしさなんて陛下が傷つくことに比べたら些細なことだ。早く、陛下を笑顔にしてあげたい。大きく息を吸い込み、口を開ける。

「好きです!」

 思わず口をふさぐ。思ってたよりも大きな声が出てしまった。確かに大きく息は吸ったけれどあれは、緊張をほぐすためで……。外まで聞こえてしまっただろうか。

 ……。それよりも陛下の反応だな。陛下に視線を向けると、目玉がこぼれそうなほどに目を見開いていた。そして、いきなりボロボロと涙がこぼれてきた。

「え、え……。ラインハルト様⁈」

 思わずテーブルの上に身を乗り出し、陛下の頬を流れ落ちる涙をぬぐった。

「ユニファート、愛してる。」

 涙を溢していたはずの陛下にいきなり抱き寄せられた。う、嬉しいけど恥ずかしい……。でも、ちゃんと俺の気持ちも伝えたい。

「俺も、です……。」

 顔も体も熱くなるくらい恥ずかしいけど、でもものすごく幸せだ。








 しばらくそのままの姿勢でいたけれど、流石に疲れてきたのでやんわりと陛下の胸を押して離れた。

「なにか、食べましょうか。」

「ああ……。」

 なんだか気恥ずかしくて、ご飯を食べ終わるまで俺たちはしばらく無言だった。
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