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二章 王弟殿下の襲来
初出勤
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それから一週間。基本的に家で過ごしていたけれど、王弟殿下がうちの訪れることはなかった。よかったと安心するような、残念なような変な気分だ。……いや、残念とかないな。うん、ない。
今日は王城へ初めての出勤だ。いつもより早く起きて、昨日届いたばかりの仕官の制服に袖を通す。ベストの左胸には、俺の名前が刺繍で刺されていてなんだかソワソワしてしまう。
食堂に行き、パパッと食事を済ませてから、馬車に乗り込んだ。
さっきはセバスチャンが玄関まで見送りに来ていたけれど、鼻をすすっていたから見ないふりをしてきた。全く孫の結婚式を見たおじいちゃんみたいだったな。
ただの初出勤だというのに、涙腺緩すぎるんじゃないか?
……これからちゃんと働けるだろうか。先輩の名前や仕事をきちんと覚えなければならないけど、大丈夫だろうか?
王城の門を仕官用の許可証を見せて通り過ぎた。前回、試験を受けに来た時とは違い正面の入り口から王城の中に入る。そこには、俺のほかにも何人か同じ仕官服を着た人がいた。
みんなそこで立ち止まっていたので、俺もそれに倣う。少し待つと、俺達と似たような服を着た人がやってきた。その人は、仕官服にさらに細かな刺繍が加えられたものを着ていたのできっと、上の役職の人なのだろう。
「待たせたね。私は仕官長のジェイムズ・レヴァルトだ。今日から君たちの上司になる。よろしく頼むよ、一生懸命働いてくれたまえ。」
『はい!』
俺が返事をしようとすると、周りのみんなもまた同時に口を開いた。
パッと見40代前後の見た目をしているレヴァルト仕官長は、イケメンがそのまま老いた感じで、すごく女性にモテそうだ。
ボーッと仕官長を眺めていると、みんながゾロゾロと歩き始めた。どうやら城内を案内してくれるらしい。
キョロキョロと周りを見渡すと、陛下と追いかけっこをしていたときに見かけた場所が多くあった。俺、結構長い距離歩いてたんだな……。陛下を追いかけることに夢中で気がつかなかった。
一通り回ってから、仕官の執務室に案内された。たくさんのデスクが並んだその上に、書類が積み上げられている。……見慣れた光景だな。ちょっと懐かしくなってきた。
でも、兄上の執務室と違うのは、たくさんの人がひたすらに手を動かしていることだ。書類を恐ろしい速さでさばく人、そろばんを弾く手が早すぎて残像しか見えない人。仕官って思ってたよりも重労働なのか?
「君たちにはこれから、ここにあるデスクについて働いてもらう。あそこに座っているのが君たちの先輩だ。決して仕事の邪魔だけはしないように。彼らは定時に帰ろうと必死だからな。」
定時に帰りたいって、奥さんでも家で待ってるのか?だとしたら羨ましすぎる。俺にもいい奥さんとの出会い方を聞かせてほしい。
「あと、仕事場はこの執務室だけではない。出張や視察もあるから、王城に篭りっきりになることはないから、安心してくれ。」
出張、か……。流石に新人だから、すぐに行くことはないだろうけど、遠出をするのは楽しそうだ。
「そして早速だが、一週間後に王弟殿下の外交について行ってもらおうと思う。新人から2人、君たちの先輩から1人だ。ユニファート・ハロイドに関しては、王弟殿下から指名を受けているため、もう1人決めるように。」
……。出張、もうご指名が来たな。しかも王弟殿下!俺が嫌がるとわかっててやってるのかあの人!大体指名なんてするなよ、初日から目立っちゃうだろ!
既に視線が集まっている……。学園で見た覚えのある人もいるし、俺の名前知ってるんだろうな…。思わず頭を抱える。
「あと、それぞれのデスクには名前が書かれている。自分の席について、上に置いてある紙に書かれている通りに仕事をしてくれ。わからないことがあったら、質問しに来てくれていい。それでは、解散。」
仕官長の号令で、みんなゾロゾロと自分のデスクを探し始めた。俺のデスクは扉から1番近いところにあったので、簡単に見つけられた。
席に着くと、紙に報告済みのものと、企画書やまだ仕官長が目を通していない書類を分けるようにと書いてあった。……今までとあまり変わらないのでは?
なんだ、案外簡単じゃないか。多少数字が大きくなっているだけだろう?とりあえず、目の前にある書類の山に手を伸ばす。
黙々と作業を続けていると、伸ばした手がスカッと空を切った。ゆっくりと視線をあげると、そこには王弟殿下が。俺が仕分けていた書類の山を手に持っていた。
周りを見ると、みんなすでに膝をついている。……やばいやつだこれ。椅子から滑り落ちるように膝をついた。
いくらなんでも集中しすぎだ、俺。書類取られるまで気づかないとかよっぽどだろ。はあ、と小さくため息をつくと、上から声が聞こえてきた。
「今度の外交の打ち合わせをしたいんだけど、ハロイドくんと他の担当の人、借りていくね。ついておいで。」
チラリと伺い見ると、王弟殿下は既に踵をかえしていた。指名を受けてしまったし、置いて行かれないようにと慌ててついていく。俺の他も担当らしき人ももう立ち上がっていた。
今日は王城へ初めての出勤だ。いつもより早く起きて、昨日届いたばかりの仕官の制服に袖を通す。ベストの左胸には、俺の名前が刺繍で刺されていてなんだかソワソワしてしまう。
食堂に行き、パパッと食事を済ませてから、馬車に乗り込んだ。
さっきはセバスチャンが玄関まで見送りに来ていたけれど、鼻をすすっていたから見ないふりをしてきた。全く孫の結婚式を見たおじいちゃんみたいだったな。
ただの初出勤だというのに、涙腺緩すぎるんじゃないか?
……これからちゃんと働けるだろうか。先輩の名前や仕事をきちんと覚えなければならないけど、大丈夫だろうか?
王城の門を仕官用の許可証を見せて通り過ぎた。前回、試験を受けに来た時とは違い正面の入り口から王城の中に入る。そこには、俺のほかにも何人か同じ仕官服を着た人がいた。
みんなそこで立ち止まっていたので、俺もそれに倣う。少し待つと、俺達と似たような服を着た人がやってきた。その人は、仕官服にさらに細かな刺繍が加えられたものを着ていたのできっと、上の役職の人なのだろう。
「待たせたね。私は仕官長のジェイムズ・レヴァルトだ。今日から君たちの上司になる。よろしく頼むよ、一生懸命働いてくれたまえ。」
『はい!』
俺が返事をしようとすると、周りのみんなもまた同時に口を開いた。
パッと見40代前後の見た目をしているレヴァルト仕官長は、イケメンがそのまま老いた感じで、すごく女性にモテそうだ。
ボーッと仕官長を眺めていると、みんながゾロゾロと歩き始めた。どうやら城内を案内してくれるらしい。
キョロキョロと周りを見渡すと、陛下と追いかけっこをしていたときに見かけた場所が多くあった。俺、結構長い距離歩いてたんだな……。陛下を追いかけることに夢中で気がつかなかった。
一通り回ってから、仕官の執務室に案内された。たくさんのデスクが並んだその上に、書類が積み上げられている。……見慣れた光景だな。ちょっと懐かしくなってきた。
でも、兄上の執務室と違うのは、たくさんの人がひたすらに手を動かしていることだ。書類を恐ろしい速さでさばく人、そろばんを弾く手が早すぎて残像しか見えない人。仕官って思ってたよりも重労働なのか?
「君たちにはこれから、ここにあるデスクについて働いてもらう。あそこに座っているのが君たちの先輩だ。決して仕事の邪魔だけはしないように。彼らは定時に帰ろうと必死だからな。」
定時に帰りたいって、奥さんでも家で待ってるのか?だとしたら羨ましすぎる。俺にもいい奥さんとの出会い方を聞かせてほしい。
「あと、仕事場はこの執務室だけではない。出張や視察もあるから、王城に篭りっきりになることはないから、安心してくれ。」
出張、か……。流石に新人だから、すぐに行くことはないだろうけど、遠出をするのは楽しそうだ。
「そして早速だが、一週間後に王弟殿下の外交について行ってもらおうと思う。新人から2人、君たちの先輩から1人だ。ユニファート・ハロイドに関しては、王弟殿下から指名を受けているため、もう1人決めるように。」
……。出張、もうご指名が来たな。しかも王弟殿下!俺が嫌がるとわかっててやってるのかあの人!大体指名なんてするなよ、初日から目立っちゃうだろ!
既に視線が集まっている……。学園で見た覚えのある人もいるし、俺の名前知ってるんだろうな…。思わず頭を抱える。
「あと、それぞれのデスクには名前が書かれている。自分の席について、上に置いてある紙に書かれている通りに仕事をしてくれ。わからないことがあったら、質問しに来てくれていい。それでは、解散。」
仕官長の号令で、みんなゾロゾロと自分のデスクを探し始めた。俺のデスクは扉から1番近いところにあったので、簡単に見つけられた。
席に着くと、紙に報告済みのものと、企画書やまだ仕官長が目を通していない書類を分けるようにと書いてあった。……今までとあまり変わらないのでは?
なんだ、案外簡単じゃないか。多少数字が大きくなっているだけだろう?とりあえず、目の前にある書類の山に手を伸ばす。
黙々と作業を続けていると、伸ばした手がスカッと空を切った。ゆっくりと視線をあげると、そこには王弟殿下が。俺が仕分けていた書類の山を手に持っていた。
周りを見ると、みんなすでに膝をついている。……やばいやつだこれ。椅子から滑り落ちるように膝をついた。
いくらなんでも集中しすぎだ、俺。書類取られるまで気づかないとかよっぽどだろ。はあ、と小さくため息をつくと、上から声が聞こえてきた。
「今度の外交の打ち合わせをしたいんだけど、ハロイドくんと他の担当の人、借りていくね。ついておいで。」
チラリと伺い見ると、王弟殿下は既に踵をかえしていた。指名を受けてしまったし、置いて行かれないようにと慌ててついていく。俺の他も担当らしき人ももう立ち上がっていた。
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