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二章 王弟殿下の襲来
陛下の兄弟
しおりを挟む少ししてやっと兄上は俺の頭を離してくれた。
「兄上、ちょっと長いですよ。腰が痛くなります。」
「ユニはまだまだ若いだろう?大丈夫だ。」
19でも、痛いものは痛いんですよ兄上…。ふぅとため息をつくと、兄上が口を開いた。
「そういえば、王弟殿下がそろそろ戻ってくるね。きっとユニが働き始める頃だから、お目にかかれるんじゃないかな。」
「王弟殿下、ですか?」
うん、と兄上が頷く。もしかして、王弟殿下も陛下の気持ちを知っていらっしゃるのだろうか。だとしたらものすごく恥ずかしい。
「王弟殿下もラインハルトに劣らず人の話を聞かない人だから、気をつけたほうがいいよ。ラインハルトみたいにはならないだろうけど。」
陛下より、話を聞かない…?俺が関わることは少なそうだけど、ちょっとめんどくさそうだな。それに気をつけるって何をだ?
もちろん陛下に弟がいることは知っていたけれど、一人っ子って感じがするから、存在を忘れていた。確か、陛下とは目や髪の色が違い、赤い髪に緑の目をしているはずだ。
陛下は、前国王陛下の血が濃く、王弟殿下は前王妃様の血が濃いため、色彩が全く違うのだ。まあ色彩は違っても顔立ちはどことなく似ているが。
そのあと、お土産について少し話して俺は自分の部屋に戻った。兄上が、馬に乗り続けて疲れただろうと気遣ってくれたのだ。
ベットに倒れ込むと、慣れ親しんだ香りに包まれて緊張がスルスルと溶けていった。気づかないうちに気を張ってたみたいだ。ほんと驚くような話ばっかりだったからな…。
まさか陛下が、俺の恋人になった人にことごとく圧力かけてたなんて…。最低だ、最低。
俺、好きな人に一年くらいずっとアピールしてそれで付き合えた人とかいたのに…。
「…アンナ嬢。」
告白に成功したのが学園の卒業式で、領地に帰ったあと、アンナ嬢からは手紙で別れを告げられた。食い下がるのは気色が悪い気がして、まともに理由も聞けないまま別れを承諾してしまった。
陛下が圧力なんてかけなければ、まだアンナ嬢と付き合えてたかもしれないとか思ってしまう。俺もすごく傷付いたけれど、簡単に別れを承諾されたアンナ嬢も傷ついたと思う。
…それは、俺のせいだけど。
陛下のこと、ちょっといいかもとか一瞬でも頭によぎっていたのが馬鹿みたいだ。
ふかふかの枕を抱きしめて、ベットの端から端までゴロゴロと転がる。
俺はまだアンナ嬢に未練タラタラだし、今さら事実を知って陛下がものすごく憎いし、なんであの時アンナ嬢に理由を聞かなかったんだろうって今さら思うし…。
付き合うことを了承してくれたくらいだから、少なからずアンナ嬢も俺のことが好きでいてくれたはずなのに。アンナ嬢が理由聞かれたくらいで、呆れるような人じゃないって知ってたのに。
自分の好きな人のことも信じれない俺が、陛下のこと最低っていう資格、ないかもしれない。
俺が悪いまんまだったら、仕方ないって思えるのに…。
それでも、陛下のことはちょっと周りが見えなくなってしまうぐらいに思っていたのに、周りのことなんて一ミリも考えてないじゃないか!特に俺の気持ち。
俺のことが好きなら、そんな回りくどいことしてないで会いに来てくれたらいいのに…。
悶々としながら転がっていると、ノックの音が聞こえた。
「ユニ、入るよ。」
兄上?とりあえず、承諾して寝室を出る。そこでやっと窓の外に目をやると随分暗くなっていた。
「もう夜ご飯の時間だよ、一緒に食堂まで行こう。」
俺がなかなか出てこなかったのでわざわざ呼びに来てくれたらしい。そのまま兄上についていこうとすると、クスリと笑われた。
「ユニ、髪の毛がボサボサだよ?」
兄上はそういうと俺の頭に手を伸ばして髪を整えてくれた。
「すみません、ちょっと寝ぼけてて…。」
恥ずかしくなり、首に手をやってはにかむ。
食堂に行く途中、兄上がいいニュースだと言って、ある話をしてくれた。
王弟殿下が帰ってくるそうだ。しかも、大国との商談をまとめて。
王弟殿下の情報でその性格について初めて聞いたのが、人の話を聞かないだったから、どんな人なんだろうと思ったが、とても優秀な人らしい。
優秀で話を聞かない。なんて、なんか変な人だな。
王弟殿下が今出向いている国は、俺たちの国がある大陸とは違う大陸で、その大陸まるまるひとつの国なのだ。最近、航海の技術が向上して、やっと行けるようになった国だから、もちろん国交などなかったわけで。それがもう貿易を開始するっていうんだから、王弟殿下は本当にすごい。
父上も外交官だったけど、毎回外交に出かけては神経をすり減らして家に帰ってきて、母上に抱きついていた。
普段は、父上が抱きついてくると思いっきり拒否している母上もこの時ばかりはポンポンと背中を叩いて父上を労っていた。
食事を楽しみながら、兄上と話を続けていたが、だんだん陛下のプレゼンをしてきたので無理矢理話を切り上げた。
「兄上、今は陛下の話聞きたくないです。」
「ああ、そう、だね。ごめんね?」
「別に、怒ってるわけではないですけど…。」
俺もそこまでこどもではないから、一生根に持つなんてことはしたくない。でも流石にまだ衝撃が大きいというか、受け止めきれないというか…。
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