11 / 40
一章 空回りな王様
もしかして…
しおりを挟む
「…。」
俺は何をしてるんだ、勢い余って陛下に壁ドンなんてかますなんて…。不敬にもほどがある。
しかも人目につくところで。いくら王族以外立ち入り禁止でもその前を通る人はいるよな…。結構遠くからだったけれど、障害物がないから、侍女の顔もこっちからバッチリ見えた。
「さっきのこと、まだ気にしているのか?」
「ええ、まあ…。」
落ち込んだ様子の俺を見ると陛下はため息を吐いた。顔を上げると陛下がすぐそばまで来ていた。そのまま俺の腕を掴み1人掛けソファへと誘導する。
「うわっ」
そこに陛下が座り、腕を引っ張られる。
…耐えた。流石に陛下の上に乗っかるのは気が引ける。いや、今更すぎるかも知れないが。
「なんだ、落ち込んでいる今なら、簡単に体を委ねてくれると思ったのだが。残念だな。」
陛下は俺をからかうように笑った。
陛下が許してくれるのなら、上にのっても良いのでは…?そんな血迷ったことを考えてしまうほどに俺は混乱しているらしい。
「では、失礼しますね。」
口から出てくる言葉だけは妙に落ち着いていて、自分でも変な感じがする。
陛下の足を開き、その間に腰を下ろす。陛下に背を預けると、陛下の腕が戸惑うように揺れて、俺の前で組まれた。本当に座ってくるとは思っていなかったらしい。
「お前は…俺の気持ちを知っているのに、このようなことを許すのか。」
少し苦しげに陛下が言う。
俺のことが好き。そう言っていた。意味も理解できる。でも、こんな風に触れ合いたいといった要求を陛下から聞いたことはない。それは我慢していたってことか?
確かに男は俺の恋愛対象ではないし、俺は家の利益になる結婚がしたい。
同性での結婚を制限する法律はないものの、世間から白い目で見られることは確かだ。
だから気づかってくれていた?権力で無理矢理というのも、できない話じゃないしな。
この国の国王陛下と恋人になる、又は結婚する。
貴族同士や平民同士ならまだ許されたかも知れないが、国王はただ1人。後継も産まねばならないお方の相手が男だなんて笑えない。
「どうした?口をつぐんで。」
言うべき言葉が見つからず、そのまま黙っていた。
「もしかして、さっきの侍女のことを気にしているのか?それなら安心しろ。うちの城の人間は皆口が固い。…それとも、まだ謝っていないからか?すまない、言い出すタイミングがなかった。お前の意思を尊重せず、自分勝手な行動をしてしまった。もうこんなこと二度としない。」
焦り、捲し立てるように陛下が言う。少しずつ陛下の腕に力がこもって来て、少し痛いぐらいだ。俺が勝手に考え込んでいただけで、陛下は悪い事など何もしていない。
「なんでもないですよ、少し考え込んでしまっただけで。陛下が俺のことすごく大切に思ってくれてるのも、俺が陛下に最低なことしてるのも、わかってるんですけど、何していいかわからないんです。それが、いまさら頭をよぎって…。」
「最低なことなんて何もっ…!」
陛下がすぐに否定をしてくれるが、俺はゆるく首を振った。
陛下に告白されて、俺はなんの返事もしてない。「もう少しお互いのことを知り合ってから…。」とか「お付き合いできません。」だとか答えようはいくらでもあって、自分でもわかっているのに放っておいている。
陛下に振り回されて困ることも有るけれど、なんだかんだ一緒にいるのは楽しい。自分が1番楽しい形で、1番面倒くさくも、罪悪感を感じることもない。そんな状況に甘えている。
「俺、陛下の告白に対してなんの返事もしてないじゃないですか。それなのに陛下の好意が心地良くて甘えてしまって…。はっきりしないまま自分の都合のいいように使ってる気がして。それってすごく最低だなって思ったんです。」
「…俺は、お前にどう思われていようとお前のそばにいられたら、それで幸せだぞ?もちろん1番いいのはお前も俺のことを好きになってくれることだがな。」
陛下が俺の目を見て、安心させるように微笑む。
なんで許してくれるんだ…?そんなふうに優しくされたら、また甘えてしまいそうだ。でも、ちゃんとしたい。
俺を好きになってくれるような優しい人に、不誠実な真似はしたくない。
「俺、ちゃんと自分の気持ちに整理つけて来ます。もちろん王城で働かせてもらいながらですけど、それまで陛下には会いません。」
「……そうか。気持ちの整理が終わらなくても、会いたくなったら会いに来い。いつでもお前なら歓迎してやる。」
陛下は俺の意思を尊重してくれた。だから、ちゃんと考えなくては…。自分が陛下のこと、どう思ってるか。
「じゃあ、失礼します。」
「俺も、執務室に戻る。途中まで送ろう。どうせ俺を追いかけるのに夢中で道なんて覚えてないだろう?」
「そ、そんなこと!…ありますけど…。」
前と変わらず接してくれる陛下に少し心が軽くなった。
…試験会場へ戻ると、詳しい説明がされた。実際に働き始めるのは一月後。それまでに準備を整えておくように。だそうだ。
俺は何をしてるんだ、勢い余って陛下に壁ドンなんてかますなんて…。不敬にもほどがある。
しかも人目につくところで。いくら王族以外立ち入り禁止でもその前を通る人はいるよな…。結構遠くからだったけれど、障害物がないから、侍女の顔もこっちからバッチリ見えた。
「さっきのこと、まだ気にしているのか?」
「ええ、まあ…。」
落ち込んだ様子の俺を見ると陛下はため息を吐いた。顔を上げると陛下がすぐそばまで来ていた。そのまま俺の腕を掴み1人掛けソファへと誘導する。
「うわっ」
そこに陛下が座り、腕を引っ張られる。
…耐えた。流石に陛下の上に乗っかるのは気が引ける。いや、今更すぎるかも知れないが。
「なんだ、落ち込んでいる今なら、簡単に体を委ねてくれると思ったのだが。残念だな。」
陛下は俺をからかうように笑った。
陛下が許してくれるのなら、上にのっても良いのでは…?そんな血迷ったことを考えてしまうほどに俺は混乱しているらしい。
「では、失礼しますね。」
口から出てくる言葉だけは妙に落ち着いていて、自分でも変な感じがする。
陛下の足を開き、その間に腰を下ろす。陛下に背を預けると、陛下の腕が戸惑うように揺れて、俺の前で組まれた。本当に座ってくるとは思っていなかったらしい。
「お前は…俺の気持ちを知っているのに、このようなことを許すのか。」
少し苦しげに陛下が言う。
俺のことが好き。そう言っていた。意味も理解できる。でも、こんな風に触れ合いたいといった要求を陛下から聞いたことはない。それは我慢していたってことか?
確かに男は俺の恋愛対象ではないし、俺は家の利益になる結婚がしたい。
同性での結婚を制限する法律はないものの、世間から白い目で見られることは確かだ。
だから気づかってくれていた?権力で無理矢理というのも、できない話じゃないしな。
この国の国王陛下と恋人になる、又は結婚する。
貴族同士や平民同士ならまだ許されたかも知れないが、国王はただ1人。後継も産まねばならないお方の相手が男だなんて笑えない。
「どうした?口をつぐんで。」
言うべき言葉が見つからず、そのまま黙っていた。
「もしかして、さっきの侍女のことを気にしているのか?それなら安心しろ。うちの城の人間は皆口が固い。…それとも、まだ謝っていないからか?すまない、言い出すタイミングがなかった。お前の意思を尊重せず、自分勝手な行動をしてしまった。もうこんなこと二度としない。」
焦り、捲し立てるように陛下が言う。少しずつ陛下の腕に力がこもって来て、少し痛いぐらいだ。俺が勝手に考え込んでいただけで、陛下は悪い事など何もしていない。
「なんでもないですよ、少し考え込んでしまっただけで。陛下が俺のことすごく大切に思ってくれてるのも、俺が陛下に最低なことしてるのも、わかってるんですけど、何していいかわからないんです。それが、いまさら頭をよぎって…。」
「最低なことなんて何もっ…!」
陛下がすぐに否定をしてくれるが、俺はゆるく首を振った。
陛下に告白されて、俺はなんの返事もしてない。「もう少しお互いのことを知り合ってから…。」とか「お付き合いできません。」だとか答えようはいくらでもあって、自分でもわかっているのに放っておいている。
陛下に振り回されて困ることも有るけれど、なんだかんだ一緒にいるのは楽しい。自分が1番楽しい形で、1番面倒くさくも、罪悪感を感じることもない。そんな状況に甘えている。
「俺、陛下の告白に対してなんの返事もしてないじゃないですか。それなのに陛下の好意が心地良くて甘えてしまって…。はっきりしないまま自分の都合のいいように使ってる気がして。それってすごく最低だなって思ったんです。」
「…俺は、お前にどう思われていようとお前のそばにいられたら、それで幸せだぞ?もちろん1番いいのはお前も俺のことを好きになってくれることだがな。」
陛下が俺の目を見て、安心させるように微笑む。
なんで許してくれるんだ…?そんなふうに優しくされたら、また甘えてしまいそうだ。でも、ちゃんとしたい。
俺を好きになってくれるような優しい人に、不誠実な真似はしたくない。
「俺、ちゃんと自分の気持ちに整理つけて来ます。もちろん王城で働かせてもらいながらですけど、それまで陛下には会いません。」
「……そうか。気持ちの整理が終わらなくても、会いたくなったら会いに来い。いつでもお前なら歓迎してやる。」
陛下は俺の意思を尊重してくれた。だから、ちゃんと考えなくては…。自分が陛下のこと、どう思ってるか。
「じゃあ、失礼します。」
「俺も、執務室に戻る。途中まで送ろう。どうせ俺を追いかけるのに夢中で道なんて覚えてないだろう?」
「そ、そんなこと!…ありますけど…。」
前と変わらず接してくれる陛下に少し心が軽くなった。
…試験会場へ戻ると、詳しい説明がされた。実際に働き始めるのは一月後。それまでに準備を整えておくように。だそうだ。
0
お気に入りに追加
577
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる